万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国を制止することが日本国の責任では?

2020年09月26日 11時46分14秒 | 国際政治

 昨日9月25日に設けられた日本国の菅義偉首相と中国の習近平国家主席との電話会談は、新政権の対中方針を見極める試金石とも目されてきました。とりわけ、国内から反対の声が上がっていた習主席の国賓来日の行方が注目を集めてきたのですが、一先ずは、同問題については双方とも一言も触れずに会談は終了したようです。

 

 同会談における沈黙を以って菅新政権が親米・反中に転じたとは言い難く、むしろ、国賓来日の確約による支持率の急落を恐れた首相側と、同政権の長期化を願う主席側とが結託し、一先ずは、同問題については‘双方触れず’で予め合意していた可能性もあります。新政権が一先ず安定化した頃を見計らって、国賓来日が突如として再浮上するかもしれず、今般の日中首脳の電話会談を以って国民は安心をしてはいられないのです。

 

 そして、もう一つ、同電話会談で気掛かりとなるのは、菅首相による「日中の安定は2国間だけではなく、地域、国際社会のために極めて大事だ。共に責任を果たしたい」という言葉です。この言葉、実現不可能ではないかと思うからです。何故ならば、日本国が、地域や国際社会のために責任を果たすとするならば、その役割は、対中制止に他ならないからです。

 

 日中を含むアジア地域を見渡しますと、その殆どの諸国が尖閣諸島問題を抱える日本国を含め、中国からの軍事的脅威に晒されています。東南アジア諸国の大半は、南シナ海の軍事基地化、しかも、核配備の危機に直面しており、中国における違法行為を止めない限り、東南アジアに安定や平和が訪れるはずもありません。ブータンに至っては、あからさまな侵略を受けていますし、昨今、中印紛争にも激化の兆しが見えています。中国が遂行している世界支配戦略は、国際法秩序を破壊する行為でもありますので、国際社会の安定もまた、中国の行動を抑え込まないことには、実現しないのです。香港、チベット、ウイグル、モンゴル等の問題は、アジアのみならず、国際社会における人類普遍の人道上の問題ともなりましょう。

 

 地域や国際社会が軍事大国化した中国の脅威に直面している現状を直視すれば、‘日中間の安定’は、いかにも虚しく響きます。傲慢な中国が、日本国政府からの要請を素直に受け入れ、これまでの違法行為の数々を反省して態度を改めるとは思もえず、中国にとりましての‘安定’とは、全ての諸国が自国に服従する状態を意味するのでしょう。むしろ、‘安定’を脅迫材料とする、すなわち、武力による威嚇を以って、周辺諸国に対して抵抗せずに中国の要求を受け入れるように迫るかもしれません。法の支配を基盤とする国民国家体系を葬り去り、各国の権利や自由を保障する国際法をも踏みにじって全世界に君臨する確固とした華夷秩序の構築することこそ、‘中国の夢’なのですから(犯罪者の夢…)。

 

中国流の解釈に基づく‘安定’に日本国も加担するとしますと、それは、‘共に責任を果たす’のではなく、中国の共犯者になることを意味しましょう。つまり、日本国が将来において、地域や国際社会において負う責任とは、犯罪国家としての加害責任であり、侵略や権利侵害が伴う以上、賠償責任さえ生じるかもしれません。

 

日本国民の大多数は、自国が犯罪国家に加担し、連帯責任まで負わされる事態を望むはずもありません。日本国政府は、中国と責任を共有するような事態は何としても避けるべきであり、日本国は、単独で地域や国際社会に対する責任を果たすべきなのではないでしょうか。そしてそれは、中国の暴力主義に抗して国際法秩序を護り抜くことであり、その覇権主義的な行動を止めることを置いて他にないのではないかと思うのです。


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