ー終の信託ー
2012年 日本
監督=周防正行 キャスト=草刈民代(折井綾乃)役所広司(江木秦三)浅野忠信(高井則之)細田よしひこ(杉田正一)中村久美(江木陽子)大沢たかお(塚原透)
【解説】
『それでもボクはやってない』の周防正行監督が、法律家でもある朔立木の小説を実写化したラブストーリー。重度のぜんそく患者と恋に落ち、彼の願いから延命治療を止めた行動を殺人だと検察に追及される女医の姿を見つめる。草刈民代と役所広司が『Shall we ダンス?』からおよそ16年ぶりとなる共演を果たし、愛と死に翻弄(ほんろう)される男女を熱演。また、浅野忠信や大沢たかおが脇を固め、実力派ならではの妙演を披露する。生死を賭した純愛を描くのみならず、終末医療の現場で起きている問題にも踏み込んだ重厚な作品。
【あらすじ】
同じ職場の医師・高井(浅野忠信)との不倫に傷つき、自殺未遂を図った呼吸器内科医の折井綾乃(草刈民代)。沈んだ日々を送っていた彼女は、重度のぜんそくで入退院を繰り返す江木秦三(役所広司)の優しさに触れて癒やされる。だんだんと距離が近づき、お互いに思いを寄せるようになる二人だったが、江木の症状は悪くなる一方。死期を悟った彼は、もしもの時は延命治療をせずに楽に死なせてほしいと綾乃に強く訴える。それから2か月後、心肺停止状態に陥った江木を前にして、綾乃は彼との約束か、医師としての努めを果たすか、激しく葛藤する。(シネマトゥデイ)
【感想】
「シコふんじゃった」(1991年)「Sall we ダンス?」(1996年)「それでもボクはやってない」(2007年)周防正行監督作品、好きだなあ。
ということで、テレビCMでも宣伝しているこの作品を見に行きました。
5年ぶりの作品ですね。
今回の始まりは暗い。
テーマが尊厳死だから仕方ないですね。
前半、草刈民代と浅野忠信の濡れ場があってびっくり。
監督の奥様じゃ、やりにくかったでしょうね。
呼吸器内科医の折井綾乃(草刈民代)は同僚の高井(浅野忠信)と不倫関係にあったが、ある日、高井が別の若い女性と浮気をしていることがわかり、問いつめるが、あっさり捨てられてしまう。
プライドを傷つけられた綾乃は、当直室で睡眠薬とお酒を多量摂取して大騒ぎになる。
関係者は隠そうとしたが、自殺未遂事件としてとして、病院中で噂になってしまう。
落ち込んでいる綾乃に、綾乃の長年(結果的には25年)のぜんそく患者、江木秦三(役所広司)が、自分の好きなオペラ「ジャンニ・スキッキ」のアリア「私のお父さん」のCDを貸してくれる。
その歌を聞きながら涙を流した綾乃。
CDを返しにいくと、江木は「これは喜劇なんだよ」と教え、綾乃を励ます。
こうして、江木と綾乃の医者と患者を越えた交流が始まった。
☆ネタバレ
江木のぜんそくは重くなる一方で、江木は家族の負担になっている自分の身を嘆いている。
そして、「チューブにつながれ、意志を伝えられなくなったら、先生に決めて欲しい」と信託を託す。
「なぜ、奥さんではないの?」と綾乃が聞くと、
「妻(中村久美)は長年の看病で疲れているし、それを決められるような強い人間ではない」と。
ある日、江木が散歩中に倒れ、心肺停止状態で運ばれてきた。
救急搬送だったので、綾乃も躊躇しながらも気管挿管を行った。
心臓が動き始め、止まっていた呼吸も6日目に自発呼吸して人工呼吸器も外された。
「植物状態」と、あとで塚原検事(大沢たかお)の取り調べに対して、綾乃は説明していました。
意識がなく、心肺停止状態も長くて脳の回復も見込めないけれど、管理されて生かされている状態。
そんなときに、江木の胃から出血しているのをみつけた。
生かされているストレスによるものだと綾乃は解釈し、江木の家族に「気管内チューブを抜くという選択」を話す。
「チューブを抜けば江木は死ぬ」ことも伝え、江木の妻は「先生がそういうなら仕方がない」と受け入れた。
家族がそれぞれお別れを述べ、綾乃がチューブを抜くと、江木は苦しさのあまり暴れ出した。
鎮静剤を打ち、それでも静まらないので、看護婦に命じてドルミカム(静脈麻酔薬)を10mlとさらに10mlを2アンプル投与しても、まだ静かにならず、綾乃は自らさらに1アンプルを投与した。
ようやく安らかになった江木に、綾乃は子守唄を歌い、号泣する。
そして数年後、内科部長になった綾乃が江木の件で告発され、検察庁に呼び出された。
ここから始まる、息が詰まるような取り調べ。
綾乃は、事実を述べれば帰れると思っていて、悪びれたところがない。
でも、検事は、手練手管を使って自白、逮捕までこぎ着けるつもり。
この両者の攻防が、緊張感溢れ、さすが周防さんと思いました。
監督は、どちらの側にも立っていないと思いました。
検事も、プロフェッショナルとして自白に導いていくのだけれど、内面には葛藤もあると思う。
そのへんの機微が面白い。
大沢たかお、うまいと思いました。
綾乃という人は、はっきり言って天然です。
そのための人物描写が、不倫であったり、自殺未遂であったり、家族の前の号泣であるんだと思う。
あまりに単純な反応。
でも、一生懸命、医学の勉強してきた真面目な女医には、そういう一面もありえるなあと思いました。
☆ネタバレのネタバレ
綾乃は結局は調書にサインし、自白もしてしまう。
検事は準備したあった逮捕状を出し、綾乃は手錠、腰縄をかけられ勾留された。
逮捕状を準備してあったところが、怖い。
筋書きは検事によって決められていたのですね。
裁判の内容は字幕で知らされるのですが、江木の妻から江木が書いていたぜんそく日誌が証拠として提出され、そこには「折井先生に終の信託をお願いした」と書かれていた。
しかし、綾乃のした行為は医療行為としては逸脱しているということで、執行猶予付きの有罪判決となったそうです。
私も、綾乃のとった一連の行動は殺人の範疇だと思うし、江木のあれほど苦しみを家族に見せるのは、家族にとっても恐ろしい体験だと思いました。
その場で「殺人」と告発されても、仕方がない行為だと思いました。
恐ろしいのは「死」そのものではなく、「死」に至る堪え難い苦しみだと思う。
「死」を覚悟した人が唯一安心できるのは眠るように死ぬことだと思う。
その判断を誰に託すのか。
本当に難しい問題。
「尊厳死」について、元気なうちに話し合っておきたいですね。
また「尊厳死」について、法律的に明確な線引きも必要だと思います。
綾乃の言うように、「医療現場ではグラデーションのようにいろんなことが起こっていく」のだから。
そのグラデーションをどう考えるか、医者の裁量をどこまで認め保護するか。
こうなると、医師と患者の信頼関係ということにもなるし、家族も関わってくるわけだし、それは人間同士だからなあ。
ああ、難しい。
江木のぜんそく日誌が、妻によって弁護側から出されたのは本当に良かったと思いました。
妻は、江木の思っているような弱い人ではなく、ちゃんと道理をわきまえた人だったと思いました。
綾乃も少しは報われたでしょう。