日本を代表する名車と言えば NISSAN GT-R, そのGT-Rの開発、企画のみならず生産、カタログ製作、撮影、収益、品質、販売等の全権を当時の日産の社長兼CEOであるカルロスゴーンから任されていたのが水野和敏さん(MR.GT-R)、英国のトップギア的に表現するならばMIZUNO-SAN である。日産のフラッグシップであるGT-Rという車種に対して全ての権限が一人の人物に委託されたという事は特殊な事であり、裏を返せばゴーン社長から相当な信頼を受けていたのである。水野さんに影響を与えたのは織田信長であるとも言われているが、それは本質思考の在り方とそれを実行する力を信長を題材にした歴史書から学んだと水野さん自ら語られた事による。
富士スピードウェイを走る日産のレーシングカーに対する取り組みの発着も水野さんの本質思考を現している。レーシングカーを考える時に多くの人々は車体の軽量化と馬力のあるエンジンを組み合わせ最速な車に仕上げる事を目標とする。しかし、水野さんは異なる発着点を持っていた。サーキットを一周する内でアクセルを全開にして走る時間は全体の20%、残りの80%はアクセルを緩めて走っている。よって馬力や重量よりもコーナーでの立ち上がりを重視し、あえて低馬力のエンジンを採用しコーナーを曲がった後にフルスロットルが出来る事を重視した結果、数々のタイトルを獲得してきた。そこには多くの人が考えるようなレーシングマシーンはまず速さという概念は水野さんの発着ではなかった。
GT-Rの開発において水野さんはまず車体の重量に注目した。GT-Rのタイヤの設置面積が決まってから、では何KGの車体を載せればスタート時、コーナーリング、ブレーキング時、に最高のグリップ力が発揮出来るかを逆算し車重を1700KGに決定したところから始まった。その思考と発着から世界最高水準の動力性能を持つNissan GT-R は生まれたのである。即ちGT-Rというスポーツカーには水野和敏さんの開発においての発想の発着という目には見えない思考がGT-Rの存在の価値として有るのである。街でGT-Rを見かける度に発想や思考の発着という原点をその時々の自身の課題に対して問わしてくれる機会を得る事になる。
以下は水野さんのブログからの引用です。
R35GT-Rには「水野スペシャル」と呼ばれているユニットやパーツがたくさんあります。
ブレーキでは どうしても11年マイナーで 外径Φ390のローターを使いたいとの開発を依頼しましたが メーカーのブレンボからは「Φ380以上は理論的にできないし保証も出来ないので開発すら受けません」という返答が帰ってきました。
だけど簡単にできるんです。私の頭の中には「真っ赤な900℃のローターがキャリパーと一緒に歪みながら回っている姿と、一般道路できちんと全く歪みなく鳴きも出さずにガチッとパッドとローターが働いている画像」がだからこの様にすれば直ぐ出来るという図面も完成していたから依頼したのです。。
すごく簡単なのにどうしてこのような答えが返ってくるのか?
勿論直ぐブレンボに「この製品の全責任は私が持つ、製造だけは責任を持ってください」というお願いをし、了解が得られたので自身の手で開発をスタートし、私が ブレーキローターやキャリパーの詳細図面指示をしてから5か月後には、部品の修正手直し無く、サーキットや全ての実験をクリヤし 工場の生産ラインから市場に出荷されていきました。
これはブレーキに限った事で無く、「カーボンとアルミダイキャスト、鋼板という3種類の複合材料を使ったモノコックボディーについても同様に車が走り出すと、外から車を見ているだけなのに「ボディーの微小な変形や全ての部位の動きや撓みなどが手に取るように頭の中で画像が見えてしまう」し、サーキットでピットからストレートを走って行く車を見ると「エンジンの中の炎が燃えている姿、ガソリンと空気が混ざってシリンダーの中に入っていく様子、オイルパンの中でオイルが暴れまわっている姿等 ありとあらゆる物、点火時期の火の付き方」までもが頭の中で見えてしまうし、トランスミッションの中のクラッチが0.1秒で繋がる瞬間のオイルの流れやプレートの歪みまでが見えてしまうのです。
これはタイヤ等でも ピットに戻ってきて タイヤに手を当てるだけで「何処のコーナーでアンダーステアが出て、何処でリヤが流れ ドライバーがどんな修正をしたのか」頭に画像が出てわかってしまうのです。たまに鈴木利男ドライバーには「じゃあなんで走ってテストするの、しなくたって解っているならいいのでは…」等と言われた事も何度かあります。
タイム計測も ピットから出て一コーナーを回った姿から帰って来た時の ラップタイムが解ってしまっていたのです。周囲には「〇〇秒で帰るよ」と言っていました。
R90CPからR92CPまでのレーシングカーのカーボンモノコックや、サスペンション、カーボンブレーキ、トランスミッション そしてR35GT-Rの主要ユニットや部品の「水野スペシャル」と呼ばれているほとんどの開発は 解析や計算などの行為は全く無く、頭の中に出る画像の結果から開発しているものです。
ですから 全てこの様な普通なら2~4年必要な開発が 数か月で生産ラインに乗ってしまったのです。⇒チームのメンバーは知っていますが…
何故この様な事が出来るのか自分でも解らなかったし、周囲の人に言っても
「そうですね、素晴らしいですね」という会話しかなかったのです。
今年になり 素晴らしいことが起きました。
皆さんご存知の 「オセロ中島さん対応」で最近話題になっておられる 認知科学者で有名な 苫米地英人 先生と何回かお話をさせていただく機会が有り 先生にこれらの事を話し相談したところ 「人間にはもともとそういう事が出来る能力が備わっている。これは抽象度がすごく上がった状態でこれをできる人は殆んど居ない。アメリカではこれらの人は軍事開発の最先端に従事している」つまり 人間は言葉が生まれる遥か以前に生まれ、言葉が生まれるまでの間は 感性ですべてを感じ取ることが出来た。しかし言葉というコミュニケーションのツールが出来てからは 言葉の限界の中で思考をするように成った為 感性の能力が死んでしまった。
抽象度を上げるためには「夥しい数のデーターと、ケーススタディーをした結果と 目的や目標を明確に見える画像レベルまで上げた意識が必要」その結果抽象度はあげられる。
「水野さんは 数少ないそれらの人です。つまり GT-Rという車は 車では無く、水野さんの分身となっているから全てが診える」という事でした。「きっと水野さんはGT-Rについては どんなに小さいネジの一本まで解っているでしょう」という事もおっしゃられていました。
⇒この通りなのです。「先生に会えた事、そしてお話しできた事、そして自分が知りえた事」、全てが私にとって素晴らしかったし 何より話をしていてすごく安心でした。周りにこの様な話の安心感のある人は カルロスゴーンCEOと苫米地先生しかいません。
GT-Rは水野さんの頭の中にあった画像から生まれたと言う事だ。これはいったい何を教えてくれているのであろうか?文章ではそれを感性の能力と表現している。誰かが言っていたが“ひらめき”ではじめた事は失敗しない、なぜならそれは神の力であるからだという事に近い。我々は仕事や生活の中で様々な活動を行っているが、これからのより良い未来を開く為には自身の中に眠っている感性の能力を導き出すという事を意識する事によって突破点が見つかるんじゃないかと思っている。