マンハッタンの中華街で一軒の小さな中華料理屋に入った。歩道から店の中を見るとガラス窓に大きく貼られたメニューの後ろには北京ダックがぶら下げてあり、その傍には調理場があり2、3人の中国人の痩せたおっさん達が蒸気の中で忙しく動き回っている。入り口のドアを引いて中に入ると、暖かい湿った空気と共に醤油がかった中華の匂いがつーんとする。調理場の隣にはレジが隣接しており3人程のお客さんがテイクアウトの順番を待って通路を埋めていた。お客の一人は中年の中国人の女性であった。その女性はダウンジャケットをパンパンに着込みマフラーと毛糸の帽子で完全防寒しており、その後ろを通りぬけるのにエクスキューズ、ミス、エクスキューズ、ミーと声をあげながら両手を上に挙げて通り過ぎる。赤いベストを着た支給人のおっさんと目が合ったので2人(Two)といって5歩程歩き相席に案内され支給人はメニューを置いて無言で下がった。
遅い昼食とはいえ店の中は埋まっていた。メニューには料理がびっしりと書き込まれており、ある程度食べたい物にめぼしを付けておかなくては選択に困るという感じだ。直ぐに支給人のおっさんがまたやってきて熱いウーロン茶を注いでくれた。すかさずペンを取り出して無口で立っている(メニューを告げろ)というサインだ。僕は隣のテーブルで中国人のじーさんがレンゲを使って食べているワンタンが美味しそうだったので、あれが欲しい、と告げた。ワンタン麺。友達はメニューを眺めていたが決まらなかったので口頭であれあれ、とぶら下がっている北京ダックを指差した。ご飯か麺かを聞かれて、スープ麺と答えた。
店に入ってから食べ終わって出るまで30分程であった。シンプルな中華麺(ソバ)は体を温めてくれた。その後は隣接したパン屋に入ってコーヒーとお餅を買って、歩きながら食べた。歩きながらふとビルの壁に描かれた大きなおっさんの絵に目が止まる。SUPER BOWL SUNDAY 、2月1日(日曜日)は寒中のビッグイベントなのだ。チョコレートバーの宣伝絵なのだけど、このビル絵を見ると中華街のワンタン麺と重なる。
今日はスーパーボールサンディ。ピザやバッファーローウイング(鳥の毛羽先)が最も消費されるこの夕方。やはり、あの中華街のごたごたの中にある質素な食堂で食べるワンタン麺が恋しくなる。今週もまたあの店に顔を見せる事になりそう。