経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

大局とナショナルリーダー

2011年04月10日 | 経済
 日本人は大局を見るのが苦手だ。現下の経済財政運営を考える上で、最も重要な情報は、震災でどのくらいの被害が出ているかであり、電力の回復がどこまで期待できるかである。危機管理でもそうだが、何が鍵となる情報かを意識する必要がある。現実の政策論議は、震災対策の補正予算の財源を、国債にするか、「埋蔵金」にするかという、経済的にはどうでもよい事柄に労力を使い、震災被害の大きさにおののき、予算規模をどのくらいにするかで揺れ動いている。

 4/2の本コラムでは、内閣府の16~25兆円という被害推計は過大ではないかと指摘した。被害状況の把握は、こうした初期のマクロ的な推計に頼らず、順次、発表される被災県からの積み上げの数字を気にしなければならない。しかるに、頭から内閣府の推計を信じ込んでいるエコノミストばかりだ。例えば、JMMでエコノミストの認識を垣間見ると、多少でも懐疑的な姿勢を見せたのは、筆者がファンである北野一さんくらいのものである。

 筆者の推計は、今のところ15兆円以内である。内閣府の推計よりは随分と小さいが、これでも阪神大震災の1.5倍であり、甚大な被害であることに違いはない。ただ、これによって、阪神のときの復興予算3.4兆円から、まずは、5兆円程度を用意すれば良いという見極めがつく。過大な被害想定を頭におき、「復興税がいる」と慌てふためく必要はない。そもそも、5兆円を超える復興予算を用意しても執行ができない。復興は、土木建築が中心となろうが、GDPの公的資本形成は年間で20兆円もないのであり、いくら予算を積んでも供給力には限りがあるからだ。実際、仮設住宅の資材は既に不足し始めている。

 経済学者の中には、復興需要の見合いに、増税などをして、需要の削減をしないとインフレの不安もあるとする御仁もおられるが、意味がない。確かに、建設資材は値上がりしよう。しかし、子ども手当を廃止して、子供向けの財やサービスを削減したところで、防ぎようがないことだ。こういうことをして、震災には関係がない北海道や西日本を不況にし、全国での物価上昇率の平均を下げたところで、何の意味があろうか。日本全体の国力を落とし、かえって復興を遅らせることになる。政策的には、他地域の公共事業の抑制くらいで十分である。

 本コラムで何度も指摘しているように、2011年度予算は、前年度補正後から4.3兆円も少ないデフレ予算である。したがって、震災を契機として、財政中立に戻し、予備費1兆円と合わせて、5兆円の復興予算を組むことは、何の問題もない。むしろ、ああでもない、こうでもないと、時間をかけることが有害である。ものすごい復興財源がすぐにでも必要になるとイメージし、財政の先行きへの余計な不安を煽ったり、震災ショックで全般的な需要が落ちているのに、歳出削減や増税をして、景気を失速させるという二次災害も起こしかねない。

 日本にリーダーシップがないのは、何が大事で、何が瑣末かを判断できないことによる。優先順位をつけられないのは、大局観がないからである。今年度予算がどういう位置づけにあるかも知らず、被害状況の正確な把握にも努めず、復興に必要な供給力も考えない。闇雲に大変な事態だと騒ぎ、年来の財政赤字問題ばかりを気に病んでいる。

 これは、政治の問題だけではない。全国紙も、大方のエコノミストも、みんなそうなのだ。日本のトップリーダーが揃いもそろって「視野狭窄」なのは、なぜ、なのだろう。先日の「大機」ではないが、日本は諸外国もうらやむような国力をまだ持っている。それを普通に活かせば良いだけなのだ。腹を括ったようなナショナルリーダーが現れると大きく変わると思うがね。

(今日の日経)
 風評被害に貿易保険。牛乳・水PBし用品増産。社説・大震災1か月。外国人労働者の不足深刻。近隣を希望でミスマッチ。LED電球需要が震災後に急増。読書・就社社会の誕生、戦前昭和の社会。津波に負けぬサクラが開花。
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迷走における日本人らしさ

2011年04月09日 | 経済
 日本人の長所はコンセンサスを重視することだ。そして、日本人の短所もコンセンサスを重視することである。そう、危機にあたって、少数意見の尊重をしていたら、迷走することになる。最善の策を選ぶのに時間をかけるより、次善の策で良いから即決する。これが必要なのである。

 昨日の読売の社説は、「政策のすり合わせもないところでの大連立があり得ないのはもっともだ」とか、「バラマキ施策を撤回し、それで浮く財源を復旧・復興に回すのは当然だろう」としている。事の是非はともかく、多くの日本人は、これに違和感を覚えないと思う。しかし、日本人らしくない筆者には、異様に映るのだ。

 あえて外国人的な感覚と言ってしまうが、危機が起こったら、リーダーには全権委任である。権力を振るうのに条件などつけない。その代わり、区切りがついたら、明確に責任を問う。強権と問責、これを表裏一体とすることで乗り切るのだ。「すり合わせ」だの、「施策の撤回」だの、何を言っているんだとしか思えない。

 むろん、「強権と問責」にも欠点はある。強権を与えたはよいが、問責ができなくなり、長き独裁に至ってしまうのは、外国ではよくある話だ。また、米国の911後の対テロ戦争で分かるように、あとで評価してみると、やり過ぎによって、別の問題を作ってしまったということもある。

