万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

衆議院解散に大義はあるのか?

2017年09月20日 15時36分33秒 | 国際政治
安倍首相 25日に会見 解散に踏み切る理由を説明へ
訪問先のインドから安倍首相が帰国した途端、俄かに持ち上がった衆議院解散論。取ってつけたかのように、解散理由として、消費税率10%上げと歳入増加分の“人づくり革命”の財源化が謳われていますが、どのように考えましても、この説明には納得できない部分が多すぎます。
 
 第1に、消費税率を10%に上げる方針が示された際に、政府は、巨額の財政赤字を解消するために増税は必要不可欠であると国民に説明してきました。財政健全化のためであるならば致し方ない、として増税を支持した国民も少なくなかったはずです。ところが、今般、当初の目的を“人づくり革命”なる目的に変更するとなりますと、国民は、政府に騙されたと感じるでしょう。また、置き去りにさ財政健全化を口実にして、将来的には、消費税率が10%からさらに12%、15%、20%と吊り上げてゆくのではないか、と国民は身構えることでしょう。

 こうした疑問に対しては、増税目的の変更を実現するためにこそ、衆議院を解散する必要がある、とする反論が返ってくるかもしれません。しかしながら、第2に疑問な点は、この争点が、総選挙に訴えるほどの緊急性が認められないことです。“人づくり革命”については、大学無償化等の方針も示されているため、実現性や政策効果等については様々な批判や慎重論もあります。また、“人づくり革命”なる不穏な用語が出現してから半年も経ておらず、時間をかけて十分に議論を尽くすべき議題でもあります。現時点で国民に是非を問うには無理がありますし、早急な判断は迫ることは、国民に対して酷でさえあります。

 第3の不審点は、メディア等の報道によれば、加計学園問題等で低下傾向にあった自民党支持率が持ち直し傾向にあることが、首相が解散を決意した理由として指摘されていることです。自民党支持率の主たる回復要因は、北朝鮮問題に対する現政権の毅然とした姿勢にあると推測されますので、今の時期に解散に訴えるならば、憲法改正等を含む北朝鮮問題への対応を国民に問う方が筋は通っています。ところが、一般国民の関心も支持も高い安全保障分野ではなく、国民の負担増を意味する増税、並びに、怪しげな“人づくり革命”の財源化を選挙の争点と据えるのですから、国民も首を傾げざるを得ません。しかも、北朝鮮問題を基準に自民党に投票すると、自動的に増税等に合意する“抱き合わせ販売”なのですから、国民が、どこか騙されているように感じてもおかしくはないのです。

 そして第4の不審点は、解散が予定されている時期こそ、アメリカが対北武力行使に踏み切り、朝鮮半島が有事となる可能性が高いことです。国民の多くも、“よりよって、何故、この時期に…”と驚きを禁じ得なかったはずです。もちろん、総選挙を実施することで、北朝鮮系の議員を落選させるという思惑が隠されているかもしれませんが、有事に際して日本国政府は万全な対応がとれるのか、不安が残ります。また、総選挙は、政党レベルでの候補者の選定、並びに、情報操作や隠蔽次第では、逆に、親北派、あるいは、北朝鮮系議員を増やす結果となる可能性も指摘できます(韓国では、親北派の大統領が当選…)。

 以上に主たる不審点を述べてきましたが、首相の衆議院解散の判断と国民意識との間の“ずれ”は深刻なように思えます。自民党は、支持率の上昇を追い風にできると期待しているのかもしれませんが、国民にとって理解しがたい唐突な衆議院解散は、むしろ選挙に際して与党にマイナスに働き、結果として肝心な時期に日本国の政治が不安定化するのではないかと懸念するのです。

