万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

エジプトの混乱-権力分立なき民主主義の独裁リスク

2013年01月26日 15時40分25秒 | 中近東
現体制への怒り渦巻く=ムバラク政権打倒デモ2年―エジプト(時事通信) - goo ニュース
 2011年、エジプト国民は、長期にわたって君臨してきたムバラク政権を倒すことで、独裁体制から決別したはずでした。ところが、民主化されたにも拘わらず、新たに選出されたモルシ大統領に対して、再び国民の間から、独裁反対の声が沸き起こっています。

 民主的な体制とは、統治過程に国民が参加することができる体制を意味していますが、今日の制度においては、参政権を持つ国民が、自らの自由意思に基づいて公職に立候補したり、政治家を選ぶことに力点が置かれています。民主的選挙制度そのものは、権力の分立を定めているわけではないのです。このため、憲法において権力分立を制度化しませんと、常に、独裁に回帰する危険性があります。この状態では、集権的な独裁権力を抑制する仕組みを統治機構に組み込まない限り、何度でも独裁者が誕生するのです。つまり、独裁者の顔が入れ替わるだけであり、独裁体制そのものは、変わらないのです。このことは、民主化だけで満足してはならず、エジプトは、その先の権力分立の実現に取り組むべきことを示唆しています。権力分立が実現すれば、議会機能が強化され、国内の利害調整が円滑化されますし、独立性を保障された司法機関があれば、不当な政治介入などから国民の自由と権利が保護されます。権力分立は、民主主義と並ぶ重要な価値、すなわち、自由、法の支配、基本権の尊重といった、他の諸価値を実現するためには、不可欠な制度的な仕組みなのです。

 エジプトについては、分裂含みのアラブ諸国の実情を考慮すれば、強権的な独裁体制の方が相応しいとする意見もあります。しかしながら、アラブの春の勝利を自負するエジプト国民が、独裁体制の再来を許すとは思えず、再独裁化は、政情不安を深めるばかりです。エジプトが、真に安定した国家を築くためには、越えてゆくべき山が、もう一つ、聳えているのです。エジプト国民の勇気をもってすれば、必ずや、この山を越えてゆくものと、信じたいと思うのです。

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2 コメント

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Unknown (ねむ太)
2013-01-26 17:52:32
こんにちは。エジプトに限らず中東・アフリカの民主化を阻む最大の要因はテロリストが広く庶民の間に浸透し、貧しい庶民の生活を支えている側面があります。
エジプトのスラム街・ヨルダ・等の地域では食料や医療・教育等の面倒を見ているのはアル・カイーダと呼ばれるテロのネットワークです。
その中で優秀な若者をスカウトしテロリストに仕立てる。
民主化とテロの戦いは表裏一体です。
テロを撲滅しても経済的な恩恵を国民が得られなければ反政府運動は再燃するだけです。
テロとの戦いに多額の国費を費やし、観光客誘致もままならない状態です。
観光業だけでなく製造業や科学的な技術を育成できなければ経済成長は難しいものがあります。
原料を仕入れて加工して付加価値を付けて売る、発明や発見で得られた特許で収入を得る。
お金の正体は価値の創造にあります。
製造業でも付加価値がお金であり、より多くの雇用があって価値創造が大きくなればGDPも大きくなります。
雇用が増え、国民所得が増大すれば税収も増え国は豊かになるのですが、その反対に商品の価格が下落し雇用が失われ所得が減少すればデフレになります。
エジプトに限らず中東・アフリカの抱える大きな問題は、
テロリストや政情不安による内戦の恐れから先進国からの投資が十分に呼び込めないてんにあります。
フランスやオランダなどイスラーム系の移民を受け入れたことによりテロの拡散を招き欧州もイスラームに乗っ取られる危機も囁かれ始めています。
テロや政情不安を利用して立ち回っているのが中国であることも見逃せません。
資源確保のためにはテロによる破壊工作や政情不安からくる内戦などお構いなしです。
オバマ政権に変わってから中東・アフリカなどへの米国の影響が低下の一途を辿っている事も混乱に拍車をかけています。
国際社会が中国を封じ込め、テロ撲滅のために協力しなければ問題の解決は難しいものがあります。
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ねむ太さま (kuranishi masako)
2013-01-26 22:10:12
コメントをいただきまして、ありがとうございました。
 エジプトには、確か、スエズ運河の通航料といった収入源があり、政府が、本気で取り組めば、テロリストによる貧民救済に頼ることなく、貧しい国民に対して福祉政策を実施できるはずです。モルシ大統領は、この点、イスラム原理主義の支持を得ていますので、自らの出身母体の政治基盤を失いたくないのでしょう。民主主義とは、全ての国民が参政権を持ちますので、多数の貧者をそのままの状態にしておくほうが、票になるのかもしれません。治安が安定して、経済成長すれば、支持者の方は減るのですから、モルシ大統領に、積極的な治安改善や経済のテコ入れをする動機が働かないのです。脱出し難い負のスパイラルに入っているのは、我が国の民主党時代と同じであり、どこかで、この負の連鎖を断ち切る必要があるようです。それは、エジプトのみならず、イスラム世界全体の課題でもあるかもしれません。国際社会は、テロ撲滅に協力すると共に、経済のメカニズムに関する知識をイスラム諸国に伝える必要があると思うのです。
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