経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

地に着いた水産業の再生

2011年04月20日 | 経済
 今日の日経社説は、被災地水産業の再生。ようやく、取り上げてくれた。ベースになっているのは、農水省の構想であり、これも現実に則した内容で好感が持てる。エコタウンだの、文明災だのと、上滑りな議論ばかりが踊っていたので心配していたが、これで地に足の着いた構想になると期待したい。

 経済学ではおなじみだが、貿易自由化は、経済全体で見れば利益をもたらすが、それで損害を受ける者も出るため、利益の再分配で痛みを和らげることが必要であるとされ、それが合理的な政策だと言われる。

 今回の水産業の再生は、漁港を集約し、重点的な設備投資で効率化を図り、震災前よりも生産性の高い水産業を目指している。この方向は正しいし、復興のための予算も認められるだろう。その際、大切なことは、合理化される小規模の漁村や高齢の漁民の生活をどうするかである。

 そうした所の漁師が重点漁港を利用できるよう便宜を図るのは当然だが、それに加えて、道路やバス路線を整備して、婦人が加工場に通えるようにしたり、あるいは、住居を移すのを助けたりすることまで必要かもしれない。こういったことは復興の対象として見過ごされがちだから、十分な配慮がいる。そういう意味での総合的なプランが必要だ。

 また、合理化で引退を余儀なくされる高齢の漁師には、漁業権を借り受けることで「年金」を出すといった手当も必要である。住宅再建も、木造戸建ての復旧ではなく、将来的に高齢者専用賃貸住宅にもなる集合住宅を、津波にも耐える鉄筋中高層で建てることが必要であろう。総合プランには、福祉的要素も加えねばならない。

 日経は、とかく規制緩和を主張するが、その実現には、合理化で不利益を受ける人たちを、どう救うかの工夫がカギになる。規制緩和は、予算のかからないお手軽な政策に見えるが、利益再分配のためには、一定のお金が必要であり、それをどれだけ用意できるかで、社会の効率化が決まる。規制緩和ができない裏には、必ず、そういう問題が隠れている。

 さて、現場と関わらざるを得ない農水省は、現実的なプランを出してきた。必要な予算は、意外にも、一次補正で2000億円、二次でも数千億円だという。世間で言われるような、最大25兆円ともいう復興予算とはケタが違う。そろそろ、財政当局が増税のために仕掛けた「虚構性」に気づいても良い頃ではなかろうか。

 今日の日経には、まず、復興財源として、消費税を2~3%上げ、引き続いて社会保障へ恒久化し、更に引き上げるという記事が載っている。これが財政当局の本音だろう。復興の費用を2~3年の短期間で償還するというのは、財政の常識からは外れているのだが、そうでなければ、財政再建の「道具」にはならないからね。

 それにしても、消費税を2~3%引き上げるには、景気を失速させないために、同じくらいの物価上昇率がいる。その時の名目成長率は5~6%にはなっているだろう。取らぬタヌキの皮算用もいいところだ。こんな夢みたいなことを考えるより、足元の消費の停滞でも心配したらどうかね。まあ、デフレでもお構いなしに、やるつもりなんだろうけど。日本の財政当局の「自殺計画」への執心ぶりには恐れ入るよ。日経も、そろそろ現実に帰ってきたらどうか。

(今日の日経)
 健保組合4割保険料上げ。自家発電装置を増産。社説・被災地水産業の再生、企業化も視野に。東北の大型11漁港を重点整備、農水省検討、復興を機に。復興財源、消費増税に軸足、2段階増税案浮上。年金財源の転用合意。電力削減軽減探る。生保電力使用25%減へ。消費者心理最大の悪化、回復の兆しも。中国景気・減速感漂う消費。インドネシア東電にLNG。長期金利じわり低下、復興税で。経済教室・学歴インフレ・刈谷剛彦。

※電力供給の記事は役立つ内容。広野火力と揚水発電の関係が良く理解できた。消費回復の兆しなんて、まだまだ早い。長期金利は米国の影響の方が大きい。頼りにならん日本の政治家の復興税くらいで、市場は動くもんかね。
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年金改革の厚労省案

2011年04月19日 | 社会保障
 久しぶりの社会保障の執筆だね。しかも、日経は一面トップに年金記事を持ってきてくれたし。内容は厚労省案が明らかになったというもの。従来路線に沿った順当な案で、筆者も、「できる」なら、そのまま進めてくださいとしか言いようがない。読み方で多少の注意がいるとすれば、役所用語で「第2段階で実施」とは、「しない」という意味だ。

 厚労省案は、年金制度の改革に必要なことを掲げてはいるが、実現性となると、簡単でないものが多い。厚生年金と共済年金の一元化は、一度、法案も出されたことがあるので、まだ良いとしても、その他は、利害調整なり、財源なりが必要になるからだ。

 パートへの厚生年金の拡大は、雇用の非正規化が進んでいるので、最優先の課題であるが、新たな保険料負担を、パートも、雇用主も嫌うので、説得は至難の業である。そもそも、低所得者から保険料を取るのは難しいことなのだ。大規模な軽減措置とセットでなければ、導入しがたいもので、それには、当然、財源がいる。低所得者の年金加算も同根である。

 これを、どうやって解決するかは、基本内容の「雪白の翼」に書いたとおりだ。消費税を引き上げる際の負担軽減措置に保険料の減免を組み込むのが最も早道だろう。まあ、日本は、「給付つき税額控除」でさ迷っているので、たどり着くには、まだ時間がかかる。専業主婦の保険料もこれで解決がつく問題だ。

 厚労省は、専業主婦から保険料を取ることを検討しているようだが、筆者は、低額の保険料なら、次善の策として賛成だ。以前にも書いたと思うが、権利性を持たせるために、小額でも負担することには意義があるからだ。他方、別案として、夫の収入の半分に相当する保険料を妻が納めたとみなす制度も議論するらしいが、これは政治の思いつきだろうね。

