食の安全
焼き肉店の生肉による食中毒が大きな問題になっている。その被害は、過日の中国産農薬入りギョーザの比ではない。O-111の威力は凄まじく、被害者は相当の痛みを伴うようで、小さいお子さんの苦しみの報道には心が痛んだ。生食用牛肉の安全管理に明確な規格がなかったとか、デフレ下安売り競争の犠牲だなどと、遠因について考察があり、捜査当局は感染源の特定を急いでいるようであるが、要は食肉を取り扱うサプライチェーン全体の日頃からのお客さまに対する尊厳の欠如であり、すなわち「品質管理」思想の欠如である。その拡がりから見ても、十分な管理をしていたのに、たまたま何かの手違いがあったという問題ではないように感じる。
人は食べなくては生きてゆけず、点滴などなかった時代は、食べられなくなったら命も尽きた。昨今の長寿の一因は、点滴療養ができる点にあるようにさえ思う。また人体は、毎日代謝を繰り返しているから日々摂取する食べ物から形作られていることは自明である。知能や精神状態でさえ食べ物に左右される。どのような食べ物を、どのようなバランスで食べるか。食生活は健全な生活を送る上で非常に重要である。分かっていても昨今は主婦が働きに出る家庭がほとんどとなり、ファーストフードの発達と相まって、食生活の貧困化がいわれる。それにしても食べ物に有害物質や有害な細菌が混入することは論外である。
しかし、戦後の日本では食糧増産のために米作にHg(水銀)入りの強力な農薬を使った。農薬散布後の田んぼには赤い旗が立てられ、川の河口付近の海水浴場は遊泳が禁止された。微量とはいえHgは米粒に残留し、多くの人の肝炎の原因になったと聞く。
また、アルミニウム製の調理器具が普及した時期があった。アルミニウムは鉄に比べて軽く熱伝導が良い。鍋などには最適な金属にさえ思える。金属の中でも熱伝導率が良いのは、銀(Ag)、銅(Cu)、金(Au)の順で次にアルミニウム(Al)がくる、鉄(Fe)の熱伝導率はAlの3分の1程度である。
ところが、鉄鍋は微量ずつ溶け出して食品に混ざってFe分という人体に必須のミネラルとなるのに対して、Alは痴呆など脳障害に関連が疑われて、その後アルミ鍋は姿を消した。悪意はなくとも食の安全が脅かされる事例である。
戦後は、食塩も科学的な方法で効率的に生産されるようになり、高純度のNaCl(塩化ナトリウム)が食用に供されるようになった。私などが子供のころの食塩は、放置しておくと湿っぽくなったものだ。これは天日干しの製法による天然の食塩には潮解性のある塩化マグネシウム(MgCl2)が多量に含まれていたためで、食塩10g中Mgは50mg程度あった。これが科学的製法では3mg程度まで減少したため、潮解という欠点はなくなったがMgの摂取量不足*12)を招く要因となったのではないか。
これは気付きにくいことだけど、MgはAlと非常に仲良しである*13)。仮にアルミ鍋から溶け出したAlがあっても、天然塩を十分摂取しておれば、MgがAlを捕捉して、少しでもAlの有害性を緩和してくれたのではないかと勝手ながら考えている。
人体に有益なミネラルの存在はかなり古くから知られていたと思われるが、個々のミネラルの人体に対する働きが細かく分かるようになった。最近注目されているミネラルに亜鉛(Zn)がある*14)。若い人に味覚障害が多いことが問題視され、その原因が亜鉛不足であるとされた。加工食品に使用されるリン系の化合物(特にリンを2つ持ったもの)などは、強力なキレート剤としての働きがある。2個のリンが蟹の鋏(キレート)のように、亜鉛などの金属を捕捉する。加工食品ばかり食べていると、体内の有益なミネラルを排出されてしまう恐れがあったのだ。因みに蛇毒の一種はたんぱく質の末端に亜鉛が付いた構造をしており、有機キレート剤の投与で60%くらいは解毒できると聞いたことがある。
食品添加物にはその添加許容量が定められており、「人体に直ちに悪影響を与えるものではない」。放射能汚染に対する官房長官談話のごとくであるけれど、出来得れば、添加物のない自然食品を摂取するに越したことはない。
*12)1日のMg必要摂取量は300mgといわれる。
*13)筆者は、企業の研究室において、重合触媒の脱灰法の改良のため、金属イオンの働きや相互作用を調査していた時期があった。
*14)亜鉛は性機能・妊娠の維持にも重要なミネラルという。その不足は女性の生理不順を引き起こし、男性の精子の減少につながり男性不妊*)の原因になるとも考えられている。40年前は精液1ml当たり1億くらいが普通だった若者の精子の数が、近年2500万~6000万という調査結果もある。*)精液1ml中の精子2000万以下 ☆「元気生活」5月号富田寛医学博士の記事から