 もし、大震災の直後に、自民党の谷垣総裁が、「政府案はすべて通す、その代わり、解散権を寄こせ、震災対応が一区切りついたら、国民の信を問おう」と言っていたら、実現しただろうし、今と違った展開になっていたと思う。さらに、「総選挙後、自民党が参院で過半数でなくても、政府予算案を1回だけは黙って通すことで、借りを返してくれ」としていれば、これも通っていただろう。

 こうした決断によって、大震災への対応が迅速になされたことはもちろん、ねじれた二院制を不文律で解決する、新たな「憲政の常道」まで創られたに違いない。民主主義とは、優れた政治決断を通じて完成を見ていくものだ。誰も気づいてはいないが、大きな機会を日本政治は逃したと言えよう。

 読売に限らず、「危機であろうが、リーダーが降りることで、結束を図るべし」というのは、日本人らしい感覚のようだ。日経オンラインの小峰隆夫先生の論考「震災で明らかになった政治の深刻な構造的課題」も、そのようなもので、大震災が起こったとき、政府・民主党は看板施策を降ろし、野党・自民党と妥協すると思ったらしい。筆者とは逆の感覚だが、これが多数派ではないか。

 しかし、危機にあたって、少数意見の尊重をしだすと、厄介な問題が起こる。権力に責任のない少数派はハードルを上げてくるのである。実際、自民党は、民主党が子ども手当の上乗せ断念など、多少の妥協を見せたのに対して、全面撤回を求め続け、さらには首相交代まで突きつけるようになった。与党の国民新党ですら、郵政関係の要求を通すため、子ども手当のつなぎ法案で造反している。日本人的な感覚は「迷走」の素になりかねないのだ。

 また、自民党の首脳部は、大震災が起こった後、「これで総選挙は遠のいた」と思ったらしい。筆者は逆に「1年以内に信を問うことになる」と直感した。むろん、今は被災地で選挙をするのは無理である。一票の格差是正の必要もある。しかし、半年たてば被災地でも可能性はあるし、自民党が望めば、被災地を後回しにすることもできる。一票の格差是正は、それこそ、やる気の問題だ。大震災の対応は、結果責任を問うべき重大事ではないか。

 大震災を巡る、今回の一連の政治の動き、世論や有識者の見方を眺めていると、管首相の資質うんぬんではなく、日本人の心性そのものがリーダーシップ欠如の原因ではないかと思えてくる。コンセンサスを求める文化は、平時において安定した社会を作る。危機の場面で、それを急に切り変えるのは無理な話であり、「迷走」は日本らしさの発露と、あきらめるしかないのかもしれない。

(今日の日経)
 景況感、急速に悪化。女川・東通原発が冷却機能一時失う。夏の停電回避綱渡り。一次補正財源に年金向け2.5兆円転用。長期金利上昇、一時1.33%。ホンダ、2~3か月でフル生産。洋上風力発電コスト半減。アマゾン、避難所に配達。仮設住宅、平たんな用地確保に苦慮。
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大震災後のリスクとビジョン

2011年04月08日 | 経済
 残る大震災後のリスクは、間抜けな経済運営をすることだけになった。今日の富民さんの「大機」を見るが良い。これが日本経済の客観的な底力であり、これを普通に活かせば、天災から立ち直ることは難しくない。富民さん、久々に爽快だったよ。中堅どころの書き手は、浮き足立ったことばかりを連ねていたからね。

 あとは、今年度予算が前年度よりデフレ予算になっているという「事実」をわきまえず、大震災の経済ショックを受けても中立にすら戻さない、「度外れた」経済運営をすることによる「人災」だけが心配される。財源を国債にするか、年金の「埋蔵金」にするかという、経済的には同じことで、どうでもよい調整に時間を浪費する体たらくぶりだからだ。

 最大のリスクだった原発事故は、今の「良くない状態」が1年続くだろうが、一応の安定を見せている。周辺の放射能は、少しずつではあるが、薄らいでいこう。夏場の電力不足については、日経にはないが、鹿島共同火力の復旧などで5000万kwが確保できそうであり、平年の夏の最大需要5500万kwにあと1割に迫った。節電努力が加われば、経済活動の大きな支障にならないところまで来た。

 おそらく、大震災による4-6期までの経済活動の落ち込みは、大きく出ると思われる。大変な政治的労力をかけて既存歳出の削減を行ったところで、あとで景気対策を追加せざるを得なくなるだろう。阪神大震災のときがそうだったのであり、復興よりも多くの財政出動を景気対策に使っている。

 震災復興は、供給力の制約があって、徐々に進めるしかないから、復興予算を無闇に積み上げても無意味である。もちろん、他地域で建設需要を増やす公共事業や住宅投資の追加もできない。できる景気対策は、所得再分配の手法に限られるわけで、子ども手当を減らしておいて、今度は減税をするといった、ストップ&ゴーの極めてくだらない経済運営になろう。まあ、何もしないで経済を低迷させる可能性も高いがね。

 さて、レベルの低い経済運営の評論をしていると、こっちまで程度が落ちる気がしてくる。マクロの話は、このくらいにして、今日は、具体的な復興策についても触れておく。復興とは「漁業再生」だという話だ。

 関東や阪神の大震災のときは、都市の再生が必要だったが、今回の震災は都市で起こったわけではない。東北の「首都」仙台の中心部に大きな被害はない。再生の対象は、三陸沿岸の漁業の町であり、日本再生だの、復興庁だのといった上滑りな議論はやめてもらいたい。