 保険料は、税と違って受給権と結びついている。半分を妻のものにするということは、受給権を半分くれてやることになるが、これには数千万円もの金銭価値がある。こういう制度を作ると、受給権を譲るのを嫌って、事実婚がはびこり、却って女性の立場が弱くなるということが起こる。社会制度の世帯単位から個人単位への動きにも反するものだ。まあ、素人の思いつきなんだな。

 日経は、年金の受給開始年齢の引き上げに御執心のようだが、おそらく、無知な財政当局からでも吹き込まれたのだろう。だいたい、引き上げ計画は、現在、実施中で、これを更に上げるのは、随分と先の話になる。それに、引き上げる場合も、早期受給も選択可能にしなければならないから、結局は、年金水準を下げるのと同じことになる。そして、これも、マクロ経済スライドによって実施中のことなのだ。

 ちょっと専門的なことを言うと、保険料率18.3%で40年加入の場合、65歳から18年間給付だと、所得代替率は40.6%になる。寿命の伸びを勘案せず、単に67歳支給にしてしまうと、45.8%に上げないといけない話になる。要は、保険料に見合う給付をしなければならない以上、支給開始年齢の引き上げには制約があるということだ。他方、基礎年金を減らすのでは、低所得者への打撃が大きい。もし、今の説明がピンと来ないようなら、基本を分かってないことになるので、引き上げを主張する資格なんてないよ。どうかね、日経さん。

 年金財政にとって喫緊の課題は、マクロ経済スライドを作動させることである。むろん、デフレ下でも作動するように改正することも考えられるが、デフレを放置せず、早く脱出することが先決だろう。それには、国民の目を欺いて、デフレ下で緊縮財政をするという愚行を改めるべきである。財政当局には、年金に次々と政治的な仕掛けを繰り出すより、手前の仕事を真面目にやれと言いたい。

(今日の日経)
 高所得者年金を減額、専業主婦に保険料検討。米国債、格付け見通し下げS&P。NY株一時240ドル安。2号機プール高濃度。自動車稼働率、大手5割に。給付抑制そろり前進、支給年齢上げは見送り。復興税財源どこに、数兆規模。ギリ、ポル国債利回り急上昇。中国、日用品買いだめ。東芝3期ぶり黒字、震災減収も吸収。ワタミ弁当宅配4倍。経済教室・多様性生かす雇用・樋口美雄。東北新幹線30日ごろ前線再開。

※S&Pもまっとうなことをするんだね。米国経済のぐらつきも心配だし、中国もインフレに火がつく寸前だ。南欧の金利も止まることを知らず。海外からの経済ショックも警戒せねば。
※復興は着実に進んでいる。東芝の黒字は意外。新幹線は復興のバロメーターだ。
※ふと、週刊エコノミストを見たら、筆者と同様、震災被害の見積もりは過大と見抜き、国債の心配はないとする論者がいた。クレディスイスの白川浩道さんだ。分かる人には分かるということだね。
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プロの望みと有訓無訓

2011年04月18日 | 経済
 今日は、趣向を変えて、日経ビジネス4/18号を取り上げよう。読んでいない人は、こめんね。新編集長が就任したようなので、そのお祝いだ。実は、先々週号の時点で、寺山正一さんから山川龍雄さんに交代していたようだが、仕込みの時間もあるので、今週号が実質的なデビュー戦ではないかな。

 さて、いきなり、先制パンチで恐縮だが、巻頭に「編集長から」を持ってくるのは、いかがなものか。しかも、財政を家計に例えるという低レベルの内容。これを見ただけで、大丈夫かと思えてくる。ビジネスは、長いこと「有訓無訓」を巻頭に置いていたのを、寺山さんが巻末に変えてしまったが、これすら違和感があった。

 小姑的ですまないが、ビジネスは、元々はエグゼクティブ限定の雑誌であり、いわばプロに対面して書いていた。だから、プロでも一目置くような人の円熟味のあるコラムを巻頭に置いていたわけである。まあ、大衆化したと言われれば、それまでだが、さすがに、学生や新人に説くようなことを掲げられるとね。

 それで、「これはダメかな」とページをめくっていったのだが、なかなか良い特集を組むではないか。特に、「船頭なき漁港再建」は出色だ。今回の震災では、漁業の町が大打撃を受けたのに、日経本紙を含め、誰も漁業の将来を語らない。「エコタウン」だの、現場から遊離した話ばかりが踊る始末である。

 そんな中での「初めて」の記事だから価値がある。むろん、本コラムでは、早くから漁業の課題と将来について指摘していたが、現場取材ができるわけではないから、満足なことは書けない。ぜひ、この視点で復興を追いかけてほしいと思う。地元紙では、共同化などが報じられていて、改革の芽吹きも見られるしね。

 言うまでもないが、週刊誌は新聞と違って、取材に時間をかけられる。それだけに、新しいこと、語られてないことを抉らなければならない。ちっょと尖ったというか、一風、変わったというか、「これは知らなかった」というものがいる。例えば、巻頭の財源論など、プロなら承知のことで、せめて、どのくらいなら国債を市場は飲み込めるのか、最低限必要な増税とはどういうものかまで踏み込まないと意味がない。

 その点、先々代の佐藤時代は、時折、「読ませる」特集があった。寺山時代は、良くまとまっていて、ソツはないのだが、「日経本紙と主張が変わらないな」という食い足りなさがあった。贅沢ばかり言ってはいけないが、ビジネス編集長は、日経幹部への登竜門なのだから、頑張ってほしい。そうそう、交代間際に震災に見舞われて大変だった寺山さんも、お疲れさまでした。次は本紙での署名記事を期待していますよ。

