海洋研究開発機構(JAMSTEC)地震津波海域観測研究開発センターの中野優特任技術研究員、地球情報基盤センターの杉山大祐技術副主任らは、地震計記録のランニングスペクトルを用いて低周波微動と通常の地震動のシグナルを自動的に高精度で判別する、人工知能(AI)技術を用いた新しい手法(SRSpec-CNN)を開発した。
低周波微動は、プレート境界断層やその近傍で発生するスロー地震(ゆっくり地震)の一つ。従来の低周波微動の検知手法では、通常の地震動も同時に検知してしまうことから、目視によるチェックを行うなどして個別に判別する必要があった。
同研究では、低周波微動と通常の地震動のシグナルの周波数成分と継続時間の違いに着目した。これらを同時に表現するランニングスペクトル画像を地震動波形から作成し、震源の物理的性質を表す周波数成分の違いを適切に認識するSRSpec-CNNを開発することで、シグナルを自動的に判別するだけでなく判別精度を向上することにも成功した。
SRSpec-CNNを用いて、南海トラフ付近に展開されている地震・津波観測監視システム(DONET)の地震計で記録された低周波微動と通常の地震動のシグナルの判別を行った結果、99.5%という高い正解率を達成した。
AI技術を地震動シグナルの判別に用いた研究はこれまでにも行われていたが、ほとんどは波形データを直接利用していた。地震動シグナルの判別にランニングスペクトルを用いたのは同研究が初めてであり、さらに新しく開発したオリジナルな手法によってシグナルの周波数成分の違いを認識することによって、地震動シグナルの判別の高精度化に成功した。