 東北の漁業の課題は、資源管理型への転換であり、効率化・高鮮度化である。例えば、中小の漁船を、フィッシュポンプや瞬時の冷蔵装置を装備する「改革型」の大型まき網船に集約するといったもので、限られた水産資源を保全するために漁獲量を減らす一方、効率化や高鮮度化によって所得を高めなければならない。それが若い後継者を得ることにもつながる。

 したがって、単に地震や津波によって破壊された漁船や漁港を復旧して元に戻すのではなく、しっかりした生活保障をした上で、高齢の漁民には引退してもらう一方、高付加価値の漁業を実現すために、若手には十分な設備投資をしてやる必要がある。それには、ビジョンと予算が必要で、政治的なリーダーシップも欠かせない。報道される「復興委員会」のメンバーに、都市の専門家はいても、漁業のプロがいないのはどうしたことか。

 三陸沿岸の交通網の「復興」についても、ローカル線を復旧させるだけでは将来につながらない。もともとが赤字で、高齢化で存続が危ぶまれていたからだ。例えば、復旧の代わりに「基金」を設けて無料バスの運行で代替するとか、全面復旧をせず、道路と鉄路の両方を走れるDMVを導入するとかが考えられる。思い切って、高速道路に投資するという方法もあろう。いずれにせよ、新たなビジョンと予算が必要である。

 政治の役割とは、こうした新たなビジョンを掲げ、必要な予算は確保すると約束した上で、専門家と官僚を駆使して具体策を立案させることである。どうでもよい財源の手当策で延々と揉んでいる場合ではあるまい。日本のトップリーダーのレベルの低さに引きずられてしまい、本当のリーダーシップの「切れ味」を忘れてはならないのだ。

(今日の日経)
 宮城で震度6強、東北で広域停電。欧州中銀0.25%利上げ。追加引き上げに含み、混乱広げる恐れ。ポルトガルが金融支援要請。復興1次補正、国費で4兆円方針。日銀、11年度見通し大幅修正。電力制限、大口25%で最終調整。節電へ時間差操業。大機(富民)・日本は世界一の債権国、供給余力10兆円、所得収支の黒字12兆円、国内余剰資金10兆円。経済教室・中国の平和的発展・関志雄。

※ついにポルトガルが降参した。日本より財政赤字はひどくないのにね。なぜなのか、富民さんの「大機」を読んで考えてもらいたい。日銀も見通しを大幅に下げているのに、緊縮財政を継続させ、人災を呼び込むことの愚かしさが分かるというものだ。
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補正の財源は埋蔵金

2011年04月07日 | 経済
 結局、政府は「埋蔵金」に手をつけることにしたようだね。日経は経済対策を捕まえるのが得意なはずだが、今回は他紙に遅れている感が拭えない。残念ではあるが、他紙も参考にし、補正予算は3兆円規模、財源は2.5兆円の年金国庫負担の流用という前提で解説する。

 日経の社説は、「バラマキをやめて復興に」であり、一応、「それで足りなければ国債も」ということにはしてるが、子ども手当で1.5兆円、高速割引の財源で2兆円と、バラマキの大きさと補正予算の規模を踏まえれば、事実上、歳出の組み替えだけで復興予算を賄えという主張と見ることができる。要は、国債の増発には反対なのである。

 さて、年金財源の流用であるが、これをすると、給付を引き下げるわけではないので、その分だけ、特別会計の「埋蔵金」である年金積立金がやせ細ることになる。「埋蔵金」とは言っても、金庫に札束が置いてあるわけではなく、大部分が国債で運用されているから、これを売って現金化することになる。つまり、国債を増発して財源を確保することと、経済的には、まったく変わりがない。

 すなわち、日本の財政当局は、2011年度当初予算が、前年度補正後と比べて4.3兆円のデフレ予算であったのを、財政中立に向け2.5兆円だけ戻すという判断をしたことになる。大震災による経済ショックがあるわけだから、こうした方向での判断は妥当なものだ。財政当局は、日経より現実的なのである。

 世間では、日本の国債残高の大きさを取り上げて、復興予算を国債で賄ったら、金利が急騰して財政が破綻するみたいな主張が多い。今回の補正予算が決まったら、実態は国債増発と変わらないのだから、財政は破綻しないとおかしい話になる。もし、年金財源の流用なら構わないと言うのなら、経済にも財政にも無知だということを白状するようなものだ。

 むろん、この程度の財政出動では財政破綻などあり得ない。起こりそうなのは、一次補正後でも、まだ財政中立ではなく、経済にデフレ圧力を与え続けるために起こる景気の失速である。このところ、米欧の金利先高感から円安に進んでいるが、もし、大規模な復興需要によって、日本経済が急速に回復するという見通しが立つなら、長期金利が上がり気味になって、こうはならないはずだ。

 もっとも、長期金利が少しでも上がろうものなら、財政破綻の大合唱が巻き起こるだろうから、日本がそういう選択をするとは思えない。しかし、円安と長期金利の低さは、日本が経済政策として何を為すべきかを示しているように考える。何しろ、筆者は、日経と違い、市場と対話する主義なのでね。

 年金財源の流用は、経済的には国債増発と変わらないが、政治的には意味が違ってくる。年金積立金の減少は、年金財源への焦燥感を募り、将来の消費税増税の布石になるからだ。また、復興か年金かという選択を迫って、復興予算の抑制にも役立つ。こんな手法は、被災者と高齢者が財源を巡っていがみ合うタネになるので、従来は避けていたのだが、日本政治も変わったものである。