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6 コメント

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脱シルバー民主主義 (北極熊)
2017-09-20 16:20:54
消費税を、8%、10%へ段階的に上げる法案が通ったのは、民主党の野田政権です。野党・自民党もこの時反対しなかったのですが、そこには解散総選挙と刺し違えるという国会運営上の駆け引きがありました。民主党政権下で景気浮揚や税収増への努力無く、財政健全化のために消費税増税が必要だと財務省に説得されていました。 安倍政権は、こうして決まった増税のうち第1段階の8%へのステップはそのまま実施しましたが、10%への増税には抵抗し先延ばしして、一方で、政権担当中の間、景気浮上を実現させています。 「人づくり」という言葉はともかく、社会保障が高齢者向けに偏っているという事からの是正というのは、シルバー民主主義と揶揄されてきた状況からの脱却と言うテーマとしては、それなりに総選挙のテーマになる価値はあると思いますね。 
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Unknown (オカブ)
2017-09-20 18:43:17
倉西先生
いつもご指導ありがとうございます。
突如、湧き出した9月解散説と、その背景を説明する解説を観るに、この時期の解散、国会冒頭解散は、一に自民の支持率が回復していること、そして国会論戦で森友・加計を蒸し返されないうちに、解散総選挙を打って、解散前とは言わなくとも、最低、自公で三分の二を確保する選挙結果を見越してのこと、というのが最も可能性が高いと思います。
それは「政治力学」の問題なので、先生ご指摘のように、そこに「大義」はありません。
さらに先生ご指摘のように、「人造り革命」と「消費税増税」を結び付けた、取ってつけたような公約も不自然です。
もちろん、安全保障問題が最大の争点になるわけではありません。
しかし、自民は公約に改憲と緊急事態対応を盛り込む発言をしているので、北朝鮮危機を全く、無視していることはないと思います。
ここで、先生と私とでは安倍政権に対する捉え方が僅かに異なっていると思うのですが、それはそれとして、私も安倍政権の行動が全面的に正しいなどとは毛頭考えていません。
そして、折角、デフレの脱却の兆しが出てきたこの時期に、なぜ消費税増税か?
今回発表された安倍政権の経済政策は理解することができません。
しかし、私は安倍政権の支持率が、各種調査の平均をとっても40%超あることに注目したいと思います。
これは、北朝鮮危機を受けてのタカ派支持の傾向を表すものとしても、総選挙後、安倍政権が安定政権として為政することを意味するのではないでしょうか?
私は選挙の投票で、ある時から、その時に最も支持率の高い政党の支持者に投票することにしました。
これは、いかなる政策をとるか否かよりも、安定した政権であることが、日本の政治シーンで、最も重要で国益にかない、私のような庶民にも恩恵を被ることが大きいと判断したからです。
ですから支持率が高く、安定政権が望めるなら蓮舫・民進党であっても投票するつもりでした。
ですから、森友・加計で攻め続けられ、支持率が更に低下していれば、私は自民を見限って、他の政党(維新?「日本ファースト」?ちょっと適切な党が思い浮かびませんが)に投票することになったと思います。
ただ、ここでの先生が挙げられた論点はこの解散に大義があるか?そして、この時期に選挙をすることが適当で政治の安定化につながるか?ということです。
私は一点目はすでに申し上げたような取ってつけたようなお題目はあるものの、大義はない、と思います。
二点目は、確かにこの時期の解散は国民にとって唐突であり、、森友・加計以前の自民が高支持率を得ていた頃のような、安定した政権運営はできないと思います。
しかし、これも既に申し上げたように、この解散は「政治力学上」の判断であり、以前のような安定は望めないものの、一番、自民が勝てるであろう時期の解散総選挙であり、最善ではなくとも、選択しうるなかでは「比較的」安定した政治が期待できるものと思います。
私も、安倍政権の欺瞞には辟易していた身であり(尤も政治家の欺瞞は安倍政権だけではありませんが・・・)、公約違反も多々あると思っているので、「安倍政権」を支持しているわけではありません。
しかし、現在、最も安定を望める政権は安倍政権であることは残念ながら安倍政権であることは認めざるを得ない事実であり、その安定を維持するためには、この時期の解散は致し方ないかな?と考えざるを得ません。
それも現在の政治シーンでは安定政権の存在が最も国益に適っていると考えるのが理由です。
その日本の政治の特殊性は、細かい個別の政策では異なっていても、憲法解釈や外交雄安全保障などの国家の骨格では共通した英米の二大政党のような存在を欠いているのが原因となっていると思います。
結論を繰り返せば、今回の解散は大義もなければ、国民の不満もあろうが、致し方ない時期の解散総選挙ではある、と考えます。
今日は、先生のお言葉を返すような形になり、ご無礼の段お許しください。
私のような浅学菲才の者がいつも僭越なことを述べさせていただくのは、誠に申し訳ないことと存じますがご寛恕ください。
今後ともご指導の程お願い申し上げます。

