万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

国民不在の男女共同参画政策

2023年07月04日 10時43分54秒 | 日本政治
 従来の慣習や制度、あるいは、過去の歴史に起因して不利な立場にあった人々を救済するために、これらの人々を対象とした特別枠を設ける手法は、アメリカのアファーマティブ・アクションに限ったことではありません。例えば、近年では、SGDsの旗振り役の国連や世界経済フォーラム等が、ジェンダーによる差別解消をグローバル・アジェンダとして設定しているため、日本国政府も、巨額の予算をもって積極的に男女共同参画政策を推進するようになりました。先日公表された「女性版骨太の方針2023」もその一環なのですが、経済界でも、プライム企業の東証上場の条件ともされるため、達成目標年とされる2030年を目処に役員の30%を女性とすべく、人事改革を急いでいます。

 しかしながら、この政策、果たして国民が真に望んだ結果なのでしょうか。民主的国家であれば、国民からの要望⇒政治レベルでの法案化⇒議会での審議・修正⇒多数決による採択⇒立法という過程を経て法律が制定されるはずです。ところが、現実を見ますと、出発点となる‘国民からの要望’が抜け落ちているケースが大多数を占めています。政府提出の法案ともなりますと、その大多数が国民無視の法案ばかりであり、年々、この傾向は強まっているようにさえ思えるのです。

 ジェンダー問題については、古老の女性が一族の長となる母系社会もないわけではないものの、古今東西を問わず、男性と比較して女性が不利、あるいは、劣位の立場にあったことは確かです。チンギス・ハーンのモンゴル帝国の如く、征服地の女性を戦利品や‘所有物と見なす国や部族も存在していたのであり、契約や所有といった行為を合法的に行ない得る法的人格も、女性には認められたかった歴史が長いのです。今日でも、女性が家庭内で虐待を受けたり、虐げられるケースは、深刻なドメスティックバイオレンスとして問題視されています。それ故に、ジェンダー間の平等は、社会・経済的に理不尽で不条理な立場に置かれてきた女性達を救うための原則となり、政府による平等化の推進政策も、多くの人々が受け入れてきたと言えましょう。

 しかしながら、ここで政府の政策的手法に注目しますと、果たして現行の政策方針が、国民が真に望んでいるものであるのか、疑わしくなるのです。目的は正しくとも、手段が間違っているケースは多々あります。社会・共産主義国家で試みられたジェンダーの平等は、一切の性差を認めない人間の画一化に過ぎませんでした(中国の人民服を見る限り、どちらかと言えば、強制的な女性の男性化であったかもしれない・・・)。男女の平等については、そもそも、生物学的な違いのみならず、男性と女性とでは幸福の感じ方は同じなのか、あるいは、個人によっても相違があるのではないか、という基本問題から問わなければならないはずなのです。

 また、国民の自由や多様性に関する根本的な議論の他にも、国民の中には様々な意見があるのですから、ジェンダーに関する政策を立案するに際しても、国民から広く意見を求めるべきでもあります。競争条件から平等原則を外す女性枠という優遇制度が導入されるならば、不利益を被りかねない男性側の意見も聞かなければ不公平となりましょう(男性側の不満の鬱積は、むしろ、両性間の分断と反目の原因に・・・)。また、政策の対象となる女性達からの要望も聞かなくては、誰のための政策か分からなくなります。‘女性’と一括りにされてはいても、既婚で働く女性、独身で働く女性、子育てをしながら働く女性、専業主婦、高齢のおひとりさまの女性など、立場は様々であるはずです。政府は、とかくに女性比率の数値目標に拘りますが、大半の働く女性は、情実採用や外部採用になりがちな女性役員枠の設定よりも、人選に際しての平等な扱いや職場等での等しい待遇を求めることでしょう(結果の平等よりも結果の公平・・・)。そして、子育てや介護など家庭内で役割を果たしている女性達からは、また違った視点や立場からの要望があるかもしれません。

今日の政府が掲げる男女共同参画というスローガンは、その命名からして‘女性は社会に参加していない’とする固定概念に囚われているのですが(幕末に黒船で来日したペリー提督は、日本女性が社会的な役割を果たしていることに驚いている・・・)、現行のジェンダー平等政策は、国民的な議論もコンセンサスもなく、世界権力から押しつけられた人類画一化政策の一環のように思えてなりません。ジェンダーの平等、即ち、様々な問題領域に即して平等と公平が適切に配される社会を目指すならば、国民的な議論、並びに、手段を一つに限定せず、国民の多様性を尊重したより柔軟で多彩な手法を考案すべきではないかと思うのです。

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