焼き肉店の生肉による食中毒が大きな問題になっている。その被害は、過日の中国産農薬入りギョーザの比ではない。O-111の威力は凄まじく、被害者は相当の痛みを伴うようで、小さいお子さんの苦しみの報道には心が痛んだ。生食用牛肉の安全管理に明確な規格がなかったとか、デフレ下安売り競争の犠牲だなどと、遠因について考察があり、捜査当局は感染源の特定を急いでいるようであるが、要は食肉を取り扱うサプライチェーン全体の日頃からのお客さまに対する尊厳の欠如であり、すなわち「品質管理」思想の欠如である。その拡がりから見ても、十分な管理をしていたのに、たまたま何かの手違いがあったという問題ではないように感じる。
人は食べなくては生きてゆけず、点滴などなかった時代は、食べられなくなったら命も尽きた。昨今の長寿の一因は、点滴療養ができる点にあるようにさえ思う。また人体は、毎日代謝を繰り返しているから日々摂取する食べ物から形作られていることは自明である。知能や精神状態でさえ食べ物に左右される。どのような食べ物を、どのようなバランスで食べるか。食生活は健全な生活を送る上で非常に重要である。分かっていても昨今は主婦が働きに出る家庭がほとんどとなり、ファーストフードの発達と相まって、食生活の貧困化がいわれる。それにしても食べ物に有害物質や有害な細菌が混入することは論外である。
しかし、戦後の日本では食糧増産のために米作にHg(水銀)入りの強力な農薬を使った。農薬散布後の田んぼには赤い旗が立てられ、川の河口付近の海水浴場は遊泳が禁止された。微量とはいえHgは米粒に残留し、多くの人の肝炎の原因になったと聞く。
また、アルミニウム製の調理器具が普及した時期があった。アルミニウムは鉄に比べて軽く熱伝導が良い。鍋などには最適な金属にさえ思える。金属の中でも熱伝導率が良いのは、銀(Ag)、銅(Cu)、金(Au)の順で次にアルミニウム(Al)がくる、鉄(Fe)の熱伝導率はAlの3分の1程度である。
ところが、鉄鍋は微量ずつ溶け出して食品に混ざってFe分という人体に必須のミネラルとなるのに対して、Alは痴呆など脳障害に関連が疑われて、その後アルミ鍋は姿を消した。悪意はなくとも食の安全が脅かされる事例である。
戦後は、食塩も科学的な方法で効率的に生産されるようになり、高純度のNaCl(塩化ナトリウム)が食用に供されるようになった。私などが子供のころの食塩は、放置しておくと湿っぽくなったものだ。これは天日干しの製法による天然の食塩には潮解性のある塩化マグネシウム(MgCl2)が多量に含まれていたためで、食塩10g中Mgは50mg程度あった。これが科学的製法では3mg程度まで減少したため、潮解という欠点はなくなったがMgの摂取量不足*12)を招く要因となったのではないか。
これは気付きにくいことだけど、MgはAlと非常に仲良しである*13)。仮にアルミ鍋から溶け出したAlがあっても、天然塩を十分摂取しておれば、MgがAlを捕捉して、少しでもAlの有害性を緩和してくれたのではないかと勝手ながら考えている。
人体に有益なミネラルの存在はかなり古くから知られていたと思われるが、個々のミネラルの人体に対する働きが細かく分かるようになった。最近注目されているミネラルに亜鉛(Zn)がある*14)。若い人に味覚障害が多いことが問題視され、その原因が亜鉛不足であるとされた。加工食品に使用されるリン系の化合物(特にリンを2つ持ったもの)などは、強力なキレート剤としての働きがある。2個のリンが蟹の鋏(キレート)のように、亜鉛などの金属を捕捉する。加工食品ばかり食べていると、体内の有益なミネラルを排出されてしまう恐れがあったのだ。因みに蛇毒の一種はたんぱく質の末端に亜鉛が付いた構造をしており、有機キレート剤の投与で60%くらいは解毒できると聞いたことがある。
食品添加物にはその添加許容量が定められており、「人体に直ちに悪影響を与えるものではない」。放射能汚染に対する官房長官談話のごとくであるけれど、出来得れば、添加物のない自然食品を摂取するに越したことはない。
*12)1日のMg必要摂取量は300mgといわれる。
*13)筆者は、企業の研究室において、重合触媒の脱灰法の改良のため、金属イオンの働きや相互作用を調査していた時期があった。
*14)亜鉛は性機能・妊娠の維持にも重要なミネラルという。その不足は女性の生理不順を引き起こし、男性の精子の減少につながり男性不妊*)の原因になるとも考えられている。40年前は精液1ml当たり1億くらいが普通だった若者の精子の数が、近年2500万~6000万という調査結果もある。*)精液1ml中の精子2000万以下 ☆「元気生活」5月号富田寛医学博士の記事から