万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ドゥテルテ比大統領はフィリピンを裏切る?

2016年10月20日 14時22分21秒 | 国際政治
南シナ海協議で一致=中国との首脳会談―比大統領
 フィリピンのドゥテルテ大統領は、18日に訪中し、初の中比首脳会談に臨んだとされています。南シナ海問題に関する仲裁裁定の後だけに、国際的な関心を集めてきましたが、大統領側の全面的な屈服としか言いようのない報道ばかりです。

 驚きを禁じ得ないのは、ドゥテルテ大統領の中国への徹底した忠誠心を示す報道です。中国メディアとのインタヴューでは、祖父が中国人であったことに言及した上で、あたかも、中国に信義を尽くすのが人の道のような言い方をしております。この発言から伺えるのは、中国人のネポティズムなのですが、フィリピン国民からしますと、大統領発言は、自国よりも中国の利益を優先することを意味します。時を同じくしてフィリピンで発生した反米デモも華僑系の人々が組織されたとの指摘もあり、中国人の”血の絆”の強さを見せつけています。

 また、ドゥテルテ大統領は、南シナ海仲裁裁定を棚上げし、首脳会談では持ち出さなかったとされていますが、その理由も、驚愕すべきものです。仮に、アメリカ等の諸国がフィリピンと同じ立場に立てば、第三次世界大戦が起きるというものなのですから。つまり、裁定の遵守を求めることなく、軍事力による裁定内容の強制執行を”戦争”と呼び、それを、第三次世界大戦と結びつけているのです。この論理に従えば、戦争回避のためには、中国の違法行為を黙認せよ、という結論が導き出されます。自国の正当な権利を護るための防御的行為さえ否定するのでは、今後のフィリピンの防衛は危うくなります。フィリピン大統領は、”奴隷の平和”を選び、フィリピン国民にそれを強要するのでしょうか。

 そして、仲裁の棚上げは、フィリピンもまた、中国の国際法秩序破壊行為に加担したことを意味します。実際に、九段線を否定した仲裁裁定を”紙くず”と呼んだとしますと、ベトナムといった他の紛争当事国の怒りをも買うことでしょう。そして、当然に、法の支配の観点からフィリピンを、陰に日向に支援してきた日米をも落胆させました。国際法秩序が破壊されれば、他の諸国の権利も法の保護を受けることができなくなりますので、大統領は、野蛮から文明への道を切り開いてきた人類をも裏切っています。

 世論調査によりますと、フィリピン国民は中国よりもアメリカを遥かに信頼しておりますので、ドゥテルテ大統領は、独断による親中・反米路線の選択に対するフィリピン国民の反発を怖れないのでしょうか。仮に、麻薬取締と同様に、自に対する国民の批判的な言論をも強権発動で封じるとしますと、フィリピンは、中国と共に、暴力が支配する暗黒の世界へと落ちてゆくのではないでしょうか。

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