 最近、政治やマスコミ、まあ、世論と言ってよいのかも知れないが、これが財政当局以上のタカ派となって硬直的になり、市場とも対話しようとしないのは気になるところだ。財政破綻キャンペーンの毒が回って、財政当局さえコントロールできなくなってきている。復興や経済ショックへの対処が目に入らず、国債残高の恐怖に頭を支配されているというのは、ある種の狂気である。

(今日の日経)
 脱金融緩和欧米も、日本は例外、円独歩安。復興への道、現場が先導。小売り大手、物流ほぼ復旧。一次補正政府予算案、総額3兆円超え確実。漁業者に500億円融資。北京、外資の最低賃金上げ。ポルトガル国債購入停止を示唆。工場再稼動広がる。経済教室・平均の概念が意味なさないベキ分布・高安秀樹。

※東北地方の内陸軸の復興は早い。阪神大震災以上のように思える。今月中に東北新幹線が復旧すれば、その象徴になるのではないか。このところ、被害規模の推測や復興の方向性などを知るため、岩手日報や河北新報などのHPを見るようにしている。東京の議論がいかに恐怖に満ちていて上滑りになっているかがよく分かるよ。
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日経論説への財政基礎講座

2011年04月06日 | 経済(主なもの)
 どうも、日本のトップリーダーには、「日本の国債残高のGDP比は先進国の中で最悪」という知識しかないようだ。一般国民なら、それでも構わないが、それだけで財政を語ろうというのでは、「何とかの一つ覚え」だろう。今日は、財政を知らない日経の論説委員の諸君への基礎講座である。

 財政を知るには、この3年ほどの動きを振り返っておく必要がある。リーマンショックに見舞われた後の2009年度、その予算規模は補正後で102兆円であった。それが2010年度には、同じく補正後で97兆円になっている。つまり、昨年度1年間は、差し引き5兆円のデフレ財政を行ってきたことになる。

 むろん、2009年度は、リーマンショックに対応するための緊急措置をしていたから、そこから予算規模を縮小していくのは当然ではあるが、その幅が、どの程度であるべきかについては議論が必要だ。トップリーダーは、財政当局の宣伝を鵜呑みにするのではなく、これができなければならない。

 筆者の見方は、急速過ぎるというものだ。実際、年度後半になって、景気対策が次々に打ち切られると、景気回復は踊り場を迎えた。日本のトップリーダーは、景気対策を「ぶった切る」ことに快感を覚えるようであるが、経済にとっては、それが財政健全化のためであろうと、そうした急激さは危険である。きちんとした経過措置を設けなければならないことは、駆け込み需要とその反動で混乱したことを、改めて挙げるまでもない。

 次に、今年の2011年度予算であるが、予算規模は92兆円である。前年度補正後の97兆円と比較すれば、差し引き5兆円のデフレ財政ということになる。四捨五入が重なっているので、正確な数字で言うと、4.3兆円のマイナスだ。そして、ここに東日本大震災が発生し、その復興のための補正予算をどうするかが、今の焦点である。

 大震災の発生直後、日銀は、10数兆円の大量の資金供給を行い、債権買い入れ枠の5兆円拡大も実施した。このような経済ショックに対応して、金融緩和の措置を取るのはセオリーである。経済ショックは、生産、消費、設備投資へと波及していくから、財政も、復興に必要な支出も含めて、拡張の措置を取るというのが、これまたセオリーだ。

 例えば、阪神大震災のときの1995年度は、災害対策に3兆円、景気対策に5兆円の財政出動を実施した。この年度のGDPは480兆円、経済成長率は2.3%だから、その大半を財政出動で確保したことになる。逆に、それをしていなければ、日本経済がどうなっていたかを考えると、恐ろしいものがある。

 さて、今回の2兆円規模とされる補正予算であるが、予備費と予算の付け替えで財源を確保するようなので、補正後の予算規模には、まったく変化がない。つまり、大震災のショックに直面して、デフレ財政を敢えて変更しないという判断である。これは、正直、常軌を逸している。やるなら、せめて、極めて危険な行為をしているという認識を持ってもらいたい。

 日経の論説は、当初予算の国債発行額を1兆円でも増やしたら、財政が破綻すると信じ込んでいるみたいだが、実態は、予算規模を4.3兆円拡張したとしても、前年度と同じになるだけのことで、デフレ財政を中立に戻すに過ぎない。これで財政が破綻するなど、あり得ないだろう。むしろ、経済ショックに直面しているのに、デフレ財政を貫く方が異常だ。

 確かに、予算規模を前年度と同じに拡張すると、国債発行高は前年度の44兆円より増えることになるが、これは、今年度は埋蔵金の発掘額を減らしていることによる。形式的に増えたとしても、純債務の増加という観点では、実質的に同じである。何なら、国債増額でなく、埋蔵金の発掘という「経理操作」で用意することも可能だ。

 昨日の朝日に掲載された、現役の会計検査院審議官の飯塚正史さんが提案する、「決算剰余金」を使うという「経理操作」には、思わず苦笑させられたが、他にも、いろいろな手はあり、それこそ、政治が決断し、財政当局にやれと言えば、いくらでも捻り出してくるだろう。もっとも、それならOKに宗旨替えするというのでは、経済学の見識が疑われるが。