(今日の日経)
 米独は67歳に、年金支給年齢、改革遅れる日本。震災復興財源、7割が容認。福島原発、6~9か月で冷温停止。米成長率、エコノミストが相次ぎ下方修正。中国が預金準備率0.5%上げ、インフレ抑制へ今年4回目。震災対応、今こそ与野党歩み寄れ、北岡・御厨両氏対談。

※本当なら年金を書くところだが、予定稿があったので、明日にしたよ。今週の日経ビジネスは、チェルノブイリと言い、東レと言い、粒ぞろいだったから、お勧めです。ただ「農林漁業再生5条件」は在り来たり。特区と規制緩和という「ガマの油」でごまかしてはダメよ。

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復興税より当面の経済運営

2011年04月17日 | 経済(主なもの)
 震災のようなショックが襲ったとき、経済運営で最も注意すべきは、それで成長を失速させないようにすることである。ショックが起こると、一時的にしろ、生産、消費の減退は避けられない。そして、それが更なる停滞に結びつかぬよう、スパイラルを断ち切ることが重要なのである。

 しかるに、日本の財政当局は、震災ショックを乗り切ったあと、景気が力強く回復し、インフレ懸念が出てから必要になる「復興税」のことばかりを考え、当面の震災ショックに対する舵取りを、まったく考えていない。これは極めて危険な傾向である。それに安易に乗っかっている、政治、マスコミ、有識者とも、何と能天気なことか。

 日本では、財政当局が説明しない事実は無いことにされる。復興予算を考える際、基礎になるのは、2011年度の財政状況であるが、これは前年度補正後より、4.3兆円の緊縮財政になっている。したがって、震災に際し、4.3兆円の国債を追加し、財政中立に戻すことで対応するのが常識的な経済運営である。

 おそらく、震災前の財政当局のシナリオは、景気が順調に推移すれば、昨年度と違い、予備費(1.2兆円)や補正予算を使っての景気対策をしなくて済み、合計5.5兆円の財政再建が達成されるという思惑だったと思われる。また、税収の見積もりを過少に操作していたので、これで、更に3~4兆円程度の財政再建もできると踏んでいたのではないか。

 筆者は、このような目論見が分かっていたので、日本経済は、こうした財政デフレの重荷を背負わされ、足取り重くしか成長しないだろうと予想していた。それでも、2012年度には、やたらな消費税増税さえしなければ、遂に「失われた15年」のトンネルを抜けて、3~4%の成長へと向かえるのではと希望を持っていた。

 日本の財政当局は、現状が4.3兆円の緊縮財政であることを口を噤んで説明しない。日本のトップエリートも、「予算の説明」に書いてあることなのだから、重要情報くらい、自分の目で確かめればよさそうなものだが、それを怠っている。結果として、前年度並みの赤字財政すらも極度に恐れ、今度の1次補正後でも、財政中立にしないようである。

 すなわち、日本は、震災ショックを受けたにもかかわらず、依然として緊縮財政を続け、日本経済に重荷を背負わすことをやめないということなのである。正直、常軌を逸している。こんな経済運営を是とするようなエコノミストは世界にいないだろう。日本にいると、何か狂気の渦に巻かれているような気すらしてくる。

 どうして、これほどまでに日本の財政当局は経済に無知なのだろう。その反面、世間の目を偽り、分からないように緊縮財政を仕掛ける政治的な巧妙さは恐ろしいほどだ。日本の財政当局には、学位を持つエコノミストは、今でもほとんど居ないらしい。これは途上国でも見られなくなった状況ではないか。単に無知なら、いずれ権力を失おうが、政治には長けて、権力は握り続けるのだから、なお始末が悪い。

 日経は、先週、経済教室で「復興財源を考える」を連載したが、増税論議で最も重要な、どういうタイミングで実施するかが抜け落ちている。森信先生の所得・法人税でも、田近先生の消費税でも、はたまた、今日の日学の固定資産税でも良いのだが、デフレの状況で、増税ができると本気で思っているのかね。

 日本の有識者は、全体状況での位置づけを考えず、税目をどれにするかといった、テクニックに走りがちだ。柳川先生や竹田先生の債権管理に関する工夫も興味深いのだが、こうしたことができるなら、赤字国債も出せる資金需給の状況にあると判断できるわけで、どの程度、復興財源を捻出できるかという問題に還元されるように思われる。巷間言われる「復興債」も、建設国債の別名に過ぎず、名づけによって発行額の制約が変わるものではない。

 結論から言えば、5兆円の補正予算を行い、歳出規模を昨年度並にして、財政中立にすべきである。ここまでは普通に赤字国債で賄っても何の問題もない。増税については、5兆円の金利と1/60の償還分について行えば良い。およそ2000億円であり、法人減税を1%戻すだけで十分用意できる。これだけすれば、マーケットが不安に思うことはあり得ない。

 財政再建が心配なら、一定以上の成長率や物価上昇率になったら、消費税を1%だけ上げると宣言しておけば良かろう。所得税は、年少扶養控除の廃止の影響が拡大していくので、放っておいても増税になる。これで財源が用意されるのだから、子ども手当をいじる必要はない。子ども手当を廃止すると、経済が復興から癒えきらないところで、デフレ圧力をかけるという、極めて間抜けな話になる。

 自民党は、一次補正の対案を出してきたが、政府案以上に拙劣だ。震災ショックが危ぶまれる中で、子ども手当の廃止を打ち出しており、経済状況を無視した、非常に政治的な内容である。同じバラマキをやめるなら、高速割引の早期廃止であろう。来年度以降にやめるとすれば、当面の経済への影響は少なく、1兆円の財源を作れる。しかし、これには、ほとんど手を着けない。バラマキを批判しながら、自民党政権下で始めたものには甘いのだ。

