東祖谷に入って、京柱峠と、剣山の別れ道に差し掛かる道に、一件の商店がある。
お客様はさまざま。
村人は、当然。
山登りの方々。
剣山に向かう方々。
ツーリングの若者。
帰省客。山の現場から町に帰る土木作業員。
『皿鉢料理』は、
今ではごく当たり前の、仕出し料理だけど、35年以上も前の、祖谷地方では、珍しい料理だった。
『刺身』が、山の生活で食べられるなんて、想像さえ出来ない、時代だった。
祖谷地方に、初めて
『皿鉢料理』を広めたのは、高知から移りすんだ、A山のおっちゃん、おばちゃんだ。
おっちゃんは、80才を迎えても、Gパンスタイルだった。
いつも、きっちりと、シャツイン!
シャツインは、おっちゃんのいつものスタイルだった。
80才を、過ぎた頃から、少しずつ身体を、壊し始めた。
店番をしていても、
動作が遅くなって、お客さんは、皆、結構待たされた。
おばちゃんが、店番に立つようになって、おっちゃんの余暇の時間が、増えた。
店の側の、橋の欄干から、川に住んでいる、鴨の親子に、パンを落としてあげる。
店に搬入されたばかりの、新鮮な食パンだ。
おっちゃんが、橋から身を乗り出しながら、パンを落としていた光景は、遠くから見ると、どう見ても、
『身投げ』に見えた。
『落ちそうで…落ちない?』
おっちゃんは、身体バランスが、よかったんだ。きっと。
おっちゃんが、お孫さんと大切に飼っていた、柴犬は、我が家のゴンの兄弟だった。
数年前の夏。おっちゃんから、突然電話がかかってきた。
『はよう、来てくれ~犬、いけな〈埋める〉いかん~ダメじゃあ~もう死ぬわ~』
慌てて、
おっちゃんの家に向かうと、ワンちゃんは暑さで、ダウンしているみたいだった。
動物病院を、教えて上げて、夕方、息子さんがすぐに、連れて行き、治療して、無事に帰れた。
おっちゃんは、ワタシに
『犬の墓穴を掘らそうとした…』
おっちゃんは、おばちゃんの事が、大好きだった。
病院に、お見舞いに行った時も、
『バアサン、元気にしよるか?』
そればかりを、、聞いてきた。
50年前に、夫婦で、祖谷に移り住み、コツコツと行商で、生計をたて、念願の
食料品兼『皿鉢料理』を始めた。
毎日、毎日、店番をして、
毎日、毎日、商品を並べ、
『じいさんがねぇ~』と、おばちゃんの些細な愚痴の隣で、
おっちゃんは、顔色一つ変えないで、いつもの口癖を、言っていた。
『エェ~エェ~』
レジの前に立ち、
『エェ~エェ~』
レジを打ちながら
『エェ~エェ~』
レジの金額を見て、
『エェ~エェ~』
『エェ~エェ~』の口癖は、おっちゃんにとっては、何かしらを始める時の、調子をとる為の、掛け声みたいなものだったんだ。
おっちゃんは
優しい 人だった。
ワタシが、
790円の買い物を、して、
千円を渡すと…
おっちゃんは、レジの合計金額を、しばらくじ~と見て…
ワタシに お釣りの
790円を 返してくれた……?
『おっちゃん~!お釣り間違えとるよ~』
と言うと、
やっぱり、
『エェ~エェ~』
と答えるだけだった。
おっちゃん、
『皿鉢料理 』
ありがとう。
お寿司も、刺身も、
美味しかったよ!
前に、おっちゃんと、何回か、村の診療所に行った時、
主治医から、聞かれたんだよ!