 改めて言うまでもないが、経済的な観点では、4.3兆円の国債増発を市場が消化できないはずがない。日銀の資金供給と債権買い取り枠の拡大で余裕があるし、大震災の被害が巨額だと騒がれても、長期金利は安定したものである。しかも、欧米には金利先高感があって円安方向なので、マンデル・フレミング効果で減殺される心配も少ない。そして、大震災のショックによって、経済の停滞から資金が余り気味になることは目に見えている。

 もちろん、野放図な予算規模の拡大はすべきではない。筆者は、阪神大震災の復興予算が3.4兆円だったことを踏まえると、地震と津波の被害への対応は、5兆円程度で間に合うと考える。大雑把な内閣府の被害推計を基に、阪神大震災のときの何倍にもなると騒いだり、原発や停電の被害に怯え、「どれほど必要か分からない」というパニックになってはいけない。日本は、緊縮財政とパニックの極端に振れ過ぎである。

 もし、どうしても国債を増発するのが不安なら、5兆円の増発分の金利と1/60の償還に必要な増税だけを行えば十分である。それは2000億円にも満たす、5%の法人減税を4%に留めるだけで十分に捻出できる。この程度の増税なら、国民的合意だの大連立だのが必要になるものではあるまい。

 先日も取り上げた大和総研の武藤敏郎さんだが、昨日の朝日にあった「復興基金」と「連帯税」の構想は、筆者の前述の最低限の増税策と、理論的に同じものである。国が債務保証をし、利子と償還財源を連帯税で補填することと、赤字国債を発行し、利子と償還財源分を増税することは、経済的に変わりがない。ボイントは、最低限必要な増税は、意外に小さいということだ。

 武藤さんは、財務省、日銀、民間シンクタンクを経験し、現実的な経済政策を立案するのに、最も見晴らしの良い位置に居る。その人が言っているのだから、信じてやってほしいね。少なくとも、君たち日経の論説より、遥かに良く財政を分かってるよ。ところで、委員長は、平田育夫さんから、誰になったのかな。「核心」でのデビューが楽しみだね。

(今日の日経)
 計画停電、月内に原則廃止、夏場大口25~30%制限、家庭も15%節電。トヨタ国内は大半再開。中国、0.25%追加利上げ。1次補正財源、歳出見直しで1兆円。高濃度汚染水6万トン。経済教室・地方の財政支援・土居丈朗。
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節電ポイントと現場力

2011年04月05日 | 経済
 4-6月期は2.6%ものマイナス、2011年度でも0.6%成長という民間予測は、妥当なものだろう。2011年度予算は前年度補正後と比べて5兆円のデフレ予算であるものを、大震災のショックがあっても変えようとしないのだから、景気が失速するのも当たり前だ。バラマキ是正に拘る日経の論説も目を覚ましたらどうかね。

 しかも、この予測は、6兆円前後の復興向けの補正予算を見込んだ数字だ。第1次補正の段階では、予備費と歳出付け替えだけだから、追加はゼロである。このまま、財源論や大連立を巡ってまこまごしている間に景気が大きく落ち込み、慌てて景気対策に舵を切るという展開になりそうだ。どうして、日本は、こうも異常なことをするのか。

 他方、「異常」な対応も必要な夏の電力不足に対しては、平々凡々たるものだ。昨日の日経によれば、輪番操業のカルテルと緑地制限の緩和が目玉のようだから、力が抜ける。日経も、火力発電の復旧の見通しについて逐一報道するようにしてほしい。明日の計画停電の中止は、日経にはない鹿島火力の復旧によるものだ。情報が少なくては、生産再開の計画が立てられない。

 夏の電力不足の克服には、徹底した節電しかない。猛暑時に計画停電で冷房を止めたりしたら、病人や老人の中には死者が出かねない。計画停電を避けるには、元気な者が我慢し、率先して冷房を切る仕組み作りが必要だ。それには「節電ポイント」のような制度を設けてはどうか。 

 例えば、各家庭で7、8月の電力消費量を前年より2割削減したら、5000円のポイントをプレゼントするというものだ。目標と報奨、これが大事である。単なる「節電しましょう」の掛け声だけでは、効果があがらない。関東地方の人口は4100万人だから、世帯数は1600万ほどだろうか。半分が達成するとして、予算額は400億円くらいである。ポイントを被災地への義捐金に充てる選択も可能にすれば良い。

 企業に対しても、午後2時から6時の間は冷房を切るという宣言を募り、そうした社を公表して賞するとともに、達成のあかつきには、従業員1人当たり1000ポイント出すというのはどうか。1000円では、達成時の祝賀会の費用くらいにしかならないが、それを持つという姿勢が、やる気を引き出すのである。

 冷房を切って暑さに耐え忍ぶことを思えば、5000円や1000円は安いが、問題は多寡ではない。目標を明らかにし、努力を認めるときに、日本人は強い現場力を発揮する。それを引き出すのが日本的なリーダーシップなのである。

 大局を見て国の舵取りをするというリーダーシップは、正直、日本人には求めがたいものかもしれない。しかし、現場力を引き出すリーダーシップなら得意のはずだ。このくらいの底力は見せてほしい。

(今日の日経)
 議定書の例外扱い要請。低濃度汚染水を海に放出。閣僚増を野党に提案。2.6%マイナス成長予測、4~6月民間平均、震災を反映、輸出・消費が落ち込む、2011年度で0.6%成長。東電100万kW超上積み。中国「値上げ抑制」指導、物価高が工業製品に波及。経済教室・ものづくり・中村伊知哉。
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大連立の危機管理