 全国紙では、政府が妥協し、野党と協力して、震災に当たるべしという論調が強いが、大連立が成立したら、そこで行われる経済運営は、今以上の経済への「逆噴射」になるだろう。これでは、管政権がふらつきながらも続くことがマシに思えるほどだ。日本の政治の経済感覚の無さには、ほとほと呆れてしまう。

 ところで、復興の財源論で不思議に思うのは、森信先生でも、田近先生でも、5年とか、3年とかの短期間で償還をしようとすることだ。復興予算にはいろいろなものが含まれるが、広い意味での社会資本の再構築であり、国債の一般ルールである60年償還でかまわないはずである。30年に短縮したとしても、4000億円の財源確保で間に合う。あとは、経済状況と相談し、早期償還を目指せばよい。震災ショックに見舞われ、景気回復の見通しも立たないのに、何兆円もの増税を提案する感覚は理解しがたい。

 これは、財政当局が醸す、世の中の財政再建の空気に冒されているのだろう。復興のための財源は、償還が終わっても廃止にはならず、財政再建の手段へと切り替えられるだろうから、大きな財源確保こそ意味がある。こういう巧妙な政治的な動きには、ナイーブな学者などは、ひとたまりもない。財源論で、唯一、議論できるレベルに達していたのは、大和総研の武藤敏郎さんだけである。財政の「蛇の道」を行くには、彼ぐらいの経験がいるのだ。

 筆者からすると、震災後の経済運営は、リーズナブルに行えば、特段の難しさはない。難しくしているのは、経済状況を考えず、政治的主張を持ち込んだり、財政再建の野心を織り込もうとするからである。経済が危うい状況において、被災者をダシにするようなまねは、やめてはどうか。

 日本の低レベルの経済運営に合わせた議論をしてきたが、本当は、ビルトインスタビライザーの状況、例えば、税収などがどのように振れるかも見なければならないし、地震特会の取り崩しも含め、保険支払いによるマクロ的な影響も考えておく必要がある。しかし、日本は、こうした議論以前の段階にあり、経済的な「自殺行為」をさせないことが最大の課題になっている。

 震災に直面して、日本人の強さを感じることが多かった。日本人であることが誇りにさえ思えてくる。それに比して、財政当局の愚劣さは、一体、何なのだろう。これを正しさえすれば、否、バカなことをやめ、平凡な財政をするだけで、国民の力が活かされて、必ずや日本は復興することができるだろう。

(今日の日経)
 小売出店が高水準、消費回復を見込む。復興財源は高齢層の寄与重要・学術会議。国家退場はあり得るか・滝田洋一。中東政変で武器流出。中外・外国だけが情報不足なのか・小林省太。コメ不足懸念は小さく。読書・国家は破綻する、想像するちから。
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電力制約と節電運動

2011年04月16日 | 経済
 我らが日経新聞がリクエストにようやく応えてくれた。「東電供給力、夏に550万kw上積み」という記事である。速報性は毎日に遅れたものの、内容は詳細で、最大5200万kwという数字もある。「節電幅縮小も」とあるように、これが震災後の景気回復のカギになる。今後の続報、解説記事に期待したい。

 本コラムでは、既に4/8の時点で、電力ギャップはあと1割とし、経済活動の大きな支障にならないところまできたと分析している。多くのエコノミストが電力制約について不安を煽っていたのとは対照的だったはずだ。「大局を見つつ、カギになる情報は徹底して探す」という基本の徹底によって、読者には有益な分析を届けられたと思う。

 節電については、日本コカコーラなどが自販機を輪番で節電するニュースが入ってきた。このすばやい対応は、日本の企業や現場の強さを示すものだろう。これを引き出したのは、言うまでもなく、石原都知事の自販機批判の発言である。正直、石原慎太郎さんの権力者然とした態度は好まんのだが、政治力の使い方の老練さは立派なものだ。

 おそらく、「この業界はこのくらいできるだろう」という読みがあってのことだろう。反発して見せた蓮舫節電大臣は、営業の自由の権利擁護で点数を稼ぐどころか、業界事情も聞かずに発言していたことが明らかになり、評判を下げる結果になった。ケンカは、相手をよく見てしなければいかんよ。

 他方、パチンコ業界はどう動くか。筆者なら、平日日中の営業を禁止し、代わりに、土日の終日や平日夜間の営業を認めるね。これが落としどころだ。筆者は、パチンコには批判的で、復興財源はパチンコ税でと思うくらいだが、こちらは置いておいても、このくらいは権力を上手く使えばできるはずだ。節電大臣にも期待しよう。

 日経は、今日のプラス1で、節電策を紹介している。以前、本コラムでは、プラス1が載せた当たり前の節電策ではダメだと批判したことがあるが、今日のは一歩前進だ。「冷房は使わない」という選択肢が入っているからね。さすがに大新聞は、「冷房はやめよう」という、弊害の伴うキャンペーンはできないが、努力はしたということかな。ご苦労様です。契約アンペアを下げるという手を示したのも良い。

 ちなみに、労働安全衛生法上、29℃以上は問題になるようだが、こういう規制こそ、非常時には緩和すべきではないか。病人や老齢ならともかく、健康なら30℃までは耐えられよう。日経は、規制緩和を唱えるのは好きだろうから、是非、思い切って取り上げてほしい。まだ、節電運動でできる余地はある。

 筆者が当局者なら、「冷房を使わない宣言」を家庭や事業所からメールで集め、前年の電気料金からの削減に成功した者とか、アンペアを下げた者とかに、「蓮舫大臣の顔写真に成功者の名前を入れた感謝状」を返信するなんてキャンペーンを張る。これなら、予算もかからない。自民党が予算を通してくれれば、金一封(ポイント一封?)があるかもとしたり、東北の物産や旅行が当たるとするのも一案だ。

