消費者の理論
先に生産者の理論で述べたように、生産者は生産費用を最小にして利潤を最大となるように行動する。消費者はどうか。社会に財(物やサービス)を提供し、得られた報酬から必要な財(物やサービス)を購入する。一般的な給与所得者を考えれば、生産要素(労働力)を企業に供給(提供)することによって得られた所得を、自分の欲するいろいろな財(物やサービス)の購入に振り向け、それらを消費することで満足感(効用)を得ている。そして意識する、しないに関わらず、自分の効用(満足)を最大にするような財の組合せを選択して消費を行っている(効用最大化行動)と考えられる。
また、生産者の理論でその供給曲線については、操業停止線より数量の多い部分での限界費用曲線となると述べた。では消費者の需要曲線はどのように導出されるのかを見てみる。
経済本では、代替しうる2財をあげ、それはリンゴとミカンでも、コーヒーと紅茶でも牛肉と豚肉でも何でもいいのであろうが、兎に角代表的な2財からなる経済を考え、一方の減少は他方の増加で効用を補える関係として説明する。例えばリンゴとミカンは代替関係にあるとし、縦軸(Y)にミカンを横軸(X)にリンゴの数量を取り、ミカンの数量を減らしてリンゴの数量を増やしてゆく場合(その逆のケースも同じ)を想定して、トータルとして同じ効用(満足)のポイントをプロットして線を描けば、原点に向かって凸の曲線が浮かび上がる。この線上ではどの点も効用は等しいため、無差別曲線と呼ぶ。ただし、一方の財に好みが強い(効用が大きい)場合、その程度に応じて無差別曲線の偏りや傾きが異なることになる。
また曲線が通常原点に向かって凸となることは、一方の数量が増加すると、その増加した財の効用は、減少した財に対して相対的に低くなることを意味する。すなわち無差別曲線の線上のポイントによって2財の単位当たりの相対的な効用比率が変化しているのだ(稀少となった財の効用が増加する)。これは曲線の各ポイントの接線の傾きの絶対値で表され、これを限界代替率という。増加した財の効用は減少した財に対して相対的に低くなる性質は多くの財にあてはまり、限界代替率低減の法則という*31)。
ここまでは2財を購入する消費者の選好(好みによる選択)だけを取り上げて、無差別曲線を考察したが、消費者の所得の変化や2財の価格の変化も消費量を決める重要な要素である。ここでは2財だけの経済(市場)を前提にしているため、所得が高くなれば消費量が増えるため、無差別曲線は同じ図上で上方にシフトする*34)。所得の微妙な変化を考慮すると無差別曲線は無数に描ける(交わらない)こととなる。その図に所得制約線(一方の財だけを購入する場合の数量の2点を結ぶ直線)を引くと、いずれかの無差別曲線の接線となるが、この無差別曲線と予算制約線の接点が、消費者の所得における最適消費点となる。
次に、財の価格が変化した場合を考える。2財の価格が同じ割合で変化した場合は、所得変化と同じことであるが、仮に片方の財の価格だけが変化した場合、例えばリンゴの価格だけが半額になれば、先の予算制約線を考えるとリンゴだけ購入する場合の数量が倍のポイントにシフトする。そしてその際の最適消費点もリンゴの消費量が増加する方向(倍になるわけではない)にシフトする。このような変化をなぞり、リンゴの価格と消費量の関係を縦軸に価格、横軸に数量のグラフに描けば、良く知られる右下がりの需要曲線となるわけである。
*31)2財の限界代替率がどの組合せでも一定(完全な代替財)である場合、無差別曲線は負の傾きを持った直線となる。同じミカン1個とリンゴ1個ではリンゴの方が満足度が高いという風に、2財のどちらかに選考の偏りを持つのが普通である。
先の生産者の理論でも「限界費用」など、「限界」という言葉が使われたが、経済学で「限界」とは一方の最小単位の変化に対応する他方の変化を表すことで、曲線上のポイントに接する直線、すなわち接線の傾きで表され、関数の微分によって求められる。経済学の世界で、この限界の考え方が生まれたのは1870年代以降の近代経済学で、オーストリアのメンガー*32)、イギリスのジェヴォンズ*33)、先にも登場しているレオン・ワルラスらがその先駆者である。
*32)カール・メンガー(1840-1921) オーストリア学派(限界効用学派)の祖であり、ワルラス、マーシャルとともに、近代経済学の第一世代の一人である。労働価値論の上に立つイギリスの古典派経済学に対抗して、効用価値論の上に経済学の全体系を築くことや、理論復興の主張を高く掲げた。
*33) ウイリアム・S・ジェヴォンズ(1835-1882)メンガー、ワルラスらとともに、効用論を基礎に限界分析・極大原理を手法とする近代経済学の担い手の一人。はじめて統計的実証研究の上にたつ景気変動の研究を行い、物価指数論などに取り組んだ先駆者であり、天才であった。
