ー小さいおうちー
2013年 日本 136分
監督=山田洋次 原作=中嶋京子 キャスト=松たか子(平井時子)黒木華(布宮タキ)片岡孝太郎(平井雅樹)吉岡秀隆(板倉正治)妻夫木聡(荒井健史)倍賞千恵子(布宮タキ(平成))橋爪功(小中先生)吉行和子(小中夫人)室井滋(貞子)中嶋朋子(松岡睦子)林家正蔵[9代目](治療師)ラサール石井(柳社長)あき竹城(カネ)松金よね子(花輪の叔母)螢雪次朗(酒屋のおやじ)市川福太郎[3代目](平井恭一(少年期))秋山聡(平井恭一(幼年期))笹野高史(花輪和夫)小林稔侍(荒井軍治)夏川結衣(荒井康子)木村文乃(ユキ)米倉斉加年(平井恭一(平成))
【解説】
第143回直木賞を受賞した中島京子の小説を、名匠・山田洋次が実写化したラブストーリー。とある屋敷でお手伝いさんだった親類が残した大学ノートを手にした青年が、そこにつづられていた恋愛模様とその裏に秘められた意外な真実を知る姿をハートウオーミングかつノスタルジックに描き出す。松たか子、黒木華、吉岡秀隆、妻夫木聡、倍賞千恵子ら、実力派やベテランが結集。昭和モダンの建築様式を徹底再現した、舞台となる「小さいおうち」のセットにも目を見張る。
【あらすじ】
健史(妻夫木聡)の親類であった、タキ(倍賞千恵子)が残した大学ノート。それは晩年の彼女がつづっていた自叙伝であった。昭和11年、田舎から出てきた若き日のタキ(黒木華)は、東京の外れに赤い三角屋根の小さくてモダンな屋敷を構える平井家のお手伝いさんとして働く。そこには、主人である雅樹(片岡孝太郎)と美しい年下の妻・時子(松たか子)、二人の間に生まれた男の子が暮らしていた。穏やかな彼らの生活を見つめていたタキだが、板倉(吉岡秀隆)という青年に時子の心が揺れていることに気付く。(シネマトゥデイ)
【感想】
予告編を見ると、なんか深刻な不倫話みたいな印象でしたが、そのこと自体は、もっとたわいないお話でした。
それより、山田洋次監督が言いたかったことは、戦争の残酷さだと思いました。
よくできた作品でしたよ。
オススメです。
お話は、タキ(倍賞千恵子)が一人暮らしで亡くなったというお葬式のシーンから始まりました。
タキが残した大学ノートと、封を開けていなくて宛名もない封筒。
タキ(倍賞千恵子)
大学ノートは甥の健史(妻夫木聡)がタキに勧めて書かせた自伝。
タキは18歳のときに山形から女中奉公のために東京に出て来た娘だった。
昭和10年のことだった。
最初は小説家の小中先生(橋爪功)の所で働いていたが、その先生の奥様(吉行和子)の親戚筋に当たる平井雅樹(片岡孝太郎)と美しい年下の妻・時子(松たか子)の家で働くこととなった。
平井家は、印象的な赤い屋根のある小さな家だった。
平井夫婦
平井夫婦には恭一という幼い息子がいた。
恭一がポリオにかかり、足がマヒしてしまった。
その足を治すために、タキは一生懸命看病して、1年後、恭一の足は歩けるように回復した。
平井家の主、雅樹は玩具メーカーの重役だった。
日清事変が始まったものの、日本国内はまだまだ戦争への気運は高まっていなかった。
あるお正月、会社の人たちが平井家に集まって新年会をやっているところに、新入社員のデザイナー板倉(吉岡秀隆)が呼ばれてやって来た。
☆ネタバレ
板倉も東北の出身で、タキも板倉が気に入ったが、時子もいい印象を持ったようだった。
板倉に見合い話があり、それをまとめるように雅樹は時子に言いつけた。
板倉は固辞していたが、時子はタキを伴って板倉の下宿に出かけ、その後も一人で板倉の下宿に行くようになり、説得を続けていた。
それを出入りの酒屋に見られたこともあり、タキはひやひやしていた。
そんなとき、板倉の元に召集令状が届いた。
一言お別れにと、板倉の元へ行こうとする時子を、必死の思いでタキは引き止めた。
「手紙を書いたら、私が届けるから、来てもらいましょう」
タキは手紙を持って出かけたが、板倉は来なかった。
その後、戦争は激しくなり、お手伝いを置くのは贅沢と言われ、タキは故郷に帰った。
東京大空襲で、平井夫婦は防空壕の中で亡くなった。
二人は抱き合っていたという。
そこで、タキの手記はここで終わっていた。
タキは「長く生き過ぎた」と号泣した。
☆ネタバレのネタバレ
東京で社会人として働き出した健史。
あるとき、「イタクラショージ」という童話作家の存在を知る。
記念館へ行くと、赤い屋根の家の絵が飾ってあった。
家の前には時子とタキの姿が描かれてあった。
そして、イタクラショージは生前、その家の息子と親交があったという。
健史は、恭一(米倉斉加年)が存命していることを知り、さっそく訪ねる。
そして、タキの残した封の切っていない封筒を恭一に許しを得て開けた。
そこには「きっと来てください」という時子の切羽詰まった思いが書かれていた。
タキは、この手紙を板倉に届けなかったのだ。
それが、タキの涙の理由。
「この年で母の不倫を知るとは…」と恭一はつぶやいた。
罪を背負って、一生結婚しなかったタキの人生。
板倉も結婚しなかったそうです。
人と人の絆を断ち切ってしまったものが、戦争です。
「少年H」を見たときも思いましたが、戦前の人々のおおらかさやつながりの豊かさを知るほどに、戦争の残酷さが伝わってきます。
タキも板倉のことが好きだったんじゃないかなあ。
そしても奥様のことも大好き。
その狭間で揺れて、小さな心を痛めたことが、とてもよくわかりました。
一生苦しんだんだものね。
いい人だなあ。
せめて、タキの命のあるうちに恭一と会えていたら、タキの罪の意識も少しは和らいだのではないかと思いました。
たわいのない生活をこんなに素敵に描けるなんて、やはり山田洋次監督はただ者ではないわ。
ラストで出てくる米倉斉加年さん、圧巻の演技でした。
泣いてしまいましたよ。
松たか子さんの着物や帯、すごくかわいかった。
着物っていいなあと思いました。
いい俳優がそろい、いい映画でしたよー。