御厨、北岡両先生の日本政治を慮る気持ちは良く分かるのだがね。問題は、小異の捨て方であろう。本コラムは、大連立について、自民党は、「経済を捨て、外交を取るべし」とか、大震災後において、「対策を委ね、解散権を取れ」としてきた。まあ、こうした傑出した判断ができるようなら、元から混迷してないのだけどね。
このところ、関東大震災後の復興を担った後藤新平が再評価されているが、彼とて同じ岩手県出身の政治家である原敬とは比ぶるべくもない。原は、「国難」たる米騒動の際、収拾に向けて政府批判を控え、保守派の元老・山縣有朋の信用を得て、政党政治の幕を開けることに成功した。それだけの抑制が今の自民党にできようか。
後藤は、辣腕の行政官であったが、政治力を養うだけの器量に乏しかった。それゆえ、権力者の下では力を発揮できたが、自らがトップリーダーになることはできずに終わる。残念だが、現在の与野党の政治家を見回して、権力さえ与えられれば力量を発揮できる「後藤レベル」の者すら居らぬだろう。
日本の近代政治史の主要テーマに、「なぜ、原が確立した政党政治は崩壊したか」という問いがある。答えの一つは、原の後を継げるだけの政治家を輩出できなかったというものだ。高橋是清や後藤も、そうした一人なのである。関東大震災後、日本経済は、不安定になり、浜口内閣による金解禁のための緊縮財政にとどめを刺され、民心は完全に離れてしまう。
日本政治は、また、それを繰り返そうとしているようにも見える。本コラムが再三指摘してきたように、政府は、震災後もデフレ予算を中立に戻すことすらせず、世間はその隠された実態が分からない。自民党は、子ども手当の廃止を求めているが、震災のショックで経済低迷が長引く恐れがあるのに、そんなことをすれば、西日本まで不況に突き落としてしまう。二大政党が協力してやりだすのは、おそらく、景気への逆噴射であろう。
宮城県が積み上げて推計した被害総額は2.1兆円である。それが倍に膨らんだとし、岩手、福島両県の被害が同じくらいに大きいとしても、12兆円である。阪神大震災の例では、復興予算は被害総額の1/3程度であり、まずは5兆円あれば足りる。経財相は復興補正の総額は十数兆円とするが、まったく解せない。日本政治は、被害が巨大だと怯え切り、先走った歳出削減や増税をして、国民を苦境に落とし入れ、民心を失うのではないか。
電力不足も心配し過ぎに思える。既に東京電力の供給力は、夏の需要量まで、あと1割まで迫った。節電ポイントで「冷房なし運動」を展開するとか、猛暑時の緊急節電の体制を整えるとかすれば、大きな経済的ダメージなく乗り切れるだろう。東北電力管内では、地元紙の記事を丹念に見れば、東通原発や女川原発の再稼動の可能性があることも分かる。要は、落ち着いて事態の限定化に臨めるかである。
今回の震災が日本の「転機」になるかどうかは、今後の対応次第である。現実的な施策を着実に実施していけば、十分に対応できる。怯えたり慌てたりして、経済政策の二次災害を起こさないことが重要だ。戦前の日本は、関東大震災の被害そのものより、その後の経済政策の失敗によって政党政治を失っている。
今回の震災で日本が大きく変わるようなことが言われたりするが、省エネ生活になってパチンコ屋や自販機が減り、太陽光発電や蓄電池が普及する以外は、大きな変化はないだろう。三陸沿岸の漁業の町は壊滅的な打撃を受けたが、それは東北全体ではない。原発や電力不足の不安に浮き足立って、今回の震災を日本の「転機」にするようなことをしてはいけないのだ。
(今日の日経)
東日本大震災1か月、再生の青写真迅速に。社説・複合危機に則した経済財政運営を。震災、景気下押し・4月月例経済。仮設工場・店舗を整備、無料貸し出し。ベトナム、インフレ対策に軸足。ミャンマー投資、中国首位に。中国、新車販売鈍化。経済教室・震災後の日本政治・御厨貴・北岡伸一。
