Fish On The Boat

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『恋しくて』

2023-02-13 21:15:07 | 読書。
読書。
『恋しくて』 村上春樹 編訳
を読んだ。

海外文学プラス村上春樹さんの書下ろし一篇、あわせて十篇の恋愛短編アンソロジー。各章末に村上春樹さんによる短評と甘苦判定星評価付き。

世の中には様々な種類の小説がありますが、やっぱり「王道」でも「ベタ」でも子どもがテーマでも大人がテーマでも、恋を扱う小説って多いですよね。純文学でもエンタメでもラノベでも、恋の占める割合は大きい。本書は、選者かつ訳者としての村上春樹さんが、そんな恋愛の短編小説、それも海外のもので未翻訳でそんなに古くないものを選び、さらにアンソロジーにするために努力して探し出した多数の掘り出しもの(?)をくわえて一冊にしたものです。

巻末に村上さん本人が述べていますが、純文学的作家の恋愛作品はストレートじゃない筋の物語ばかりで、さらには恋愛の大人度のとても高いものもあり、さまざまな恋愛レベルの作品が、ある意味ではごちゃっとした印象を持ってしまう集められ方をしています。

でも、どの作品も違う味わいでありながら、その味わい深さがあります。「ははぁ、こういう手の感慨がありますか」「いやぁ、こっちはまたさっきのとはかなり違うけど、これはこれでアリな味わいだね」というふうな連続なのでした。

同級生の少女を尾行する『テレサ』なんかは、腹を抱えてしまうおかしみも出てくるのですが、反対の切なさや辛さといった感情を揺さぶれる部分もあり、短い作品ながら振幅の広さに感心すると同時に、とても楽しめました。

また、『L・デバードとアリエット――愛の物語』は短編でありながらも長大な時間の経過を扱っていて、人生の甘みと苦味を十分に味わえる作品。苦味の部分がほんとうに辛いのだけれど、甘味に当たる部分の、二人が結ばれる直前の少女がモーションをかけている場面などは、文字の書かれた紙という次元にいるはずの自分が、そこをいきなりワープして突き抜ける気分で、頭のなかに「恋心が強く発現しているイメージ」が咲き誇りました。こういうのは読書体験として「なんて最高だ」と思えることの大きなひとつです。

というところですが最後に、あとがきから村上さんの一文を抜き出して紹介し、終わりにします。
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でもたしかにいろいろと大変ではあるのだけれど、人を恋する気持ちというのは、けっこう長持ちするものである。それがかなり昔に起こったことであっても、つい昨日のことのようにありありと思い出せたりもする。そして、そのような心持ちの記憶は、時として冷えびえとする我々の人生を、暗がりの中のたき火のようにほんのりと温めてくれたりもする。(p373)
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どうです、自分の心にも思い当たるなあ、なんて思ったりしませんでしたか?


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