 「蓮舫大臣の写真なんかいらん」という人もいるだろうから、そこは業界人らしく、協力してくれる芸能人やスポーツ選手でも募ったらどうか。家庭や小口事業所には、節電を強制する手段はないのだから、国民の参加意識を高める「まつり」がいる。何で、エコノミストの筆者が政事(まつりごと)まで教えねばならんのかな。本当は、電気料金制度の改革案を述べたいところだが、この夏までに効果を上げるには時間がないのでね。

 おっと、執筆の時間の方もなくなってしまった。マクロ経済の話もしようと思ったんだが、このところ書いてきているし、今日はこのくらいにしておこうかね。本コラムらしからぬ色モノの話になったが、たまには有名人がネタになっても悪くなかろう。

(今日の日経)
 「震災国債」復興税で償還、東電供給力、夏に550万kw上積み。電力不足・船頭多すぎる、蓮舫大臣は電気料金に反対。社説・元高迫る中国のインフレ。衆院クールビズ前倒し。政と官の総力結集遠く。規制、復興優先し緩和。GW予約JR2割減。政府、損保に2000億円。中東革命・焦燥の仏。年後半に中国経済は減速局面入り。自販機、輪番で節電。被災地図、ゼンリン無償提供。刑務官の炊き出し。プラス1・私の節電提案、体動かす音楽授業。

※国会はクールビス程度で恥ずかしくないか。冷房なし宣言とか、陛下もされている自主停電とかしたらどうだ。これで日本をリードできるのかね。
※規制とはリスク管理。震災での大きなリスクがあれば、緩めるのは当然。普段の規制緩和もしたければ、リスクの取り方を提案することだ。
※中国はいよいよかな。日本経済が復興で立ち直りかけたところで、中国の成長が失速し、対中輸出が急減するなんてこともある。最悪に備えるとはそういうこと。
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被害を知らずに復興はない

2011年04月15日 | 経済
 社会保障一体改革の会議といい、大震災の復興構想会議といい、議論することと言えば、増税論ですか。増税も結構だが、実質成長率が2%超、物価上昇率が1%にはならないと、とても経済とは整合させられないよ。そこまで景気が回復するのは2年先だろう。どうして、そんなことも分からないのかね。

 今、議論が必要なのは、2年先の増税論より、復興の柱となる制度の考案だろう。ありていに言えば、おカネの流し方である。例えば、漁業再建には、漁協を主体に共同化を進め、そこに国が出資し、漁船や養殖施設を整えさせる必要がある。その際、資源管理の観点から、漁獲量を制限する一方、漁業権を委ねた高齢の漁師には年金を出すといった仕組みもいる。

 水産加工や地場産業については、貸し工場を国費で建設して入居させ、共同の冷蔵倉庫を整備するなどして、従来以上の効率化と衛生化を図らねばならない。それを可能とする公共投資なり、出資の制度がどうしても必要である。こういう構想を掲げて、財政当局と相談せずに持って来いと言えば、農水省や自治体は、いくらでも案を作ってくれるはずだ。これを基に、短期長期のファイナンス(財源)を考えるというのが、本当の政治主導である。

 地震から1か月が経っているのに、未だに積み上げの被害額がまとまって出て来ないのはどうしたことか。復興を構想するのに、被害規模の説明も求めないのは、あり得ないことだ。いいかね、戦略を立てるときには、問題の大きさの把握が第一なんだよ。日本のトップリーダーには、こういう「いろは」から教えなくてはならんのかな。

 バラバラに出てきている被害額の算定額は、宮城県算定の2.1兆円、岩手県算定の農林水産業と商工業の0.6兆円、農水省の算定額1.2兆円、国交省の算定額1.5兆円である。また、住宅被害のオーダーは、全壊5万戸で1戸1千万円なら、0.5兆円程度にしかならない。これから膨らむにしても、さしあたり、阪神大震災の10兆円程度か、その1.5倍までを想定しておくのが妥当ではないか。

 おそらく、被害規模の数字が地震直後の内閣府のマクロ的推計の16~25兆円から更新されないのは、意図的なものだろう。なぜなら、阪神大震災レベルなら、増税は不要という結論にしかならないからだ。財政再建につなげる大規模な増税には、阪神の何倍もの途方もない被害という「ストーリー」が必要になる。単に無知なのか、情報操作によるのかは知らないが、まあ、ひどい話だね。

 今日の日経社説は、震災ショックの景気への悪影響が見え始めたのに、相変わらず、バラマキを削り、経済にデフレをかけろとの「素晴らしい」主張だ。その中で、被害額が最大25兆円であり、2次、3次補正が必要としている。完全に踊らされているわけである。報道機関が基礎になる情報も確かめないでどうするね。大本営発表しか聞かないのか。いや、日経もディスインフォメーション活動に励んでいるということか?

 復興構想会議で、もう一つ重要なのは、ダメージコントロールである。電力不足による経済への悪影響を減らすため、節電の方策を提案することも必要だ。その点、昨日の新潟県の社会実験は非常に重要なものだった。実際に節電を試し、17%の削減に成功したわけだから。本当は、政府がこういうことをしないといけない。

 新潟県は、中越地震の経験を活かし、今回の震災でもすばやく支援に動いているし、柏崎原発を抱えるせいか、節電への対応も迅速である。地方分権の時代らしいと言うべきだろうか。あるいは、今の霞ヶ関には、もはや、前向きの企画をするだけの余力は失われているのかもしれない。

 民間では、セブンイレブンが、LEDなどを5000店舗に導入し、25%の節電を達成すると発表したことは驚きだった。それだけの資材を確保できることが驚きであり、おそらく、震災前から計画してのだとは思うが、一流企業における、先を読んだ準備の怠りの無さに敬服する次第だ。復興「税」構想会議では、せめて、新潟県やセブンの「横展開」をするぐらいの提案はしてもらいたいものである。