※日経社説は、経済低迷の恐れとしているのに、子ども手当を廃止せよというのは、分裂している。廃止するにしても、復興需要で経済が上向いてからであろう、後先を考えよ。
このところ、関東大震災後の復興を担った後藤新平が再評価されているが、彼とて同じ岩手県出身の政治家である原敬とは比ぶるべくもない。原は、「国難」たる米騒動の際、収拾に向けて政府批判を控え、保守派の元老・山縣有朋の信用を得て、政党政治の幕を開けることに成功した。それだけの抑制が今の自民党にできようか。
後藤は、辣腕の行政官であったが、政治力を養うだけの器量に乏しかった。それゆえ、権力者の下では力を発揮できたが、自らがトップリーダーになることはできずに終わる。残念だが、現在の与野党の政治家を見回して、権力さえ与えられれば力量を発揮できる「後藤レベル」の者すら居らぬだろう。
日本の近代政治史の主要テーマに、「なぜ、原が確立した政党政治は崩壊したか」という問いがある。答えの一つは、原の後を継げるだけの政治家を輩出できなかったというものだ。高橋是清や後藤も、そうした一人なのである。関東大震災後、日本経済は、不安定になり、浜口内閣による金解禁のための緊縮財政にとどめを刺され、民心は完全に離れてしまう。
日本政治は、また、それを繰り返そうとしているようにも見える。本コラムが再三指摘してきたように、政府は、震災後もデフレ予算を中立に戻すことすらせず、世間はその隠された実態が分からない。自民党は、子ども手当の廃止を求めているが、震災のショックで経済低迷が長引く恐れがあるのに、そんなことをすれば、西日本まで不況に突き落としてしまう。二大政党が協力してやりだすのは、おそらく、景気への逆噴射であろう。
宮城県が積み上げて推計した被害総額は2.1兆円である。それが倍に膨らんだとし、岩手、福島両県の被害が同じくらいに大きいとしても、12兆円である。阪神大震災の例では、復興予算は被害総額の1/3程度であり、まずは5兆円あれば足りる。経財相は復興補正の総額は十数兆円とするが、まったく解せない。日本政治は、被害が巨大だと怯え切り、先走った歳出削減や増税をして、国民を苦境に落とし入れ、民心を失うのではないか。
電力不足も心配し過ぎに思える。既に東京電力の供給力は、夏の需要量まで、あと1割まで迫った。節電ポイントで「冷房なし運動」を展開するとか、猛暑時の緊急節電の体制を整えるとかすれば、大きな経済的ダメージなく乗り切れるだろう。東北電力管内では、地元紙の記事を丹念に見れば、東通原発や女川原発の再稼動の可能性があることも分かる。要は、落ち着いて事態の限定化に臨めるかである。
今回の震災が日本の「転機」になるかどうかは、今後の対応次第である。現実的な施策を着実に実施していけば、十分に対応できる。怯えたり慌てたりして、経済政策の二次災害を起こさないことが重要だ。戦前の日本は、関東大震災の被害そのものより、その後の経済政策の失敗によって政党政治を失っている。
今回の震災で日本が大きく変わるようなことが言われたりするが、省エネ生活になってパチンコ屋や自販機が減り、太陽光発電や蓄電池が普及する以外は、大きな変化はないだろう。三陸沿岸の漁業の町は壊滅的な打撃を受けたが、それは東北全体ではない。原発や電力不足の不安に浮き足立って、今回の震災を日本の「転機」にするようなことをしてはいけないのだ。
(今日の日経)
東日本大震災1か月、再生の青写真迅速に。社説・複合危機に則した経済財政運営を。震災、景気下押し・4月月例経済。仮設工場・店舗を整備、無料貸し出し。ベトナム、インフレ対策に軸足。ミャンマー投資、中国首位に。中国、新車販売鈍化。経済教室・震災後の日本政治・御厨貴・北岡伸一。
※日経社説は、経済低迷の恐れとしているのに、子ども手当を廃止せよというのは、分裂している。廃止するにしても、復興需要で経済が上向いてからであろう、後先を考えよ。
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