『あなたは、この方の身内にあたる方ですか?』
『他人です!』
ワタシが答えると、
主治医は、不思議そうな顔をして、ワタシを見ていたよ…
ささやかで いい…
ささやかに 生き…
ささやかに 逝く…
見送った者も
やがて 必ず
同じ 場所に 逝く
『死』に向かい
誰もが それぞれに違う歩幅で
歩いている
ただそれを 淡々と
繰り返していく
舞い落ちる 雪のように…
さよなら
おっちゃん
合掌
お客様はさまざま。
村人は、当然。
山登りの方々。
剣山に向かう方々。
ツーリングの若者。
帰省客。山の現場から町に帰る土木作業員。
『皿鉢料理』は、
今ではごく当たり前の、仕出し料理だけど、35年以上も前の、祖谷地方では、珍しい料理だった。
『刺身』が、山の生活で食べられるなんて、想像さえ出来ない、時代だった。
祖谷地方に、初めて
『皿鉢料理』を広めたのは、高知から移りすんだ、A山のおっちゃん、おばちゃんだ。
おっちゃんは、80才を迎えても、Gパンスタイルだった。
いつも、きっちりと、シャツイン!
シャツインは、おっちゃんのいつものスタイルだった。
80才を、過ぎた頃から、少しずつ身体を、壊し始めた。
店番をしていても、
動作が遅くなって、お客さんは、皆、結構待たされた。
おばちゃんが、店番に立つようになって、おっちゃんの余暇の時間が、増えた。
店の側の、橋の欄干から、川に住んでいる、鴨の親子に、パンを落としてあげる。
店に搬入されたばかりの、新鮮な食パンだ。
おっちゃんが、橋から身を乗り出しながら、パンを落としていた光景は、遠くから見ると、どう見ても、
『身投げ』に見えた。
『落ちそうで…落ちない?』
おっちゃんは、身体バランスが、よかったんだ。きっと。
おっちゃんが、お孫さんと大切に飼っていた、柴犬は、我が家のゴンの兄弟だった。
数年前の夏。おっちゃんから、突然電話がかかってきた。
『はよう、来てくれ~犬、いけな〈埋める〉いかん~ダメじゃあ~もう死ぬわ~』
慌てて、
おっちゃんの家に向かうと、ワンちゃんは暑さで、ダウンしているみたいだった。
動物病院を、教えて上げて、夕方、息子さんがすぐに、連れて行き、治療して、無事に帰れた。
おっちゃんは、ワタシに
『犬の墓穴を掘らそうとした…』
おっちゃんは、おばちゃんの事が、大好きだった。
病院に、お見舞いに行った時も、
『バアサン、元気にしよるか?』
そればかりを、、聞いてきた。
50年前に、夫婦で、祖谷に移り住み、コツコツと行商で、生計をたて、念願の
食料品兼『皿鉢料理』を始めた。
毎日、毎日、店番をして、
毎日、毎日、商品を並べ、
『じいさんがねぇ~』と、おばちゃんの些細な愚痴の隣で、
おっちゃんは、顔色一つ変えないで、いつもの口癖を、言っていた。
『エェ~エェ~』
レジの前に立ち、
『エェ~エェ~』
レジを打ちながら
『エェ~エェ~』
レジの金額を見て、
『エェ~エェ~』
『エェ~エェ~』の口癖は、おっちゃんにとっては、何かしらを始める時の、調子をとる為の、掛け声みたいなものだったんだ。
おっちゃんは
優しい 人だった。
ワタシが、
790円の買い物を、して、
千円を渡すと…
おっちゃんは、レジの合計金額を、しばらくじ~と見て…
ワタシに お釣りの
790円を 返してくれた……?
『おっちゃん~!お釣り間違えとるよ~』
と言うと、
やっぱり、
『エェ~エェ~』
と答えるだけだった。
おっちゃん、
『皿鉢料理 』
ありがとう。
お寿司も、刺身も、
美味しかったよ!
前に、おっちゃんと、何回か、村の診療所に行った時、
主治医から、聞かれたんだよ!
『あなたは、この方の身内にあたる方ですか?』
『他人です!』
ワタシが答えると、
主治医は、不思議そうな顔をして、ワタシを見ていたよ…
ささやかで いい…
ささやかに 生き…
ささやかに 逝く…
見送った者も
やがて 必ず
同じ 場所に 逝く
『死』に向かい
誰もが それぞれに違う歩幅で
歩いている
ただそれを 淡々と
繰り返していく
舞い落ちる 雪のように…
さよなら
おっちゃん
合掌