万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

公設選挙広報サイトというアイディア

2024年07月12日 09時45分48秒 | 統治制度論
 今日の選挙制度は、国民のニーズに沿った政策を立案し、かつ、最も高い適性や資質を備えた政治家を選ぶ人事上の採用システムとして設計されているわけではありません。政治家の質の劣化、世襲議員やタレント議員の蔓延、露骨な利益誘導、権力の濫用や私物化、さらには、世界権力のマネー・パワーに釣られた政治家の傀儡化といった諸問題が生じる原因も、あまりにも杜撰で非合理的な現行の制度に求めることができましょう。民主主義並びに健全な政治を実現するためには、早急に制度改革に着手する必要があるのですが、斬新性をアピールし、政治改革を訴える候補者でさえ同問題を言い出さず、身動きがとれなくなっている政治の現状を示しています。

 本来であれば、広く国民的な議論に付し、国民からアイディアを広く募るべき重要な課題なのですが、本ブログでは、ささやかながら一つの案を提案してみたいと思います。それは、国政から地方自治体に至るまでの各々の選挙に際して、誰もが簡単に利用できる公設の選挙公報サイトを設けるというものです。具体的には、以下の仕組みとなります。

  1. ネット上に、検索や公共機関のホームページ等からも容易にアクセスし得る選挙用サイトを開設する。
*サイト開設・運営機関は、政治家や民間からの介入を遮断する必要があり、中立独立性が保障された機関が望ましく、選挙管理委員会、もしくは、司法機関が適しているかも知れません。
  1. 同サイトのトップとなるホームには、全ての立候補者のリストを掲載する。
*リストには、氏名のみでは不十分ですので、広報に記載されている程度の略歴や所属政党等がある場合には政党名なども記載すべきかも知れません。
  1. リストに記載されている立候補者氏名をクリックすると、同候補者専用の個別ページが開く。
  2. 割り当てられた個別ページは、基本的に候補者自身が作成する。
*同ページの内容は、‘採用’の判断材料となる情報です。履歴書のようなものであり、最低限、各候補者は、(1)候補者個人に関する情報(2)政治家を志望する理由、(3)実現を目指す政策あるいは解決すべき問題など(政策提言あるいは公約・・・)を記載することとなります。もっとも、公開する具体的な内容や情報量については、各候補者の判断に任されます。例えば、(1)の個人に関する情報については、写真などもアップして自らの生い立ち等について詳しく説明する候補者もいれば、殆ど白紙に近い状態の候補者も現れることでしょう。この場合、有権者は、前者に対してはオープンで実直な人柄を読み取るでしょうし、後者に対しては、その秘密主義的な姿勢を懸念するかもしれません。なお、学歴や経歴等の事実に関する記載内容については、運営機関が責任をもってその真偽をチェックする必要がありましょう。
  1. 候補者の個別ページには、文字情報のみならず、候補者の静止画像や動画等もアップする。ファイルによるダウンロードも可。
*静止画像はポスター、動画は政見放送の役割をそれぞれ担いますが、後者には時間制限がありませんので、自らをアピールするに十分な時間があります。
  1. 個別ページには、掲示板を設ける。
*掲示板機能により立候補者と有権者との間で質疑応答が可能となります。同掲示板は、立候補者と有権者間のみならず、候補者相互並びに有権者相互で議論する場としても使うことも出来ます。質問に対する返答の有無は立候補者の判断に任されますが、有権者は、掲示板上の質疑応答の内容を読んで同候補者の資質等を判断することとなりましょう(もっとも、一度に大量の質問が寄せられる場合には、個別回答ではなく、内容を集約する必要はありましょう・・・)。

 公設選挙公報サイト方式が導入されますと、選挙活動の主要な舞台は同サイトに移ることとなります。この移行により、従来型の選挙に要した立候補者の労力、費用、時間は大幅に軽減されましょう。もはや、街中や住宅地に選挙カーを走らせたり、資力体力気力を要する街頭演説等を行なう必要もなくなるからです。立候補に際しての負担が軽くなり、ハードルが下がれば、他の職に就きながら出馬することも不可能ではなくなります(利益誘導の疑いは有権者が判断・・・)。その一方で、他の候補者のページとの比較が容易となりますので、売名行為目的の立候補は抑止されましょう。しかも、競争条件が全ての候補者にとりまして凡そ公平、かつ、等しくなるのです。

 そして、’採用担当者’の立場となる有権者にとりまして、格段に投票に際しての判断が容易になることは言うまでもありません。候補者に関する情報量が飛躍的に増加すると共に、情報の質もアップしますし、判断に必要となる情報が不足する場合には、掲示板を介して追加情報を求めることもできるからです。また、政見放送のように放送時間が限られているわけでもありませんので、有権者は、何時でも何処でも同サイトにアクセスすることができるのです。

 現代は情報化社会と称され、日本国政府も、強引に上からのデジタル化を推進しています。それにも拘わらず、国民に対して政治家に関する十分な情報を提供しようとはせず、選挙制度にネット等を活用しようとしない旧態依然とした態度は矛盾しています。こうした矛盾した態度は、政治家ポストという‘既得権益’を守りたい一心からなのでしょうが、国民が必要としているのは、より国民が政治的権利を行使する場を広げ、民主主義の具現化に資する選挙制度の改革なのではないでしょうか。選挙期間中のメディア出演の規制など、他にも必要とされる対策はありますが、公設選挙公報サイトの開設は、民間の採用システムを応用したり、工夫を加えることで導入可能ですし、技術的にも決して難しくないのではないかと思うのです。

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