万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

アメリカの対北関連資産凍結は国際法違反か?

2017年10月19日 14時55分20秒 | アメリカ
【北朝鮮情勢】新型の弾道ミサイル潜水艦を建造中か 最大級、排水量約2000トン 米誌など分析
 トランプ米大統領が9月22日に署名した対北朝鮮取引企業の資産凍結に関する大統領令ついて、この措置は国際法違反ではないか、とする意見があります。最大の懸念材料として、台湾併合を目論む中国が、同じ手法で台湾と取引する第三国企業の資産を凍結するリスクを挙げていますが、果たして、今般の大統領令は国際法に違反しているのでしょうか。

 国際法違反説の最大の根拠は、同大統領令が域外適用となる点にあります。国際法では、国家主権の下で制定、あるいは、発令された法の効果は、原則としては、その国の政府の管轄下にある法域≑領域にしか及ばないからです。しかしながら、刑法や競争法等の域外適用をはじめ、国際社会では、随所にその例外が認められています。また、国際人権法の分野でさえ、国家の安全や治安を脅かす場合には、国家が独自の措置をとる権限を有することを認めています。しかも、今般の北朝鮮問題は、いわば、平和の破壊行為、即ち、“国際刑法”の問題ですので、むしろ、域外適用の要件を満たしているとも言えるのです。この他にも、国際法違反説が見落としている点が、幾つかあります。

 第1の点は、北朝鮮が、国連安保理決議において既に制裁対象国と認定されていることです。仮に、中国が台湾併合策として資産凍結という“経済制裁手段”を用いようとしても、台湾は国際法に違反する行為を行っていませんので、逆に、中国の行為こそが、国際法違反として糾弾されることでしょう。国際法違反説は、北朝鮮が制裁対象国認定済みであるとする事実を無視しているのです。

 第2の点は、たとえ第1点で述べた制裁対象国を判別する国際認定の有無を抜きにしたとしても、米朝関係は、既に戦争状態にあることです。休戦協定が締結されたとはいえ、それは、北朝鮮の度重なる協定破棄宣言や対米攻撃予告などにより、もはや空文化しております。無法国家化した北朝鮮が国際法を順守するとは思えませんが、少なくとも、適用されるべきは、平時の国際法ではなく、戦時国際法となります。

 第3に、アメリカは、国連安保理の常任理事国の一国ですので、一先ずは、“世界の警察官”の役割を担っています。第1点で述べたように北朝鮮は“犯罪国家”の認定を受けていますので、同国の行為を制止するには、国際社会における広域的な取締り(域外適用)を要します。乃ち、北朝鮮が犯罪国家であると知りながら同国と取引をした第三国の企業もまた、犯罪幇助の罪として取締りの対象に含まれるのは、刑法の論理からすれば当然の帰結ともなるのです。

 以上に法律論としての側面から反論を試みて見ましたが、むしろ、何故、このような国際法違反論が提起されたのか、その方が、余程、謎です。この説の提唱者は、北朝鮮のスポークスマンであるか、または、その最大の関心事が、北朝鮮の核・ICBMの放棄、即ち、国際社会の安全ではなく、北朝鮮との取引の露見、あるいは、それに基づく資産凍結にあるのではないかと疑わざるを得ないのです。

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