(今日の日経)
 原発賠償へ保険機構案、東電負担立て替え。復興構想会議、震災復興税を盛る。国際不均衡一段と。社説・バラマキもっと削れる。農業被害0.85兆円。銀行・証券、平日に休業日。ギリシャ国債利回り急上昇。中東革命・成長に急ブレーキ。外貨準備、中国3兆ドル突破。セブン・5000店にLED照明を夏までに。マンション販売に陰り。小売り震災の影響限定的。経済教室・連帯の証し、消費税上げで・田近栄治。
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現場の実験とトップの逆噴射

2011年04月14日 | 経済
 毎日新聞ですまないが、東電広野火力が夏までに復旧できるメドがついたという。これはサプライズだ。広野は380万kwも持っているし、福島第一原発の30㎞屋内退避区域内で復旧が危ぶまれていたからだ。電力の追加は、ギャップを縮めるだけでなく、ピークカットの時間帯を狭めるので、極めて重要な情報になる。

 日経の「電力不足」の記事では、企業のさまざまな実験が紹介されている。世間ではサマータイムの導入が切り札のごとく言われているが、それでは済まないだろう。9時5時のワークタイムを6時2時へと3時間ずらすといった思い切った対応も求められよう。さらに、労基法の特例を認め、1時間の昼休みをなくし、1時には仕事を終わらせることにも挑戦したい。そうすれば、冷房は12時には切れることになる。

 こうした実験は、まず、国会が率先すべきだ。動きの鈍い国会も、このくらいしてはどうか。サマータイム法の是非を延々と議論するより、まず実践だ。そして、官庁、銀行、大企業へと実験の輪を広げていってもらいたい。ワークタイムのスライドは、夏が来る前に試しておく必要がある。

 また、今日は「家庭用蓄電池を投入」という記事が載った。これに関して、経産省は補助金やポイント制を検討するとしているが、我が国のエリートは間抜けなのか。供給力に限りがあるのだから、一般家庭ではなく、万一の停電に備え、人工呼吸器などを使う家庭へ国費で配布することを考えるべきだろう。これは命の問題であり、強く言っておく。

 さて、鈍くて間抜けな動きをしている日本のトップリーダーたちだが、経済への逆噴射だけは、先走って進めているようである。日経は、1日遅れだが、子ども手当を10月以降、月1万円に減額することを報じている。震災ショックで、景気減速が癒えきらない時期に、デフレ圧力をかけようというのだから、一体、何をしたいのやら。

 これに関しては、筆者がひいきの熊野英生さんが昨日のダイヤモンドオンラインに書いた良い記事があるから、参考にして欲しい。ポイントは、震災ショックの後、経済はリバウンドするものの、なかなか元のトレンドまで戻らないということである。過去の事例では、戻るのに9四半期もかかっている。ついでだが、彼の節電に関する指摘も好感が持てた。やはり、エコノミストは問題点を見つけるセンスが大切だね。

 民間シンクタンクの経済見通しは、年度後半には復興需要で回復というシナリオが多いが、それとて、水準で見れば、落ち込みを取り戻せるかどうか怪しい。とても、楽観できないのであり、今から所得を吸い上げるデフレ政策を決めるなんて常軌を逸している。今日は、大機のカトーさんが、年の功?を発揮し、無用な需要抑制論をたしなめているが、まったく、そのとおりである。

 日経は報じないが、今度の一次補正の財源に年金の国庫負担を流用することは、赤字国債の発行と実質的に同じであり、無意味だという指摘が、本コラムだけでなく、全国紙でも報道されるようになった。これに対する厚生労働大臣の猛反発も伝えられている。

 震災復興に年金財源を絡めて増税のテコにしようという財政当局の意図は見え透いており、震災対応に当たる政治家から、そんなことをされても被災地は喜ばないとの発言も出ている。国民が結束して事に当たろうというときに、財源を取り合うよう仕向ける謀略を巡らすとは、ひどいものである。

 特別版の「壮大なる愚行」を見てもらえば分かるが、日本経済を1人でダメにしている奴が居る。経済には無知で、政治ばかりに長け、現場が積み上げた努力を、マクロ経済の逆噴射で潰し続けてきた。今度の震災対応で踏み外したら、本当に日本経済は立ち上がれなくなる。もう勘弁してもらいたい。

(今日の日経)
 震災被害企業、社会保険料1年免除。東芝・パナ、家庭用蓄電池を投入。電力不足、働き方変える契機に。米赤字削減、12年間で340兆円。子ども手当減額提示へ。ムバラク氏を拘束。米個人消費じわり二極化。新日鉄、釜石を再稼動。大機・総需要抑制論の誤り・カトー。合板仮需反動の懸念も。経済教室・GDP連動国債発行を。
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がんばろう日経

2011年04月13日 | 経済
 震災の後、日経が色あせたように感じる。震災前は、米国の量的緩和、EUの財政危機、中国のインフレと、日本経済の先行きを読むにも、国際的な政治経済の情報が欠かせなかったからね。こういうものは、読売や朝日では足りない。でも今は、国内の震災後の舵取りをどうするかが再重要になった。

 もともと日経は社会部が手薄なので、被災地の様子を十分に報道できないのは仕方のない部分もある。それに、今回の補正予算の動きは「政治主導」が強かったようで、他紙に比べて半歩遅く、踏み込み不足の感もある。政治部も頑張ってはいるようなんだが、物足りなさは否めない。

 今回の震災報道で思うのは、危機にあっては、編集方針を鋭いものにする必要があるのではないかということだ。取材能力には限りがあるわけで、何が重要かを方向づけねばならない。それは論説にも関わっていて、論説が何を重視しているかで左右されると思われる。まあ、記者は社説を読む暇もなかったりするがね。

