万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

提案者不明の日本国の政治-皇室典範改正問題

2024年03月19日 09時35分41秒 | 日本政治
 今般、日本国の政界では、皇室典範改正の動きが活発化してきているようです。昨日の3月18日には、自民党にあって総裁直轄とされる「安定的な皇位継承の確保に関する懇談会」が開かれ、皇族確保策の一つとして議論されてきた女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持する案について党内で異論はなかったと報じられています。皇室典範改正は、日本国の統合に関する問題である点に鑑みますと、現状には幾つかの問題点があるように思えます。

 第一に、同会議を取り仕切る会長は皇族の姻族となる麻生太郎副総裁ですので、皇室問題の利害関係者の立場となります(しかも、世界権力の中枢とされるユダヤ系財閥とも姻戚関係がある・・・)。皇室典範の改正は日本国の統合政策の一つですので、当然に、他の政策分野と同様に中立性並びに公平性が求められるはずです。近親者の麻生副総裁が議長を務めるともなれば、表向きは党内組織であっても、同懇談会は、実質的には、皇族あるいはその支援勢力による立法過程への介入機関ともなりましょう。仮に、当事者の立場からの皇族の意見を聴く必要があるとすれば、それは、党内組織とは別に意見表明や発言の機会を設けるべきと言えましょう(国会の方が相応しい・・・)。

 第二に、麻生副総裁は、同会議において「「皇室の在り方は国家の根幹をなす、極めて重要な課題だ。限られたメンバーで、静かな環境で議論を深めたい」と述べております。この発言については、既に批判の声がかなり寄せられており、改めて指摘するまでもないのですが、現行の日本国憲法の第1条には、「この地位は、主権の存する国民の総意に基づく」と明記されていますので、‘限られたメンバー’という表現は、同条文に反することとなりましょう。主権者である国民の排除し、国民的議論の回避を求めているとしか解釈し得ないからです(同発言は、‘‘限られたメンバー’は、日本国、並びに、日本国民を実質的にコントロールし続けたいから、皇室の在り方もそのメンバーのみに都合がよいように決定したい‘という傲慢な発言に聞えてしまう・・・)。

 そして、第三に挙げるべき点は、真の提案者が誰であるのか、国民には知らされていないという不透明性です。同懇談会の議題は政府が設置した有識者会議からの提案とされていますが、実際に、誰が、何時、どのような論拠をもって提案したのか、定かではないのです。女性皇族の皇籍維持案の他にも、「養子縁組を可能とし、皇統に属する男系の男子を皇族とする」、並びに、「皇統に属する男系の男子を法律により直接皇族とする」の二案があるそうです。これらの発案者についても、国民は、政府から説明らしい説明を受けてはいません。

 そして第三の問題点からも、皇室典範の改正については、国民不在の議論としたい政府の意向が透けて見えます。その背景には、皇室利権や宮内庁利権、さらには、世界権力の意向も働いているのでしょう。仮に、同提案に沿って皇室典範が改正されたとすれば、国民負担は跳ね上がることも予測されます。女性皇族が婚姻後に独立した家庭を持つともなれば、皇族費を増額する必要もありますし、その子孫達も母系にあって皇籍を維持するともなれば、代を重ねる度に、皇室維持費は国民の肩にのしかかります。また、今般の女性皇族皇籍維持案と男系男子養子案並びに皇族復帰案は相互に排他的ではありませんので、三つの案が同時あるいは複数実現すれば、さらに国民負担は増えることとなりましょう。しかも、皇族男子継承案と長系女子(長子)継承案では世論が分かれる中、三つの案のどの案であれ、次期天皇が誰になるのか、明確に国民に示しているわけでもないのです。皇位継承の行く先が不透明なまま、しかも、将来的な財政負担の問題も伏せ、国民を置き去りにしたまま、政府、否、政界は、皇室典範の改正に邁進しているのです。

 考えてもみますと、そもそも、政府が三つに案に絞ってしまっている時点で、国民は、巧妙に一定の方向に誘導されているとも言えましょう。どれを選んでも、国民には不利益になるという・・・。天皇や皇室が不可逆的に変質し、国民多数の精神的なよりどころや道徳的模範でもなくなり、世俗のセレブに過ぎなくなった今日、天皇の存在に依拠した日本国の統合の形態を維持したいと願う国民は、政府が決めつけ、メディアが報じるほどの多数派なのでしょうか。サイレント・マジョリティーを含めますと、‘そんな声は一切ない’と断言して無視できるほどに小さい声とも思えません。そして、提案(発案)権という政策決定過程の入り口における国民の声の遮断は、皇室典範改正問題のみならず、あらゆる政策領域に共通して見られる日本国の政治システムにおける重大かつ致命的な欠陥であると思うのです。

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