万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ウクライナ紛争が示唆する台湾有事未然防止策

2023年02月02日 12時26分27秒 | 国際政治
 NPT体制とは、「オセロゲーム(リバーシ)」に喩えれば、初期設定において核兵器国によってゲーム板の四隅に既に石が置かれているようなものです。同ゲームでは、四隅に自らの石を置いたプレーヤーが圧倒的に有利となり、最終局面で勝敗を逆転させることができます。これをNPT体制に当てはめますと、核兵器国は、既に四隅を確保しているため、対戦相手となる非核兵器国が如何に通常兵器で善戦しても、最後の局面では一気に勝敗がひっくり返されてしまうのです。

 NPT体制における核兵器国の絶対的な非核兵器国に対する優位性は、核兵器国による軍事行動を引き起こす要因ともなり得ます。今般のウクライナ危機についても、ウクライナが「ブダベスト覚書」に基づいて核放棄に応じていなければ、ロシアは軍事介入を控えたであろうとする憶測があります。非核兵器国には核兵器が存在しないのですから、保有する通常兵器の規模に拘わらず、これらの諸国は、攻撃力のみならず抑止力においても絶対的な劣位にあるのです。

 そして、懸念されている中国による台湾侵攻もまた、核兵器国と非核兵器国との間の戦いとなり、上述した非対称な構図となります。もっとも、ウクライナ紛争は既に広義にあっては戦争に発展しましたが(ロシアは、戦争という言葉を避けて‘特別軍事作戦’と呼んでいる・・・)、台湾有事は、近い将来に起こると予測されている事態です。このことは、台湾有事については、現時点にあって、未然に防ぐための措置を講じる時間が残されていることを意味します。地政学を重視する世界権力のシナリオの一つが‘第三次世界大戦の誘発’であるならば、ウクライナの次は台湾のはずですから、同有事の未然防止策とは、破滅的なシナリオからの離脱策でもあるのです。

 ICANといった核兵器廃絶を目指す人々は、核兵器国に同兵器を放棄させれば、核兵器国と非核兵器国との間の非対称性の問題を解消できると主張するかもしれません。しかしながら、現状を見ますと、核兵器国は、世界権力と結託して既に自らの安全保障政策や世界戦略に核を組み入れており、自発的な放棄を期待するのは非現実的です。核兵器国は、確保しているゲーム板の四隅という特等席にして指定席を失うようなことはしないでしょう。非現実的な理想論で現状を固定するよりも(核兵器廃絶運動は核兵器国並びにこれらの諸国をコントロールする世界権力の下僕かもしれない・・・)、より現実的な方法を選択した方が、余程、戦争のリスクは低下しましょう。つまり、全世界の諸国が核の抑止力を備えるという道です。冷戦期にあって大国間に‘核の平和’が現出されたように、拡散化された核の抑止力は、国際社会全体に新たな相互抑止体制をもたらすことでしょう。

 戦後史が示してきた核の抑止力と平和との関連性に注目すれば、台湾の核保有こそが、中国の野心を打ち砕くかもしれません。そしてこの選択肢は、現実的な対中防衛政策として追求されて然るべきではないかと思うのです。

台湾の核武装につきましては、台湾関係法に基づいて核兵器国であるアメリカが提供するのか、それとも、台湾独自で核武装するのか、という問題もありますが、時間の余裕があるのであれば、第三次世界大戦への発展リスクを低減させるという意味においては、後者の方が望ましいかもしれません(この点は、ウクライナも同じ・・・)。台湾には、原子力発電所が全国に三カ所(原子炉6基)建設されており、核兵器の原材料となるプルトニウムを保有しています。政治レベルでの決断があれば、台湾の核保有は実現可能な選択肢なのです。

古来、戦争とは、複数のプレーヤーが勝敗を争うために、ゲームにも喩えられてきました。特に近代以降、大国や強国が世界戦略を遂行するに至ると、世界地図は、ゲームのボードと化してしまった観があります。今日のゲームボードが、既に勝敗の決まっているオセロゲームであるならば、先ずもって、核兵器国に四隅を与えている現状を見直す必要がありましょう。そして、それは、世界を常に戦いが繰り広げられるゲームボードと見なす世界観、否、世界権力がゲームを操り得るゲームボードそのものの転換にも繋がるのではないかと思うのです。

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