秘境という名の山村から(東祖谷)

にちにちこれこうにち 秘境奥祖谷(東祖谷山)

天女花(OOYAMARENGE)  SANE著

2007年05月26日 | Weblog
第六章
回想携帯電話
健二からの、連絡があれから途切れている。携帯電話をバイブ音にして、手提げバックの一番上に乗せ、弁当屋の調理棚の隅に置く。居酒屋のマスターの紹介でこの店で勤めてはいるけれど、この店が数週間で、求人案内を出す理由が、江美はすぐに納得できた。六十前位の、大西ちかこ。彼女は、この店のお局さま。毎日、黒目をキョロキョロさせて、口元を右に左に、おまけに鼻づまりでもないのに、鼻をスンスンさせている。口紅が毎日はみ出していることを、本人は不自然と感じないのか、彼女のオリジナルなのか、容姿はとにかくとして毎日、江美達パート店員に、マシンガンのように質問が襲いかかってくる。
「斉藤さん、店長の友達の紹介でここにきたけど、店長とはどんな関係?前からの知り合い?」江美はレジで釣銭を、確認している。「最近、来ないわねえー男前。あのお兄さんとも、なんかになるのー。あの兄さん、あたしの命の恩人なのよー」やたらと、江美の身体をポンポン触りながら、喋りだした。「命の恩人って」江美が始めて、お局ねさまに反応した。
「あんた、いやっ、斉藤さんがここに来る前からあの兄さん、近くで仕事してたのよ。あたし、あの日も咳がひどくて、胸が痛くて動悸がしてたのよーでもさあーあたしがいなかったら、この店、成り立たないじゃーないの。そしたらあの兄さん、丁度いつものシャケ弁買いに来たのよ。あたしが、釣銭渡そうとしたら、「おねえさん、病院いったほうが、いいよ。悪いこと言わないならさあー。おねえさんがここにいなかったら、開店休業でしょう。」なんて、あんまり言うものだから、あたし明くる日、病院に行ったのよ。そしたら、肺のなんとか疾患って言われて、びっくりよ。」「そんなことがあったんですか」江美は健二に関係した話しを聞けるだけで、なんだか、嬉しかった。チカコが、話しを続ける。上機嫌で話す。「あんた、いや、斉藤さんでは、あの兄さんには、つりあわないよ。あの兄さん、みたとおり、背は高いし、特にあの目よ。涼しそうなきれいな二重だろー口元なんか、薄くってあたしは、あれだけの男前。暫く見掛けたことないから、びっくりよー。あれが息子だったら、親でもヤキモチやくよー」
「私、付き会ってませんから」江美はそう言うと、小さな冷蔵庫に、烏龍茶をいれていく。チカコは、喋り過ぎたのか、家から持参したポットのお茶を一気に太い喉元に流し込んでいる
江美は、バックの中の携帯電話を、取り出す「着信あり」の表示。チカコが店の外にでたことを確かめて、調理場の隅で、チェックする。健二からだった。返信を押そうとしたら、チカコが入ってきた。「主任、トイレにいきます。少しここ、お願いします
江美は、急いでトイレに駆け込み、返信をおす。「ゴメンなさい。今、店の中。」
「現場遠くなって、圏外がやたら多くて、かけられなかった。風邪なんか引いてないか。明日、かえるから。また連絡するよ。じゃあ、切るよ」
携帯電話を、両手に包んで、オデコに当ててみる。健二の声が、手の中で、ひだまりのように、あたたかかった。
コメント
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