万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

「中国ウクライナ友好協力条約」の隠れたバーター取引

2023年01月11日 09時56分38秒 | 国際政治
 2013年12月6日に中国とウクライナとの間に締結された「中国ウクライナ友好協力条約」は、NPT体制の欺瞞を余すところなく露わにしているように思えます。ウクライナは、1994年に核兵器国による多重保障の下で核を放棄しましたが、両国間の取引を見ますと、その問題点が見えてきます。

 同条約の表面的な構図は、中国がウクライナの安全を保障する代わりに、ウクライナは、核を放棄するというものです。しかしながら、先日の記事でも述べたように、ウクライナの核放棄から凡そ20年が経過し、かつ、当事にあって既に中国も「ブダベスト覚書」に倣ってウクライナの安全保障を約しているのですから、2013年の中国の動きには、どこか不自然さが漂います。この不自然さの根源を探るに際して注目すべき一文が、同条約にはあります。

 それは、「ウクライナは「一つの中国」政策を強く支持し、中華人民共和国政府は中国全体を代表する唯一の合法的な政府であり、台湾は中国の領土の不可分な部分であり、いかなる形態の「台湾独立」にも反対し、相互関係の平和的発展と中国の平和的再統一の大義を支持すると認めた。」というものです。この一文は、核危機に際しての中国による対ウ保障を記したパラグラフの前段に置かれており、この位置関係から、台湾の独立否定は、事実上の‘核の傘’の提供との引き換えではないか、とする憶測もあります。

 この文面と類似する表現を目にしたことがある方も少なくないかもしれません。実のところ、この文章、1972年9月29日に公表された「日中共同宣言」と瓜二つなのです。否、明確に「台湾独立」に反対し、「中国の平和的再統一の大義への支持」という言葉が使われていますので、ウクライナは、当事の日本国政府よりもさらに中国寄りの立場を明確に表明しているのです。

両国間の同バーターは、ウクライナが、親ロ派のヤヌコーヴィチ政権の元であれ、自国の安全保障のために台湾を中国に差し出した、つまり、犠牲に供したことを意味します。一方、2013年と言えば、中国では3月14日に習近平氏が国家主席に選出され、習体制が始動しています。同政権が掲げてきた「中華民族の偉大なる復興という中国の夢」には当然に‘台湾解放(台湾侵略)’も含まれており、積極的な拡張主義は同政権の特徴でもあります。中国における習体制の成立と中ウ友好協力条約との成立とは無関係ではなく、おそらく、非核兵器国に対して安全を保障し得る核兵器国のみが持つ特権を、台湾併合への足場固めとして利用したと推測されるのです。因みに、日本国が中国との間で「日中共同宣言」に合意したのも、中国が核兵器を保有するに至り、台湾国民党政府による本土奪還が事実上不可能となったからとする説もあります。

 「条約法条約」の第34条には、「条約は、第三国の義務又は権利を当該第三国の同意なしに創設することはない」とする、慣習国際法を明文化した一般原則を記していますので、「中国ウクライナ友好協力条約」における台湾に関する締約間での合意も、第三国である台湾に対して法的拘束力を持つことはありません。しかも、国際法において中国には台湾の領有権を主張する足る歴史的根拠も法的根拠も持ち合わせていませんので、同条文自体に違法性が疑われます。それでもなお、ウクライナ政府は同条約を遵守使用するでしょうから、中国には、同条約を維持するメリットがあるのでしょう。

 以上の経緯から、NPT体制における核兵器国の問題は、これらの諸国による一方的な核兵器の使用や核による威嚇のみに限定されるわけではないことに気がつかされます。核兵器国は存分にその特権を活用し、自国の‘世界戦略’に組み入れているからです。そしてそれは、とりもなおさず、戦争要因に他ならないとも言えましょう。今日、第三次世界大戦、並びに核戦争への発展が懸念されるウクライナ紛争も台湾危機も、何れもNPTがもたらしているとしますと、同体制の見直しは急務ではないかと思うのです。

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