万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

自由なリビア―反省なきシルトの人々

2011年10月25日 15時35分29秒 | 中近東
カダフィ時代懐古する住民=解放に沸くリビアで不気味な静寂―大佐故郷シルト(時事通信) - goo ニュース
 自由で民主的な国家の建設に向けて、その大事な一歩を踏み出したリビア。激しい内戦を闘ったために、国民統合も新政権の重大な課題もあります。こうした中、カダフィ派の中心地ともなったシルトでは、独裁時代を懐かしむ声が聞こえるそうです。”カダフィ時代には、自由があったが、今はない”と…。

 カダフィ独裁体制下にあっては言論や思想の自由が弾圧され、独裁者に対して国民が批判をしようものなら、過酷な運命が待ち受けていたことは、よく知られています。カダフィ時代のリビアには、自由は抑圧されていたのですが、一部の人々だけは、自由を謳歌したようです。それは、独裁者とその家族、そうして、その取り巻きということになります。独裁者の出身地に近いシルトは、まさに、この”取り巻き”であり、他の国民には許されない”自由”も”権利”も特別に与えられていたのでしょう。いわば、社会主義型の独裁体制における極少数の特権階級であったわけです。カダフィ氏の財産も15兆円にも上ると報じられていますので、シルト周辺にも特別に予算がつぎ込まれたことも想像に難くありません。こうした独裁体制における国家の”私物化”こそが、内戦を引き起こしたのであり、他の国民に対する冷淡な無関心と自己の自由と特権さえ享受できればよしとする利己主義こそが、国土を引き裂いたのです。

 シルトの人々が、カダフィ時代における独裁の悪弊も、他のリビアの人々の不自由と不幸をも理解していないとすれば、これは、大いに問題です。リビアの運命を担う新政権は、全ての国民の基本的な自由と権利が守られる、自由なリビアを建設することによって、シルトの人々を含む全リビアの国民に、この内戦の意義を伝えるべきと思うのです。

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6 コメント

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Unknown (a)
2011-10-26 00:01:40
カダフィ一族は金もたくさんもってるけど
オイルマネーは比較的広く
国民も恩恵を受けてる。だから独裁も長く続いたんだよ。おまけにこの辺は宗教や部族間の
問題も大きいから僕らの考える自由は
ないと思います。
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aさん (kuranishi masako)
2011-10-26 07:07:05
 オイルマネーは、もとよりカダフィ氏の独占物ではありませんので、”公平な配分”をもって正当化するのは、おかしなお話です。それよりも、国民の多くは、言論の封殺、反対者への弾圧、イデオロギーの押し付けに反発を感じ、嫌っていたのではないでしょうか。リビア国民は、奴隷根性の人ばかりではないのです。また、もし、カダフィ氏が国民に信頼されていたとしたら、傭兵を使う必要もなかったはずです。独裁体制の醜悪から目をそむけてはならないと思うのです。
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Unknown (Suica割)
2011-10-30 00:10:53
もう少し現地の実態にそくして言うと、不平等ながらも生活出来るくらいには分配があった時期は嫌われながらもなんとかなってました。
それが機能しなくなり内戦になったのです。
自由はないけど、怖いし、今は食えるから我慢しようから、食えないし自由も無いし暴れてみようへの変化です。
カダフィが生き残りたければ、私財ばらまきかすぐに逃げるかしかなかったのですが、そんな常識も無くなっていたんでしょうね。
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Suica割さん (kuranishi masako)
2011-10-30 09:46:37
 ”権力は腐敗する”という格言がありますが、Suica割さんの見解ですと、恐怖政治に加えて、カダフィ政権の国家私物化が進んだからこそ、内戦が発生した、ということのようです。何れにしましても、独裁体制には、統治システムとしての重大な欠陥がありますので、やがて消え去る運命にあるのかもしれません。
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Unknown (a)
2011-10-31 00:32:17
アフリカの内戦の原因ってそれだけじゃないんですよ。死の商人が少数民族に安く
高性能の武器を売って訓練させる。
その少数民族は支配民族に対してクーデターを
仕掛ける。あわてた支配民族は同じ死の商人から今度は高く売りつけられる。だけど負けたら終わりだから高値で買う。その繰り返し。
結局この地域には永遠に平和は訪れない。
場合によっては独裁の方が幸せだったりすることもある。
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aさん (kuranishi masako)
2011-10-31 15:12:31
 独裁者であったカダフィは、部族間の対立を緩和するどころか、出身部族を優遇する一方で、外国人傭兵を雇い、自国民に銃口を向けたのではなかったでしょうか。独裁ではなく、この問題は、別の方法を以って解決すべきではないでしょうか。
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