万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

アメリカ大学の抗議デモを考える-真のアメリカのヒーロー達

2024年05月07日 10時10分09秒 | アメリカ
 アメリカでは、コロンビア大学に始まる対イスラエル抗議デモが全国的な広がりを見せております。同抗議デモを前にして大学当局は厳しい取締を開始し、警察に出動を要請したことから2000人を超える学生が逮捕される事態に発展しました。デモに参加した学生達に対する退学処分をも辞さない構えも崩しておらず、コロンビア大学では、今月15日に予定されていた卒業式も中止されると報じられております。

 デモが混乱をもたらした原因は、学生側による大学建物の占拠ともされ、この行動が大学側に警察介入の口実を与えることとなりました。このため、学生活動組織の中には、デモの過激化を企む外部者が混じっているとの指摘があり(大学側も同見解・・・)、仮に外部からの扇動工作であれば、‘同工作員’の正体については、凡そ二つの見方ができます。

 第一の推測は、イスラエル対パレスチナ、あるいは、ユダヤ教徒対イスラム教徒の対立構図にあって、後者側が学生デモを組織もしくは支援したとする見方です。昨今、アメリカでもイスラム教徒の人口が増えると共に、多様性の尊重方針から全学生数に占めるイスラム系学生数も割合も高まっています。このため、イスラム系の学生が率先してデモをリードした可能性もないわけではありません。もっとも、報じられている学生デモの動画や画像を見る限り非イスラム系の学生も多く、かつ、‘外部者’とする大学側の説明とも一致しません。あるいは、さらにその背後にロシアや中国といった反米とされる勢力が潜んでいる可能性もありましょう。ベトナム戦争時において米国内で激化した反戦運動も、ソ連邦による支援があったとされています。

 第二の推測は、イスラエル側に与する大学側、アメリカ政府(CIA)、もしくは、ユダヤ系団体が工作員を送り込んだとするものです。実のところ、この手法は古典的なものであり、弾圧したい側が相手側に‘悪手’を打たせるという方法です。例えば、天安門事件や香港の雨傘運動等などでは、学生民主化運動を脅威と見なした当局が、弾圧の口実を得るために、組織内部に扇動役の工作者を潜入さえたとする疑いがあります。今般のイスラエルによるガザ地区に対する蛮行も、イスラエル側が育てたともされるハマスによるテロ行為が引き金となっており、いわば、‘偽旗作戦’の一種であるのかもしれません。結果として、過激化=非合法行為を理由として抗議活動が潰されてしまうのです。

 外部者による支援や誘導があったとすれば、以上のような推測が成り立ち、慎重に事実を見極めるべき必要がありましょう。しばしば若者達の純粋な正義感は、政治的に利用されてきたからです。戦争にあって愛国心から死地に向かうのは若者でしたし、民主化運動のみならず、戦前の日本国において起きた二・二六事件も、農村部の貧困を憂う青年将校達の義憤があったとされています。利用されるリスクを考慮し、抗議活動とは距離を置きつつも、別の方法でイスラエルを批判したり、直接には同活動に参加しないまでも、陰ながら支持する学生も少なくないのかも知れません。

 ただし、今般の学生運動にあっても、一つだけ確かなことは、それが扇動されたものであれ、自然発生的なものであれ、多くの学生達がイスラエルのガザ地区住民に対する行為に憤慨し、それを直接並びに間接的に支援している全ての人々に対して反対を表明していることです。批判の矛先は、戦争当事国としてのイスラエルのみならず、アメリカ政府やイスラエル企業と連携する大学にも及んでいるのです。そしてそれは、イスラエル批判を権力や権威をもって‘上’から封じ込めとするユダヤ系勢力がコントロールするアメリカの現状であるのかも知れません。言い換えますと、重要なのは、ジェノサイドともされる非人道的な行為、そして、それを黙認するアメリカの現状に対して、若者達が自らの良心に照らして声を上げているという事実なのです。学生の多くは、パレスチナの支持者でもイスラム教徒でもなく、ましてや‘偽旗’組織の可能性が濃厚なハマスの味方でもないはずです。イスラエルの行為が、人類に対する普遍的な罪であるからこそ、抗議活動に参加したのでしょう。

 人種差別やユダヤ人迫害、そしてSGDsやLGBTQといった運動に対しては声高に他者を批判し、執拗に断罪しながら、イスラエルの非人道行為に対する批判に対しては言論を封じようとするリベラルの態度は間違っていると言わざるを得ません。イスラエルに対する抗議運動はアメリカの良心の現れであり、純粋な正義感や人類愛から活動に参加した学生達を、世代の違いに拘わらず、心ある人々はサポートすべきように思えます。退学処分という大学側からの脅しもあり、自らが不利な立場に置かれることを覚悟しながらも、見て見ぬ振りをする自分を許さず、抗議活動に参加した学生達こそ、真のアメリカのヒーロー達なのですから。

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