 兵法では「敵を知り己を知らば、百戦危うからず」というが、今回の震災の場合、「敵」は被害状況と回復の見通し、「己」はどれだけの財政支出ができるか、どのような対応策を案出できるかであろう。それも、経済紙らしい切り口で迫る必要がある。

 その点、内閣府のマクロ的手法で推計した16~20兆円という被害想定に、いつまでも頼るのはまずい。本コラムでは地元紙まで見て各県の積み上げの数字を探している。先日の農水省発表の1.2兆円、国交相の発表の1.5兆円を踏まえると、内閣府の想定ですら疑わしく、まして、世間の騒ぎぶりはひどいものだ。

 他方、東北地方の経済の回復ぶりは急速だ。むろん、機軸は、漁業や農業ではなく、東北道沿いの製造業である。地元紙を見ると、被災当初の見通しが前倒しされているようである。こうした動きを、日経は、総体的に、繰り返し報道してほしい。取材拠点が乏しいのだから、地元紙のニュースを買うのも手だと思う。

 また、電力については、一つひとつの火力発電所の被害状況と回復状況を徹底的に報道してほしい。情報の乏しさから、筆者は業界紙まであさっている状況だ。ここが経済回復のカギになるわけで、日経が一般紙並みというのでは不十分である。「電力不足」の連載も始まったが、節電の事例を集めるだけでなく、パチンコや自販機ではないが、目標達成に何を捨てれば良いかという戦略的な観点からの取材も必要だ。

 「己」の部分では、どのくらいの赤字国債なら許されるかという観点が必要である。危機にあってはギリギリの対応が必要なのであり、「ムダ使いをやめて、復興に回すべし」といった方向性だけの議論では足りない。震災ショックによる景気への下押し圧力の大きさへの認識にも甘さを感じる。マクロ経済への見識の深さがが問われるところだ。

 対応策については、これだけ漁業の町が被害を受けているのだから、将来の漁業の在り方について、専門家を見つけて意見を掲載するようにしてほしい。政府の復興構想会議が組織されたが、都市問題の専門家が並び、漁業の専門家は部会に1人だけである。世論の焦点にはズレがあるように感じられてならない。

 危機にあっては、対応策の「知恵」を探し出すのことが重要になる。復興構想会議は、学者中心で、財務省以外の官僚OBは排除されたようだが、現実的な策は、むしろ、財務省以外の官庁にある。読売ですまないが、元自治事務次官の松本英昭さんが提案する、津波で被災した土地を市町村が借り上げ、地代で生活を支援するとともに、計画的な復興を担保するという方法は良案ではないか。

 復興のアイデアには、「山を削って移転する」といった安易なものがあるが、それが簡単ならば、とっくにしていたことで、なぜ、できなかったのかの制度的な問題を掘り下げる必要がある。アイデアの中には、「人工地盤を作る」といった、コストを考えない夢想的なものもあるだけに、現実的な策を探りたい。

 今日は、普段の日経の紙面批評から少し角度を変え、報道されるべきものは何かを考えることにした。危機にあっては「集中と選択」が必要で、それは報道機関も同様だろう。広告が激減しているのも気がかりだし、用紙調達から、印刷、配達まで、日経自身も大変なことは分かっているが、一層の奮起を期待したい。「がんばろう日本」だ。

(今日の日経)
 危機対応融資、部品・電力不足も支援。電力不足・自主性頼みに危うさ。事故初期に大量放出、2号機損傷で。首相の決意・何も言っていないに等しい。キャンセル56万人超。年後半プラス成長に・民間予測平均。利益確定で円買い。北京住宅価格1年7か月ぶり下落。ルネサス、再開前倒し、亜鉛大手も出揃う。家庭向け大型蓄電池に引き合い。経済教室・民間資金・柳川範之。心臓は同じ10代に。

※「年後半回復」なんて甘いと思うね、復興需要と輸出拡大に期待しすぎ。中国の不動産バブルも転換点に到達した。欧州もポルトガルがギブアップ、利上げにスペインの不動産は耐えられるか。同じ少年に命が引き継がれたことが救いだ。
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得意技・戦力の逐次投入

2011年04月12日 | 経済
 経済運営について書くのも、少し飽きてきたんだがね。震災ショックがある中で、日本のトップリーダーは、「逆噴射」をやってしまいそうで、見てはおれんのよ。ごく当たり前の手法がどういうものか、見せてあげようかね。

 筆者が日本の経済顧問であれば、まず、1次補正で5兆円規模にする。これは、前年度補正後と同じ予算規模であり、デフレ予算を財政中立に戻すということを意味する。この程度でマーケットが混乱することは、あり得ない。

 ここで重要なのは、5兆円は、阪神大震災の例に照らし、15兆円もの被害規模に対応できるものであって、概ねこれで足りるはずだと、きちんと説明することだ。被害の拡大には、秋に対応を決めれば良いと、時間軸も明らかにする。5兆円の予算を消化するには、半年は短いくらいである。

 大事なのは、戦力の逐次投入を避け、震災対策にいくらかかるか分からないという余計な不安心理を一掃することである。現実には、赤字国債を出さない範囲にこだわって一次補正の規模を絞り、次々と補正をかけると言って、不安を増幅している。

 増税論議も先走り気味だし、大きく考え過ぎである。今年は震災ショックでデフレ圧力がかかる。ようやく平常の成長率に戻るのが来年。物価上昇率が十分に高まり、増税ができるようになるのは、再来年になろう。どうしても心配なら、法人税を1%だけ戻し、国債増発の金利分と長期償還分の2000億円程度の増税をすれば良い。

 また、日経は、長期金利が上昇しているとするが、今のレベルは、ごく当たり前のもので、IMFの経済見通しの2011年1.4%、2012年2.1%からすれば、低いくらいである。まだまだ資金需給には余裕がある。避けなければならないのは、政府が「震災対策はかなり大きくなる」といった根拠が不明なことを言い、金利を揺さぶることである。

