今日、イスラエルは、国連加盟国の一国であり、独立主権国家として大多数の国家から承認されています。1993年のオスロ合意では、パレスチナ国もイスラエルの存在を承認することとなりました。かくして、イスラエルの国家としての法人格は凡そ確立しているのですが、それでは、イスラエルは、自らの法的地位をどのようにして手に入れたのでしょうか。
ある人は、パレスチナ紛争の原因をイギリスの三枚舌外交にあるとし、イスラエル建国は、当時のイギリス政府によって保障されたと主張するかもしれません。しかしながら、1917年11月2日の日付が付されているバルフォア宣言は、当時の英国外相アーサー・バルフォアが、ライオネル・ウォルター・ロスチャイルド卿に宛てた書簡に過ぎません。同書簡では、シオニズムに対する賛意が示され、パレスチナの地に‘ユダヤ人のためのナショナル・ランド’を建設する運動にイギリスが協力することが約されています。当時、ロスチャイルド卿は、上院議員の地位にはあったものの、シオニスト団体のみならず、全ユダヤ人を公式に代表する立場にもありませんでした。
因みに、バルフォア宣言は、15行ほどの短い書簡であり、パレスチナに居住しているアラブ人の排除を定めたものではありません。それどころか、パレスチナの地に居住している非ユダヤ系のコミュニティーの市民的、並びに、宗教的な権利を損なうものではない、と明記しているのです。むしろ、パレスチナ人の権利保障が明記されているのです。
しかも、当時は、イギリスが進駐していたとはいえ、パレスチナの地は法的にはトルコ帝国の版図の内にありました。このため、当時の慣習国際法に照らしても、同宣言には法的な拘束力は認められません（今日の条約法条約の第34条では、「条約は、第三国の義務又は権利を当該第三国の同意なしに創設することは出来ない」とし、一般国際法として法典化されている･･･）。何れにしましても、バルフォア宣言はその発表の時点では法的効力はなく、公的には一国の外相が自国の一国会議員宛てた単なる書簡に過ぎないのです。トルコが正式にパレスチナの地を手放すのは、第一次世界大戦で敗北した後のことです。
その後、第1次世界大戦後に至ると、ヴェルサイユ条約等に基づいて1920年1月に国際聯盟が設立されます。同年4月に連合国側の戦勝国によるサン・ロメ会議が開催され、国際連合規約の第22条に基づいて、パレスチナのイギリスの委任統治に関する大凡の方針が決定されるのです。その際、バルフォア宣言の内容の実現が、パレスチナの統治を委任されたイギリスの責任とされます。つまり、イギリスは、単に国際連盟の名の下でパレスチナを統治するのみならず、‘ユダヤ人のためのナショナル・ランド’を用意しなければならなかったのです。もっとも、‘ユダヤ人のためのナショナル・ランド’とは、あくまでも‘ナショナル・ランド’であって、ユダヤ人国家とは明記されていません。
イギリスの委任統治は、1948年5月15日、即ち、イスラエル建国の翌日に終了しますが、以上に述べた経緯からしますと、独立国家としてのイスラエルの地位を最初に保障したのが、1947年のパレスチナ分割決議であったことが分かります。自らの国家を持つ必要性は、‘ホロコースト’によってユダヤ人の間で一層強まったとされていますが、イスラエル建国の法的根拠は、偏に1947年11月29日に国連総会で成立した決議181号（Ⅱ）に求めるしかありません。言い換えますと、同決議なくしてイスラエルは国際社会において主権国家として存立できないのです。この点に鑑みますと、イスラエルは、同決議を反故にすることは‘自殺行為’となりますので、出来ない立場にあると言えましょう。
そして、ここで思い出すべきは、同決議案には、ユダヤ人の国家と並んで、（1）アラブ人の国家の建国を認めていること、及び、（2）両国との間の経済同盟をも定めていることです。イスラエルにとってのパレスチナ分割決議の重要性を確認したところで問われるべき次なる問題は、決議案において実現しなかった二つの事柄をどのように考えるのか、ということです。その過程で問題点を洗い出しつつ、今後の解決に活かしてゆくべきと言えましょう。そして、イスラエルは、国際社会にあって独立した法人格を有する国家である以上、ガザ地区に対する壊滅作戦を実行に移す前に一端立ち止まり、パレスチナ国に対する自国の賠償責任についても考えるべきなのではないかと思うのです（つづく）。