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北極熊さま (kuranishi masako)
2017-09-20 19:41:04
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 社会保障の高齢者への偏りを是正するというテーマにつきましては、確かに、国民に問うべき政治的な争点であるとは思います。ただしかし、受益と負担のバランスの問題でもありますので、十分に議論を尽くした上で、選挙において国民に問うという形の方が自然なように思えます。”何故、今、解散なのか”という疑問につきましては、国民が納得するような説明とは言えないのではないでしょうか。しかも、実際に、大学無償化等を実現しようとしますと、対象者は誰か(属地主義or俗人主義?)、といった問題を含めて課題が山積しております。突然に、こうした複雑な問題に対して是非を問われましても、国民は、適切な判断を行う時間的余裕も、十分な情報もなく、結果的に不利益を被ることになりかねないのではないかと懸念しております。
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オカブさま (kuranishi masako)
2017-09-20 19:52:10
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 オカブさまは、博学でおられますので、こちらこそ貴重なご意見をお聞かせくださいまして、恐縮いたしております。

 さて、今般の解散総選挙の件ですが、民主主義国家におきましては、政治力学とは、国民の支持率によって恒常的に変化しますので、現時点での”安定”は、明日の”安定”を約束しないように思われます。むしろ、政治とは、”一瞬先は闇”なのかもしれません。そうであるからこそ、今般の総選挙は理解しがたく、国民に不安を与えているのではないでしょうか。否、総選挙への批判から、与党は、支持率を落とす可能性もあるのです(結果は逆になる)。確か、イギリスでも、保守党圧勝が予測されながら、結局、安定多数を得ることができず、メイ首相は、連立を組まざるを得なくなりました。また、陰謀論を考慮しますと、インドから帰国後の唐突な総選挙決断には、海外勢力の思惑が潜んでいる可能性もあります。またもや、日本国民が騙されている可能性も、否定はできないように思えるのです。
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Unknown (北極熊)
2017-09-21 12:43:33
”何故、今、解散なのか”については、表向きは「選挙の争点・テーマについて、今、「新しい判断」を考えたから」としか、総理からは言えないのではないかと思います。 
想像ですが、来年の暮れに任期切れとなる衆議院は、アメリカが北朝鮮に対する軍事攻撃に踏み切る前に、総選挙をやっておきたいから、ということじゃないかと思いますね。 
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北極熊さま (kuranishi masako)
2017-09-21 13:21:22
 お返事をいただきまして、ありがとうございました。

 緊迫度を増す北朝鮮問題への対応であれば、むしろ、国民は今般の解散総選挙を支持するのではないでしょうか。仮に、真の目的が安全保障問題にあるならば、正直に、国民に説明していただきたいと思うのです。少なくとも、消費税率10%上げや訳の分からない”人づくり革命”を以って”争点選挙化”しますと、自国の安全の確保=国民の税負担増と”人間改造”(もしかしますと、搾取体制の強化?)…ともなりかねず、一般の国民の反感を招くことになると推測されるのです。
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