万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日本版CDCは政府の‘手下’?-「国立健康危機管理研究機構」に独立性を

2023年05月30日 12時20分20秒 | 統治制度論
 今般、日本版CDCとして設立が予定されている「国立健康危機管理研究機構」については、コロナ禍の経験から公衆衛生上の危機に際しての新たな‘司令塔’の設立として解説するメディアも少なくありません。同機構が国立感染症研究所と国立国際医療研究センターとの統合による設立が同見解の背景にあるのでしょうが、‘司令塔’については、既に本年4月21日に「内閣感染症危機管理統括庁を内閣官房に新設する改正内閣法」が成立しております。むしろ、同庁と国立健康危機管理研究機構との関係が不明な点が問題視されているのですが、両法案とも、政府への権限の集中が図られた点では共通しています。そして、ここに、政府主導の感染症対策は望ましいのか、という問題が提起されることとなりましょう。

 そもそも、モデルとされるアメリカのCDCに極めて政治色の強い機関です。同機構の所長は、議会の承認を得る必要のない大統領による任命であり、政治的任命であるために、大統領は何時でも職を解くこともできます。それでは、日本国の「国立健康危機管理研究機構」はどうでしょうか。同法の第11条には、「理事長及び監事は、厚生労働大臣が任命する。」とあります。また、副理事並びに理事は、厚生労働大臣の許可を受けて理事が任命しますので、同機構の人事の流れは、首相⇒厚生労働大臣⇒理事長・監事⇒副理事・理事となり、首相をトップとするトップ・ダウン型となることが予測されるのです。言い換えますと、人事権を見る限り、同機構は、政府(政治サイド)の下部組織として位置づけられていると言えましょう。

 また、任期についても、特別の措置もとられています。何故ならば、理事長の任期は「中期目標の期間の末日」、即ち、原則6年とはされているのですが、より適した人を任命するために厚労相が必要と認めた場合には、3年に短縮できるとしているからです。‘適任者’の判断は政府に任されますので、同規定も政府の人事権を強めているのです。こうした任期の延長や短縮に関する権限を用いた独立的組織の従属化は、凡そ3年前に問題となった検察法改正問題を思い起こさせます。検察法については任期の3年延長という‘飴’が問題視されたのですが、今般の法案では、任期短縮という‘鞭’を政府が握っているのです。

 こうした同機構の人事手続きを見る限り、理事長には、政府に対して批判的であったり、国民の生命や健康ために抵抗するような人が選任されるはずはありません。政府の方針や諸政策において、如何に医科学的な見地から合理的な疑問や倫理上の問題があったとしても、それに目を瞑ることができる人のみが任免されることでしょう。今般のコロナ禍にありましても、初期段階からコロナ・ワクチンには重大な健康被害の懸念が指摘されていながら、政府が注意を喚起すべきマイナス情報を国民に伏せたために、国民の命や健康が軽視されました。同法によってさらに権限が政府に集中しますと、国民が置かれている状況はさらに悪化することでしょう。

 かくして、新設される同機構は、政府が決定した政策を忠実に実行する下部組織に過ぎなくなることが予測されます。同法案に依れば、実際に、上述した中期目標を決定する権限も厚生労働大臣にあります(第27条)。言い換えますと、「国立健康危機管理研究機構」は、純粋に医科学的な観点から独自に調査や研究を行なうことはできず、常に政府の意向に従わざるを得なくなるのです。

 この状況は、極めて危険です。政府の暴走を止める制御装置もなく、科学的な客観性よりも政治的目的が優先されるのですから。コロナ禍に優るワクチン被害に鑑みれば、改正の方向性が逆であり、「国立健康危機管理研究機構」こそ、科学的な立場から政府に対する制御機能を担うべきなのではないでしょうか。つまり、公衆衛生の安全性の観点から、同機構の独立性こそ保障されるべきではないかと思うのです。

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