2011年04月04日 | 経済
 本コラムは、同時代的に歴史の「If」を書いているようなところがある。大震災の直後、「自民党は、解散の約束と引き換えに、政府案へ全面的に賛成すべし」としたものとかである。そうしていれば、日本政治の信頼回復につながったと思う。

 大連立にしても、具体的にどうすれば良いかを書いてきた。「外交、安全保障、選挙改革の閣僚を確保し、経済政策については民主党に任せるべし」という内容だった。これも、民主と自民どちらに有利というのではなくて、日本政治に必要なものを記したつもりである。

 前者については、危機においては権力を集中する一方、評価を受ける時期を明らかにするという考え方、後者は、内政と外政を区分した政治責任の確立という考え方であり、諸外国では普通の手法である。これを日本政治の憲政の常道としたいと思ったわけだ。

 さて、年度が変わっただけで、にわかに大連立の機運が高まってきた。その内容は、復興担当、防災担当、沖縄担当の大臣を設けて、自民党に担わせるもののようだ。二大政党が協力して大震災という国難に対応するらしいが、失敗したら、どういう形で責任を取るつもりなのだろうか。

 まあ、自民党には「有能な人材」が居るそうなので、失敗はあり得ないのかもしれないが、筆者は、失敗した場合を常に考えておくことが、危機管理の提要だと思っているのでね、希望的観測などは持たないのだよ。

 阪神大震災をなんとか乗り切れたのは、震災対策と景気対策に、惜しまず財政出動を行ったからである。成長率の大半をこれらで占めるほどで、これをしていなければ、大震災のショックで経済は落ち込み、1996年の景気回復へとつなげられなかっただろう。

 今回は、財源を用意してから復興に取り組むという傾向が、民主、自民党ともに強いので、経済運営に失敗する可能性が高い。財源を用意する財務、総務相を民主が受け持ち、対策を担う大臣を自民と分け合うのも紛争のタネになるだろう。

 大連立で失敗したら、国民は、連立に参加しない社共や、みんなの党のような小政党でも選択すれば良いのだろうか。それとも、政党政治は見限られてしまうのか。いずれにしても、碌なことにはなりそうもない。

 経済運営では、電力不足が心配されているが、今日の日経の記事を分析すると、各社の対応でかなりカバーでき、世間で言われるほどは深刻にならないように見える。今回も、また、現場はがんばるが、トップリーダーが迷走して苦しむという、いつもの「日本らしさ」を発揮しそうである。

(今日の日経)
 節電促進へ規制緩和。社説・税関でお墨付きを出せ。電力不足、化学や紙パの影響大きく。スリランカ、内戦終了で高成長。米、値上げ品目広がる。汚染水処理船「すずらん」の活用を。三井造船、夜間休日に電力多用工程。経済教室・日本の経営者から長期的視野が奪われた・加護野忠男。

※節電策はこの程度か。電力逼迫時には、冷房を切るという運動でも組織化してはどうか。商工会議所などの「民」にさせ、「官」が再保険する方が良いのでは。平和こそ繁栄の礎だ。
※米国は、今が、最も緩和のメリットが出て、デメリットが少ない最善の時期だろう。これからは、デメリットが広がり、メリットを打ち消していくことになる。
※加護野先生、景気が回復しかけると、早々に緊縮財政を仕掛けて芽を摘んでいくのだから、短期的視野になるのも当然ですよ。これをされると企業はどうしようもない。まあ、特別版の「壮大なる愚行」でも見てくださいな。
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常識と非常識の政治

2011年04月03日 | 経済
 19世紀的な均衡財政主義に、愚にもつかない政治の思いつきを加えたものが、日本の経済運営の特徴と言えるのではないか。復興の補正予算を財源の用意できる範囲にとどめ、日銀の引き受けといった無用かつ危険な策に熱を上げる。どうして、常識的なことができないのかね。

 「補正予算は、第二弾、第三弾と続けます」という反論もあるだろうが、今は、強い同情が集まるにしても、感情の高まりは次第に鎮まり、そうこうするうちに、「増税してまでするのはどうか」という声も出るようになるだろう。筆者は冷徹すぎるかね? 財政当局が補正予算を小出しにするのには、こういう狙いもあると思わなければならない。

 デフレで超低金利であるから、野放図なことさえしなければ、国債による資金調達は難なくできる。しかし、日本の財政当局は、そういう現実に則したことであっても、歳出が膨らむ方向の「知恵」は出さないから、政治は、無用な手詰まり感を抱き、突飛なことを打ち出すようになる。不幸なことだ。

 日経によれば、野田財務相は、被災者生活支援制度の支給額増額について、「他の災害の被災者のバランスも考えねばならない」と述べたようだが、こういうことを言い出したら、今回の大震災も、既存の災害対策の枠組で対応すべしということになる。それなら、官僚だけでできることで、政治の役割は不要ということにならないか。

 とかく、財政当局というのは、「公平」を楯にして「できない」理由を作るのが得意である。まあ、それは御役目ではあるのだが、「では、どうする? 放っておくのか?」と、問い返さなければならない。それが政治の役割である。ここで焦れて、外部から変な「知恵」を持ってくるようでは、官僚の思うツボである。突飛な案は簡単に潰せるからだ。

 実は、筆者は、住宅再建の給付金を拡大することには、あまり賛成ではない。代わりに、希望するすべての人に公営住宅を供給することを約束し、資力の差は家賃で調整すれば良いと考える。宅地が使用不能になり、生産基盤を失い、高齢の被災者が多い今回の大震災では、そうした方法がマッチしていると思われる。

