万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

デジタル時代の個人情報の極端なる非対称性

2019年02月14日 13時01分55秒 | 社会
今日、ネット空間に自社のプラットフォームを構築することに成功したIT大手は、利用者の個人情報までをも独占的に入手し得る立場にあります。近い将来、人々は、日々の些細な行動から発言に至るまでの全てが、外部からウォッチされるガラス張りの空間での生活を余儀なくされそうなのです。

 ガラス張りと申しますと、透明なガラスを通して日の光が内部に差し込みますので、どこか明るく開放的なイメージを受けます。しかしながら、このガラス箱の中で暮らしている人々にとりましては、実のところ、閉ざされた真っ暗闇の空間であるかもしれないのです。外部の視点と内部視点とでは見える光景が全く正反対となるのです。その理由は、新たに登場してきた様々なITサービス事業では、個人情報が凡そ自動的に運営者によって収集される一方で、個人間では他者の情報を知ることが難しい状況に至っているからです。

第1に、国レベルでは、法律によって個人情報の保護が徹底されています。日本国の場合、事業者が電話攻勢等で売り込みを図る‘迷惑電話’等が社会問題ともなり、個人情報を扱う事業者対策を主たる目的として、2003年5月に情報保護法が制定されました。法律の規制対象は、民間事業者、並びに、自治体等の公的機関であったはずなのですが、今では本来の立法目的を離れ、一般の個人同士の情報のやり取りにも浸透してきています。同法律が制定されて以来、個人情報の公表には神経質になり、無意識であれ心理的な‘縛り’が働いて、お互いに名前も住所も聞けないといった雰囲気にもなりがちなのです。その一方で、SNSでは、メンバー相互の間では知り得ない個人情報であっても、交流サイトの運営事業者は、しっかりとこれらの情報を掌握しています。IT大手は、入手した情報を活用して個人をターゲットにした広告活動を行っていますので、これでは個人情報保護法が制定された理由も消え失せ、‘迷惑IT’となりかねません。

第2に、人種、民族、国籍、宗教等の違いを否定するグローバル化の流れにあって、採用差別の禁止を根拠として、個人情報の収集に制限が設けられるケースがあります。一般的に政府は、一般企業をはじめ事業者に対し、採用時の個人情報の収集に制限を設けようとする傾向にもあります(もっとも、グローバリズムは同時に多文化共生主義も掲げており、矛盾が見られる…)。現実には、日産のカルロス・ゴーン前会長の逮捕劇が示すように、国籍等は入社後の社員の行動に多大な影響を与えるものです(多国籍者であったゴーン容疑者の場合、同氏の公私にわたる個人的なネットワークが不正や犯罪の温床となった…)。人物評価に際して重要な判断基準となる情報までもが雇用側は知り得ない状況となりますので、社内では、人事のみならず、机を並べて仕事をする、あるいは、チームで作業をしている社員同士であっても、相手が何者であるのか全く分からない状態で勤務するケースもあり得るのです。

第3に挙げられる点は、政治や治安などの社会問題に関しても、政府もマスメディアも、個人情報の保護を盾にして、正確な情報を国民に知らせようとはしません。例えば、日本国では、蓮舫議員に限らず、選挙で当選した国会議員であっても、日本国民は、その国籍や先祖を含めた出身国さえ知らされていない場合が少なくないのです(情報の隠蔽は‘詐欺’の一種になりかねないにも拘わらず…)。この点は、芸能界等にあっても指摘されていますが、当然に公開されるべき個人情報であっても故意に伏せられているため、国民は、誰に政治権力を託しているのかさえ分からないのです。

かくして、一般社会にあっては個々人が匿名化し、相互に情報入手が制限される一方で、一部のIT大手や政府は、あらゆる個人情報を独占し得る立場となります。外部者の位置にある後者は、ガラス張りとなった一般社会を外側から眺め、収集した個人情報を用いて内部の人々をコントロールすることができるようになるのです。その一方で、ガラス箱の中に閉じ込められている人々は、その外部にいる監視者を見ることもできなければ、すぐ隣にいる人でさえ、個人情報の保護というカーテンに遮られてその姿をはっきりと見ることはできません。こうした極端に非対称化された未来社会の到来は、はたして人類にとりまして望ましいのでしょうか。ガラス箱からの逃走を試みる人々が増えても不思議ではないと思うのです。

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