万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

オリンピックから見える権威主義体制の造り方

2021年08月13日 11時46分36秒 | 国際政治

 先日、紆余曲折の末に開催された東京オリンピックが閉幕することとなりましたが、今般のオリンピック程、IOCが批判の矢面に立たされた大会はなかったかもしれません。その主たる原因は、華やかなスポーツの祭典の背後にあって蠢く巨額利権をめぐるダークな側面や特権意識が表面化したことにありましょう。オリンピック、あるいは、IOCに対する好感度も低下し、開催国である日本国内でも不満をもらす国民も少なくなかったのです。時差の問題もあり、アメリカでも視聴率が大幅に低下したそうですが、地盤の’揺らぎ’に危機感を覚えたのか、IOCは、権威主義体制強化の方向に動こうとしているようにも見えます。

 

 権威主義体制とは、人々がその心理において特定の対象に対して’権威’を認めることによって成立する体制です。何れの国にあっても’権威’というものは存在しますし、それを振りかざす側であれ、服従する側であれ、権威に頼ろうとする権威主義的な性格の人はおりますが、とりわけ国家といった公的な組織体にあって権威を体制維持の要とする形態は、権威主義体制とも呼ばれているのです。

 

 実を申しますと、権威主義体制にはそれを造り出すノウハウというものがあります。先ずもって重要となるのは、ある人物やタイトルなどを従うべき’権威’であると人々を信じ込ませることです。このために用いられる最も典型的な手法は、権威の演出です。これには、人々の崇敬の対象としての’権威’、並びに、権威演出を担う’実行部隊’の両者を要します。’実行部隊’とは、所謂’さくら’、あるいは、’おとり’というものであり、他の一般の人々を誘導する役割を担っているのです。例えば、ある’権威’とされる人物が登場した際に、予め配置された‘実行部隊’が一斉に歓喜の声を上げたり、ひれ伏したりしますと、周囲の人々も思わず釣られてしまいます。いわば、集団にあって働きがちな同調性を利用した誘導方法と言えましょう。そして、いつの間にか社会全体の上に絶対的な権威が君臨してしまい、同体制に疑問を抱いたり、権威主義に反対する人は白眼視されてしまうのです。

 

 同手法は、シェークスピアの『リチャード3世』には狡猾なリチャード3世が試みる場面が描かれており、程度の差こそあれ、古今東西を問わずに用いられてきた一般的な手法なのでしょう(現代であれば、社会・共産主義体制国家における’指導者礼賛’の演出が典型例…)。古典的な手法とは言え、今日には、マスメディアという強力な国民誘導装置が存在しておりますので、集団を対象とした心理操作は比較的容易に実行することができます。そして、今般の逆風下で開催された東京オリンピックでも、自らの権威付けに勤しむIOCの姿が垣間見られるのです。IOCは、オリンピック精神の普及、発展に貢献した人に贈られる功労章である「五輪オーダー」にあって最高位となる金章を、菅義偉首相、東京都の小池百合子知事、並びに、大会組織委員会の橋本聖子会長に授与したというのですから。特に同章の首相や都知事への授与は、従来の慣例から外れた特別なものなそうです。

 

 ここに、バッハIOC会長から菅首相や小池東京都知事が金章を恭しく授けられる構図が成立するのですが、この構図、授与する側、即ち、上位者はIOC側となりますので、IOCの博付けには好都合となります。IOCによる金章授与については、’コロナ禍にあって我慢を強いられた日本国民にこそ授与すべき’、あるいは、’日本国民を犠牲にしたご褒美’とする批判的な声もあったそうですが、そもそも、IOCとは、一国の首相に対して功労賞を授与するほどの’権威’なのか、という疑問こそ、呈されるべきなのかもしれません。IOCが、全世界の諸国を睥睨する国際レベルにおける’権威主義体制’の確立こそが、自らの生き残りの道であると信じているとしたら、それは時代錯誤のようにも思えます。

 

 権威主義体制とは人為的に造られるものであり、しかも、そのノウハウまで存在していることを知りますと、IOCの意図するところも見えてきます。そして、この権威主義体制の問題はIOCに限ったことではなく、中国や北朝鮮といった全体主義国のみならず、自由主義国にあっても他人事ではないのです。人々が自然な感情として抱く尊敬心から生じる権威こそ本物と言えるのでしょうが、体制維持を含めた自己保身、及び、優位感、名誉欲、支配欲、自己顕示欲、あるいは、私利(巨大な利権…)に基づく演出された権威については要注意と言えましょう。今日、人類は、今一度、’権威’というものを、冷めた目で見直してみるべきではないかと思うのです。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 遺伝子ワクチン動物実験の不... | トップ | ワクチン・リスクはQ&Aより... »
最新の画像もっと見る

国際政治」カテゴリの最新記事