 政治の役割は、すべての被災者に住宅を用意する、立て直す力のない人には、公営住宅を用意して必ず入居させると宣言することだ。そのための予算は十分に用意すると。「復興に全力を挙げる」といった抽象的な言葉では足りない。そうして初めて、財政当局のくびきを脱した官僚が「知恵」を出してくれるだろう。 

 もともと、日本はセーフティネットとしての住宅政策が弱い。市場主義の米国ですら、住宅政策には力を入れている。高齢者専用賃貸住宅と併せて、少々やり過ぎでもよいくらいだ。「知恵」を搾り出させて、そこに大胆に予算をつけていく、これが本来の政治主導の在り方であろう。

(今日の日経)
 震災、投資にブレーキ。被災者医療を国が全額負担1000億円。印刷可能な太陽電池を2012年に商品化。復興策具体化手探り。選挙改革で「解散は当面封印」の見方。社説・再び緊迫する欧州金融情勢。円安、日米金利差にらむ。住金株を41円で買った男。読書・アメリカ政治を支えるもの。

※生産、消費に次いで投資にも急ブレーキ。これでも日経は補正の条件に歳出削減を訴え続けますか。区割にどうして1年もかけるんだ。政治はのろいねえ。欧米で金利が高まって金利差が開けば、円安に進む。大規模な復興予算を組み、金利が上がるくらいで、ちょうど良いかもしれない。まあ、日本にそういう発想はないと思うが。
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天災への狼狽による人災

2011年04月02日 | 経済
 谷さん、良い記事をありがとう。過去の震災の事例を丹念に取材して、絆を守るアイデアを探し出している。自治体からの職員派遣、孤立を避ける被災者の受け入れ態勢、生活再建資金の支給、そして、新旧土地交換による高台への町づくりと、復興に必要な事項を、地に足のついた内容でまとめている。

 復興に関する議論では、日経に限らず、上滑りの内容が多い。復興の財源論ばかりがクローズアップされたり、都市型だった関東大震災や阪神大震災の例を、漁業の町に当てはめようとしたり。東京での議論がとても遠くに感じられていたから、なおさら良く思えた。何も、本コラムの主張と似ているから評価するわけではないよ。

 さて、他方で、日経の社説と本コラムの論説は対立しているので、ここで改めて書いておきたい。日経の主張は、他の全国紙とも大同小異なので、本コラムは、またも孤塁を守ることになる。日本は一つの議論に染まり易い。言論においては、多様性が極めて重要だ。財政重視派の読者も参考にしてもらえばと思う。

 まず、今回の大震災の被害想定だが、過大ではないかと考える。各紙が根拠とする内閣府の想定は、マクロ的に推計したもので、かなり大雑把なものだ。震災発生当初は、これで仕方ないが、本来は積み上げが必要である。これで参考になるのは、宮城県の集計で、2.1兆円である。岩手、福島の両県は未だ集計中のようだが、これからすると、合わせて10兆円はいかないのではないか。つまり、阪神大震災並みということである。

 むろん、原発事故やそれに伴う電力不足による被害は、別途、かなりに上るだろうが、地震と津波によって、生産や生活の基盤が破壊されたものとは、やや性質が異なる。放射能拡散の収束や火力発電所の再開によって、リカバリーの可能性もあるからだ。

 なぜ、敢えて、こんな主張するかと言えば、被害の想定が阪神大震災の約10兆円の「数倍」に上るのは当然視して、よって、巨額の財政負担が避けられず、歳出削減や増税が焦眉の急であると思われているからだ。これが行き過ぎると、復興予算を抑制しようという話になったり、大震災で経済に需要減のショックが起こっているのに、やたらな緊縮財政をして、景気を失速させるという「二次的な人災」を招きかねない。

 今日の日経の社説は、微妙にトーンを変えている。財源論について、「景気へのマイナスの影響を抑えつつ」としているからだ。紙面で、震災の影響による消費の大きな落ちこみを報じているのだから、心配になってくるのも当然だろう。

 今回の大震災の被害が、仮に阪神大震災の1.5倍の15兆円になるとしても、これは内閣府推計の下限をやや下回るレベルであるが、その場合、阪神のときの復興予算は3.4兆円であるから、概ね5兆円あれば足りる計算になる。予備費が1.5兆円あり、高速割引を半分にすれば1兆円の財源は捻出できるので、赤字国債で賄うのは2.5兆円。これなら、急激な歳出削減や増税が必要になるレベルではまったくない。

 世間では、バラマキ4Kとして、子ども手当や農家所得補償を「やめて当然のムダ使い」と見る傾向があるが、仮に、「ムダ使い」であったとしても、急激な所得の削減というのは、経済運営では禁物である。代わりに復興にお金を使うといっても、削減は、復興が本格化する年度後半まで待たなければならない。子ども手当の6月支給が危うく潰れそうだったのは、本当に冷や汗ものであった。

 まして、子ども手当と農家所得補償は単純なバラマキではない。子ども手当は年少扶養控除の廃止によって2~3年で財源が確保されることになっており、やめるなら、それを復元しないと、国民生活に大きな影響が出る。農家所得補償にしても、土地改良の予算削減で捻出しているから、これを戻すのかという議論になる。

