万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

‘ルールを変えると行動も変わる’-改善方法

2023年01月06日 09時58分41秒 | 統治制度論
 あらゆるゲームは、ルールを変えると、それに合わせてプレーヤーの判断や行動も変わるものです。日本経済の停滞要因として、‘グローバル・ルール’への適応の遅れが指摘されていますし、スポーツ界などでも、日本人選手の勝率が高い種目のルールが変更され、以後、表彰台に登れなくなってしまうという現象が多発しています。これらのルール変更は、日本国にとりましては不利に働いた事例なのですが、ルールのあり方とは、結果を左右すると共に、それに参加する人々の判断や行動をも大きく変えるのです。

 例えば、「七並べ」というよく知られているトランプのカードゲームを事例として挙げてみることとしましょう。一般的な「標準七並べ」のルールは、4つの種類の7のカードを最初におき、そこから各プレーヤーが、順番に数字が繋がるようにカードを出してゆき、最初に配られたカードを全て置き終えた人が勝者となります。このルールの敗者は、最初に出すカードがなくなったプレーヤーとなります。このため、勝者となるためには、他のプレーヤーがカードを出せなくなるように、出せるカードを持ちながら敢えて出さないというパス戦略が有効です。すなわち、他のプレーヤーを‘邪魔’をする必要があり、このゲームは、得てしてプレーヤー同士の‘意地悪合戦’となるのです。もっとも、一般的には、ジョーカーを持っている人は、次の順番の数のカードを持っていれば、ブロックしているカードを強制的に出させるルールが追加されています。例えば、ハート9のカードを持っていながら、ハートの8のカードが持つ人に邪魔されて出せない場合、自分の番でジョーカーを使えば、ハートの8のカードを持っているプレーヤーに対してその提出を要求できるのです。

 それでは、上述した「標準七並べ」のルールを変えてみることとします。先ずもって変えるのは、敗北条件です。「変則七並べ」では、最後にジョーカーを握ってしまったプレーヤーを敗者とします。最初に札を使い切ったプレーヤーが勝者である点は「標準七並べ」とは変わらないのですが、同ゲームの基本コンセプトは‘敗者決定ゲーム’であり、勝よりも負けないことが重要なのです。このルールでは、他のプレーヤーの邪魔をして出せるカードを出さないで邪魔をすると、他のプレーヤーにジョーカーを使われてしまう可能性が高まります。むしろ、ジョーカーが自らの手に残らないように素直に持てるカードを出し、他のプレーヤーにチャンスを与える方が得策なのです。同ルールでは一般的な「七並べ」とは逆に他のプレーヤーに対して邪魔や意地悪をするとブーメランとなって自分に返ってきてしまうのですから。もっとも、ゲームの終盤戦ともなりますと、逆転につぐ逆転のジョーカーの熾烈な押し付け合いになるのですが・・・。最後まで気が抜けずにスリリングという面においても、「変則七並べ」の方が「標準七並べ」よりもおもしろいのです。

 
 単純なゲームであっても、少しだけルールを変えますと、大きくパフォーマンスが変わってくることもあります。例として挙げた「七並べ」では、ルールを変えることで、利己的行動有利が利他的行動有利へと変化しています(もっとも、皆の利他的行動の深層には‘負けない’、即ち、自己保存の心理が働いているのですが・・・)。このことは、ゲームの狭い世界のみならず、政治、経済、社会と言ったあらゆる分野にも言えることのように思えます。経済分野で言えば、独占禁止法(競争法)の登場がその典型例かもしれません。今日では、市場を独占・寡占した途端(その他多数の人々自由な経済活動を阻害し、封じてしまう存在・・・)、刑罰やペナルティーが科せられてしまうのですから(’大貧民’のよう・・・)

 多くの国や人々を益する方向にルールを変えることができれば、ルールの変更は望ましいこととなります。悪循環に陥っているとき、旧弊に苦しむとき、縮小再生産から抜けられないとき、そして皆が自らの国家や社会が腐敗している、あるいは、息苦しいと感じるときなどには、現行のルールを見直し、誰に対しても公平であり、かつ、正のメカニズムが働く新しいルールを考えてみるのも一つの方法です。少しばかりのアイディアと工夫で、劇的に状況が改善されることもあるかもしれません。そして、より善い方向へと人々の行動を自然に誘導する‘変則’がもはや‘変則’ではなく‘標準’となる時、全ての国家並びに人々を含めた、自他を共に生かすことができる人類社会が出現するかもしれないと思うのです。

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