万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

世界経済フォーラムによる世界支配は無理では?

2023年04月06日 14時47分12秒 | 統治制度論
 SDGsにおいてすら民主主義は実現しておらず、国家を単位とする国民の参政権については明言を避けているのですから、トップダウン型の非民主的な企業をモデルとする世界経済フォーラムも推して知るべしです。先日の記事で述べましたように、同フォーラムが構想している‘グローバル・ガバナンス’という名の‘世界支配構想’の未来像にあっては、国家の政府でさえ、並列する三つの構成部分―多国籍企業群、国家と国際機関の政府、選ばれた市民団体―の内の一つに過ぎないのですから。同フォーラムが目指しているグローバル・ガバナンスの構想の一体どこに、国家レベルでの民主的選挙制度や投票制度等が位置づけられ、実質的な意味を持つのでしょうか。

 同構想を好意的に見ても、民主的な要素は希薄です。国家の政府、即ち、国内の民主的手続きを経て選ばれた各国首脳を、EUの理事会に類似する‘世界政府’の理事会(議会上院のようなもの・・・)のメンバーと見なすとしても、決定手続きからすれば、一国の一票は余りにも微力となりましょう(もっとも、多数決ではなく全会一致を原則とすれば、各国が事実上の拒否権を持つことになりますが、これでは、おそらく何事も決まりませんので、世界権力が同原則を採用するはずもない・・・)。その一方で、欧州議会のように人口比によって各国の票数を変えれば、人口大国が圧倒的な票数を有することにもなります。EUでは、特定加重制度を設けて票数を調整しているのですが、一人一票同価値と一国家一票同価値の原則を調和させることは殆ど不可能と言っても良いくらいの至難の業なのです。もっとも、世界経済フォーラムの描くグローバル・ガバナンスとは、世界レベルでの全体主義体制となるものと予測されるので、そもそもその決定手続きにおいて、各国政府に票が割り振られる多数決制が導入とは限らないのです・・・。

 また、政府と同列に位置づけられている多国籍企業や市民団体に至っては、民主的要素は皆無に等しいと言わざるを得ません。両者とも、世界経済フォーラムが設定した条件や基準に基づいて、選定されるものと予測されます。民主主義が統治の正当性を与えている現代という時代にあっては、同構想は、時計の針を逆戻りさせているようなものです。否、グローバル・リデザインにせよ、グレート・リセットにせよ、その制度設計に際して、民主主義という人類普遍とされる価値は、全く考慮されていないと推測されるのです。

 なお、同構想が実現すれば、国家に対して納税義務を果たす国民がこれまで国庫に納めてきた税も、グローバル・ガバナンスにおける財政移転政策として、瞬く間に海外に流出してゆくことでしょう。外国を訪問する度に多額の財政支援を約束してしまう岸田首相は、既に世界権力が命じるままに、日本国から海外への財政移転を実行しているようにも見えます。

 かくして民主的国家においては、普通選挙制度を含め国民の政治に参加する権利は形骸化し、民族(国民)自決の原則も消滅することでしょう。現状を見ましても、日本国の岸田首相の声が世界経済フォーラムや世界権力の耳に届いているようには思えません。グレートリセットが完了した日には、あらゆる物事がトップレベルで決まり、国家は、それを実行する末端の機関に過ぎず、民主的選挙制度も無意味となっている可能性が極めて高いと言えましょう。グローバル・ガバナンス構想が実現すれば、各国の統治機構はグローバルレベルの統治制度に組み込まれ、独立主権国家の政策決定権は失われ、各国の国民の意向も殆ど無視されるのです。

 既存メディアでもネットでも、地球温暖化問題、SDGs、新型コロナ、DXやGX、LGBTQ、そしてウクライナ紛争といった言葉を目にしない日はないくらいです。また、近年の政治家や選挙に際しての立候補者の主張などを聞いていますと、重要な政治問題は、少子化対策しかかないような錯覚に陥ります。少子化対策も、それが再分配政策としての給付制度の強化を意味するならば、世界レベルでの全体主義体制(社会・共産主義・・・)への誘導策であるのかもしれません。日々、全世界の人々は、こうしたグローバリスト用語のシャワーを浴びているのですが、グレートリセットの実現によって失われる大切な価値についても、考えてみる必要があるように思えます。喜々としてダボス詣でに出かける自国の政治家とは、実のところ、国民にとりましては背信者であるかもしれないのですから。

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