 いろいろ問題はあるにせよ、子ども手当は少子化対策の中核になっているし、農家所得補償は生産性向上や貿易自由化の基礎になるものだ。バラマキ4Kをやめるなら、地球温暖化対策に逆行し、政策的発展の望めない高速割引の廃止だろう。復興の財源探しの焦りによって、見境がつかなくなっているのではないか。

 そして、復興財源の検討には、もう一つ大きな欠陥がある。復興の歳出と「同額」の財源を見つけなければならないような雰囲気になっていることだ。まず、今はデフレ状況だから、需要追加に見合うだけの需要削減をする必要性はまったくない。必要なのは、債務の管理のための財源だけである。

 例えば、5兆円の国債増発の管理には、金利2%として1000億円の恒久財源がいる。これに60分の1の償還財源を加えて1830億円である。最低限、これだけ増税できれば良いはずだ。これは、財政のプライマリーバランス論と同じ理屈である。普段は、「PBのために消費税を」とがなりたてるのに、どうして、こういう時はコロッと忘れてしまうのかね。

 この1830億円は、2011年度の法人税の見込み額は7.8兆円であるから、その2.3%に過ぎず、法人税率で言えば0.6%にも満たない。この辺の事情は、財政当局は百も承知だろうが、取り憑かれたように増税に入れ込んでいる政治やマスコミの目を覚まさせる義理はない。とても、大連立をしなければ、解決できないような難問とは言えないものだが、すっかり浮き足立っている。

 天災とは、受け入れざるを得ないところがある。しかし、日本は、それへの対応に狼狽し、景気を失速させるという「人災」まで起こしそうである。阪神大震災のときは、3.4兆円の復興対策とは別に、4.7兆円の景気対策も必要とし、これで2.3%の経済成長率を確保した。震災によるショックには、これだけの手当が必要なのだ。ちなみに、そのときの法人税収は13.7兆円と、前年度より1.3兆円増えている。

 今回の震災で、阪神のときの教訓を生かせず、相も変らぬ緊縮財政で臨んだら、どのようなことになるのやら。日本というのは、世論が一色に染まったときに限って、大間違いをしでかす。また、やってしまうのかな。残念だが、とても、筆者には止められない。これも国の運命というものだろうか。

(今日の日経)
 復興財源、与野党で協議。米失業率2年ぶり低水準、量的緩和、終了観測強まる。町の機能、連帯力で再生・谷隆徳。社説・経済への影響を見極めて復興財源検討を。原発沈静化の道険しく、安定冷却に数か月。新車販売35%減、震災の影響、消費冷やす。大連立機運再び。新規直轄道2年ぶり復活・三陸縦貫道も。ポルトガル国債利回り高止まり。
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前知事の良識と政治

2011年04月01日 | 経済
 冷や汗ものだな。子ども手当の再可決である。もし、否決されていたら、6月の8000億円もの給付に穴があくところだった。もちろん、デフレと震災による需要減の中で、これが経済にどんな「人災」を引き起こすかを思えば、そら恐ろしくなる。

 直前の制度変更による自治体での混乱も避けられた。今は被災地へ、応援を1万人出そうとしているのだ。また、隣県では、被災者の受け入れも行っている。1人でも多く救援のために人を割くには、余計なことなど一切できる状況ではない。

 もちろん、子育てをしている人にとっては、給付の有無は、生活に大きな影響を及ぼしてしまう。年少扶養控除が1月から廃止されているので、子育て支援どころが、逆に大きく負担増になるところだった。国民生活の安定がかかっていたのである。

 今回の可決で、党議拘束に反し、賛成票を投じた寺田典城議員は、被災地の隣の秋田県の前知事である。国民生活と現場を念頭においた判断に基づき、勇気をもって行動したことに、心より賛辞を送りたい。日本の政治は、すんでのところで国民の信頼を失わずに済んだ。

 さて、復旧への特別立法がまとまりつつあるようだが、復興税だの、震災国債の日銀引き受けだのといった、復興の中身より財源論が先走っているようである。新税の導入は、必ず復興への不満を呼ぶことになるし、復興事業は順次実施されるものだから、急いですべきものではない。

 また、震災国債は、野党・自民党が国債特例法案に反対しているので、その代わりにするための方便に過ぎない。マーケットを通さない日銀引き受けは、資金の需給状況が分からなくなるため、混乱させるだけだろう。そもそも、数兆円の国債増発をしても、今は容易に消化できる地合だ。政治が余計な問題を作ることはやめてもらいたい。

 どうして、日本の政治と財政当局は、やらなくて良いことばかりに熱心なのだろうか。特別立法の中で重要なのは、被災者に復興事業を通じて仕事を与えることであり、津波にのまれた土地の買い上げなどによって街を早期に再建することである。こうした内容を深めるべきであろう。

 復興のアイデアは、船などの漁業施設の集約と共同利用、震災孤児向けの寄宿舎の建設など地元から次々と出て来ている。復興庁や委員会などの組織作りもいいが、こういう構想を即断即決で採用していき、パーツから全体を組み立てることが必要だ。

 筆者は、地元紙の報道から、復興費用は世間で言われるよりは少なく、阪神大震災のときと同程度ではないかとの感触を持っている。財源論や組織論を中心にせず、地に足がついた議論をしてもらいたい。

(今日の日経)
 復旧へ緊急の特別立法。子ども手当、可否同数で議長が決裁。震災国債、日銀引き受け市場は疑問。協調介入、日本は6925億円。韓国ウォン上昇、米金融危機前の水準に。ホンダ国内生産11日再開。応援消費始まる。南三陸町1000人超町外集団避難へ。
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