 今の日本の経済運営は、デフレ気味の財政の放置、震災予算の逐次投入、冷静な積み上げを怠った被害規模の吹聴、先走りで過大気味の増税論議と、やってはいけないことのオンパレードである。さすが、最悪経済政策賞をもらう、日本らしい浮き足立ちぶりだ。トップリーダーは、少し落ち着いてはどうかね。

 他方、被災地の地元紙を見ると、サプライチェーンの回復は着実に進んでいる。今日の日経にある日銀報告が古びて見えるくらいだ。三陸沿岸の漁業の町の復興も、漁業施設の共同化などが始まっており、政府が大そうな会議をやる前に方向性は見えてきた。日本の現場は強い。それに引き換え…  もう、やめておこう。

(今日の日経)
 雇用対策まず1兆円、助成金など積み増し。原発20キロ圏外、1か月かけ計画避難。電力不足、金融・通信ハードル高く。景気下振れ東海・九州も・日銀。日本の成長、下押し限定的・IMF。主婦年金額、165万人変動も。1次補正漁業再生に2180億円。立て直せるか経済政策、市場との対話課題に。経済教室・所得・法人税の時限上乗せ・森信茂樹。

※森信先生、日本が大きな増税をするからと言って、マーケットが安心するわけではないよ。早すぎない、適切なタイミングで、機動的にできる能力を日本が持つかどうかが大事。
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震災は日本の「転機」ではない

2011年04月11日 | 経済
 御厨、北岡両先生の日本政治を慮る気持ちは良く分かるのだがね。問題は、小異の捨て方であろう。本コラムは、大連立について、自民党は、「経済を捨て、外交を取るべし」とか、大震災後において、「対策を委ね、解散権を取れ」としてきた。まあ、こうした傑出した判断ができるようなら、元から混迷してないのだけどね。

 このところ、関東大震災後の復興を担った後藤新平が再評価されているが、彼とて同じ岩手県出身の政治家である原敬とは比ぶるべくもない。原は、「国難」たる米騒動の際、収拾に向けて政府批判を控え、保守派の元老・山縣有朋の信用を得て、政党政治の幕を開けることに成功した。それだけの抑制が今の自民党にできようか。

 後藤は、辣腕の行政官であったが、政治力を養うだけの器量に乏しかった。それゆえ、権力者の下では力を発揮できたが、自らがトップリーダーになることはできずに終わる。残念だが、現在の与野党の政治家を見回して、権力さえ与えられれば力量を発揮できる「後藤レベル」の者すら居らぬだろう。

 日本の近代政治史の主要テーマに、「なぜ、原が確立した政党政治は崩壊したか」という問いがある。答えの一つは、原の後を継げるだけの政治家を輩出できなかったというものだ。高橋是清や後藤も、そうした一人なのである。関東大震災後、日本経済は、不安定になり、浜口内閣による金解禁のための緊縮財政にとどめを刺され、民心は完全に離れてしまう。

 日本政治は、また、それを繰り返そうとしているようにも見える。本コラムが再三指摘してきたように、政府は、震災後もデフレ予算を中立に戻すことすらせず、世間はその隠された実態が分からない。自民党は、子ども手当の廃止を求めているが、震災のショックで経済低迷が長引く恐れがあるのに、そんなことをすれば、西日本まで不況に突き落としてしまう。二大政党が協力してやりだすのは、おそらく、景気への逆噴射であろう。

 宮城県が積み上げて推計した被害総額は2.1兆円である。それが倍に膨らんだとし、岩手、福島両県の被害が同じくらいに大きいとしても、12兆円である。阪神大震災の例では、復興予算は被害総額の1/3程度であり、まずは5兆円あれば足りる。経財相は復興補正の総額は十数兆円とするが、まったく解せない。日本政治は、被害が巨大だと怯え切り、先走った歳出削減や増税をして、国民を苦境に落とし入れ、民心を失うのではないか。

 電力不足も心配し過ぎに思える。既に東京電力の供給力は、夏の需要量まで、あと1割まで迫った。節電ポイントで「冷房なし運動」を展開するとか、猛暑時の緊急節電の体制を整えるとかすれば、大きな経済的ダメージなく乗り切れるだろう。東北電力管内では、地元紙の記事を丹念に見れば、東通原発や女川原発の再稼動の可能性があることも分かる。要は、落ち着いて事態の限定化に臨めるかである。 

 今回の震災が日本の「転機」になるかどうかは、今後の対応次第である。現実的な施策を着実に実施していけば、十分に対応できる。怯えたり慌てたりして、経済政策の二次災害を起こさないことが重要だ。戦前の日本は、関東大震災の被害そのものより、その後の経済政策の失敗によって政党政治を失っている。

 今回の震災で日本が大きく変わるようなことが言われたりするが、省エネ生活になってパチンコ屋や自販機が減り、太陽光発電や蓄電池が普及する以外は、大きな変化はないだろう。三陸沿岸の漁業の町は壊滅的な打撃を受けたが、それは東北全体ではない。原発や電力不足の不安に浮き足立って、今回の震災を日本の「転機」にするようなことをしてはいけないのだ。

(今日の日経)
 東日本大震災1か月、再生の青写真迅速に。社説・複合危機に則した経済財政運営を。震災、景気下押し・4月月例経済。仮設工場・店舗を整備、無料貸し出し。ベトナム、インフレ対策に軸足。ミャンマー投資、中国首位に。中国、新車販売鈍化。経済教室・震災後の日本政治・御厨貴・北岡伸一。

※日経社説は、経済低迷の恐れとしているのに、子ども手当を廃止せよというのは、分裂している。廃止するにしても、復興需要で経済が上向いてからであろう、後先を考えよ。
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