万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

難民問題解決の鍵は悪徳密航事業者の根絶では

2016年05月31日 17時00分12秒 | 国際政治
溺れた赤ちゃん写真、地中海における難民の悲劇浮き彫りに
 先日、EUとトルコとの間で難民対策合意が成立し、新たなメカニズムが動きはじめたものの、難民問題は一向に収まる気配がありません。先週だけでも、数百人の難民が地中海で命を落としたと報じられております。

 地中海での溺死のリスクのみならず、人身売買のリスクにも直面しており、一万人ほどの未成年者が行方不明となっているそうです。また、受け入れ国側でも、難民に対する襲撃事件も多発しており、難民の行く手には、生命や身体をも損ないかねない深刻なリスクが待ち受けているのです。それでも、難民の多くが国外への脱出を望んでいるとしますと、その背景には、凡そ二つの原因が考えられます。

 その一つは、紛争の激化により居住が不可能となるケースです。しかしながら、現状では、ISの支配地は縮小に転じており、もうしばらくの辛抱かもしれません。つまり、緊急避難的な措置として難民化する必要性が低いとしますと、もう一つの可能性の方が難民流出の主要原因と想定されます。それは、自発的な難民化、すなわち、自国の経済状況の悪化による事実上の経済難民化です。そして、この自発的難民化を陰で支えているのが、一般の住民に密航を斡旋する事業者なのです。密航事業者の悪辣ぶりは難民船を見れば一目瞭然であり、しばしば、意図的にボートを転覆させるとも報じられています。これらの事業者は、言葉巧みに難民を募り、多額の密航費を払わせた上に、難民達を死に至らせたり、子供達を売り飛ばしているのです。

 ”難民問題において誰が悪いのか”というシンプルな問いに対しては、仮に第一の居住地喪失が主因であれはアサド政権やISなどの紛争当事者でしょうし、第二の密航こそ真の原因であれば、紛争の悲劇から利益を得ようとする悪徳密航事業者ということになります。そして、今日の状況を観察する限り、やはり、後者の要因の方が強いように思えるのです。となりますと、難民問題解決の鍵とは、難民を犠牲にして儲けを企み、受け入れ国側にも混乱をまき散らしている密航事業者を根絶することなのではないでしょうか。人道支援といった水際作戦では難民数や被害は減少しませんが、難民の送出し事業を止めさせれば、確実に効果は上がるのではないかと思うのです。

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8 コメント

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Unknown (グリーン)
2016-05-31 20:24:52
本日の内容は私の見方とは真逆です。

難民が押し寄せることにより迷惑をこうむっているEUやトルコの立場から「難民問題」という言葉が使われていますが、本来の「難民問題」はなによりも難民である彼ら自体が主役で語られなければならない言葉のはずです。国内の福祉問題もそうですが弱者(当事者)の立場からの視点を外した政治的な政策視点からだけの議論は危ういです。

難民を密航させる手配をしている事業者はたしかに他国にとっては(悪辣であるなしに)迷惑以外の何者でもないで業者でしょう。ですが、当の難民(本当の意味での難民)にとっては戦乱の自国における命の危険から自身と家族を逃れさせてくれ、一家を安心して眠れる地、生きる希望を持てる地へと運んでくれるありがたい存在なのではないでしょうか。 

NPOのような仲立ち業者もいる反面、悪辣な汚い業者も多くいるでしょう。ですが彼らはイベント会場が爆発したときの言わば臨時の白タクのようなものです。なんらかの規制や抑制は必要でしょうが彼らを排除して救われたであろう命が救われなかったのでは意味がありません。
地中海で落とす命よりも、逃れる手段がなく自国に留まっていることによる人命の方が数百、数千倍も多いのですから。 現状では代替策の用意のない悪い奴探しと業者潰し」の対処方には疑問です。
それは地元の警察の仕事であり、国家が取り組むべき政治的な施策ではないと思います。
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Unknown (グリーン)
2016-05-31 20:30:05
(訂正)

自国に留まっていることによる人命
→ 自国の留まっていることにより失われる命
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Unknown (グリーン)
2016-05-31 20:38:45
>>緊急避難的な措置として難民化する必要性が低いとしますと、もう一つの可能性の方が難民流出の主要原因と想定されます。それは、自発的な難民化、すなわち、自国の経済状況の悪化による事実上の経済難民です。

この個所をどういうわけか読み飛ばしていました。
そうであればご意見は頷けます。先のコメントは撤回します。お粗末でしたm(__)m。

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グリーンさま (kuranishi masako)
2016-05-31 20:46:53
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。
 従来型の難民ですと、皆、着の身着のまま、命からがら紛争地から逃げ出して生きた…という感じなのですが、今般のシリア難民は、スマホを携帯し、身なりも整っております。密航者に多額の費用を払えるほどの資力もあるのですから、自発的難民と表現してもよいように思えます。そして、人々を難民化へと誘導しているのが悪徳事業者であるとしますと、この事業者を取り締まらない限り、たとえ、紛争が解決の方向に向かったとしても、難民の減少には繋がらない可能性さえあります。また、シリアの人々も自らの国の国造りに対して責任を負うべきであり、逃避姿勢には疑問を感じるのです。
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Unknown (北極熊)
2016-06-01 10:08:12
『そうだ、難民しよう』を助長している密航業者がいて、当の難民たちも、北海道開拓屯田兵とかブラジル移民程度の感覚で、難民だと言ってるかもしれないということでしょうね。 
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北極熊さま (kuranishi masako)
2016-06-01 10:39:26
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。
 ヨーロッパに押し寄せている移民・難民は、シリアのみではありませんので、紛争の早期解決を図ると同時に、やはり、密航事業者対策も強化すべきです。否、今や、後者の方が深刻かもしれません。特に、イスラム諸国では出生率が高い一方で、近年の資源安傾向から財政も逼迫しております。こうした事情が、密航ビジネスを蔓延らせ、難民の増加に拍車をかけているように思えるのです。政府の統治能力の低下、悪徳密航事業者、無責任な難民…による悪循環は、どこかで断ちきらなければならないのではないでしょうか。
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Unknown (グリーン)
2016-06-01 11:51:18
いわゆる「経済難民」についてはブログ主の仰る危惧には全く同感です。

本来の難民とは峻別して厳しく対処取り締まることが絶対に必要だと思います。 もともと経済難民を「難民」と呼ぶことが間違いのもとだったと思います。早い段階で本来の難民とは区別して「難民もどきの不法密航者」との呼称なりと定着させて、両者をはっきり区別した対応についてEUは議論すべきだったですね。

両者の識別基準をきちんと設けずに、「難民さんいらっしゃい」とうかつにも歓迎のノボリを上げてしまったドイツの責任は大きいですね。 
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グリーンさま (kuranishi masako)
2016-06-01 14:54:27
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。
 おそらく、事業者の密航船で渡航している”難民”は、”経済難民”と見なして構わないのではないかと思います。渡航費を支払っているのですから。メルケル首相の歓迎発言の発端となりました、少年の痛ましい死も、報じられた映像を見ますと、出身地では家族や住民の人々がお葬式を出しており、紛争の激化による居住困難化が原因とは思えません。となりますと、最も効果の高い”経済難民対策”は、やはり、密航事業者の取締ではないかと思うのです。
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