*34)例えば、バターとマーガリンの2財のように所得が向上することでマーガリンの消費を減少させる(下級財)ような場合、無差別曲線の偏りに変化がある。
本稿は、多和田眞編著「経済学講義」(株)中央経済社(1991年)刊、TAC中小企業診断士講座「経済学・経済政策」テキストおよび伊東光晴、佐藤金三郎共著「経済学のすすめ」筑波書房1968年刊を参考にしています。
先に生産者の理論で述べたように、生産者は生産費用を最小にして利潤を最大となるように行動する。消費者はどうか。社会に財(物やサービス)を提供し、得られた報酬から必要な財(物やサービス)を購入する。一般的な給与所得者を考えれば、生産要素(労働力)を企業に供給(提供)することによって得られた所得を、自分の欲するいろいろな財(物やサービス)の購入に振り向け、それらを消費することで満足感(効用)を得ている。そして意識する、しないに関わらず、自分の効用(満足)を最大にするような財の組合せを選択して消費を行っている(効用最大化行動)と考えられる。
また、生産者の理論でその供給曲線については、操業停止線より数量の多い部分での限界費用曲線となると述べた。では消費者の需要曲線はどのように導出されるのかを見てみる。
経済本では、代替しうる2財をあげ、それはリンゴとミカンでも、コーヒーと紅茶でも牛肉と豚肉でも何でもいいのであろうが、兎に角代表的な2財からなる経済を考え、一方の減少は他方の増加で効用を補える関係として説明する。例えばリンゴとミカンは代替関係にあるとし、縦軸(Y)にミカンを横軸(X)にリンゴの数量を取り、ミカンの数量を減らしてリンゴの数量を増やしてゆく場合(その逆のケースも同じ)を想定して、トータルとして同じ効用(満足)のポイントをプロットして線を描けば、原点に向かって凸の曲線が浮かび上がる。この線上ではどの点も効用は等しいため、無差別曲線と呼ぶ。ただし、一方の財に好みが強い(効用が大きい)場合、その程度に応じて無差別曲線の偏りや傾きが異なることになる。
また曲線が通常原点に向かって凸となることは、一方の数量が増加すると、その増加した財の効用は、減少した財に対して相対的に低くなることを意味する。すなわち無差別曲線の線上のポイントによって2財の単位当たりの相対的な効用比率が変化しているのだ(稀少となった財の効用が増加する)。これは曲線の各ポイントの接線の傾きの絶対値で表され、これを限界代替率という。増加した財の効用は減少した財に対して相対的に低くなる性質は多くの財にあてはまり、限界代替率低減の法則という*31)。
ここまでは2財を購入する消費者の選好(好みによる選択)だけを取り上げて、無差別曲線を考察したが、消費者の所得の変化や2財の価格の変化も消費量を決める重要な要素である。ここでは2財だけの経済(市場)を前提にしているため、所得が高くなれば消費量が増えるため、無差別曲線は同じ図上で上方にシフトする*34)。所得の微妙な変化を考慮すると無差別曲線は無数に描ける(交わらない)こととなる。その図に所得制約線(一方の財だけを購入する場合の数量の2点を結ぶ直線)を引くと、いずれかの無差別曲線の接線となるが、この無差別曲線と予算制約線の接点が、消費者の所得における最適消費点となる。
次に、財の価格が変化した場合を考える。2財の価格が同じ割合で変化した場合は、所得変化と同じことであるが、仮に片方の財の価格だけが変化した場合、例えばリンゴの価格だけが半額になれば、先の予算制約線を考えるとリンゴだけ購入する場合の数量が倍のポイントにシフトする。そしてその際の最適消費点もリンゴの消費量が増加する方向(倍になるわけではない)にシフトする。このような変化をなぞり、リンゴの価格と消費量の関係を縦軸に価格、横軸に数量のグラフに描けば、良く知られる右下がりの需要曲線となるわけである。
*31)2財の限界代替率がどの組合せでも一定(完全な代替財)である場合、無差別曲線は負の傾きを持った直線となる。同じミカン1個とリンゴ1個ではリンゴの方が満足度が高いという風に、2財のどちらかに選考の偏りを持つのが普通である。
先の生産者の理論でも「限界費用」など、「限界」という言葉が使われたが、経済学で「限界」とは一方の最小単位の変化に対応する他方の変化を表すことで、曲線上のポイントに接する直線、すなわち接線の傾きで表され、関数の微分によって求められる。経済学の世界で、この限界の考え方が生まれたのは1870年代以降の近代経済学で、オーストリアのメンガー*32)、イギリスのジェヴォンズ*33)、先にも登場しているレオン・ワルラスらがその先駆者である。
*32)カール・メンガー(1840-1921) オーストリア学派(限界効用学派)の祖であり、ワルラス、マーシャルとともに、近代経済学の第一世代の一人である。労働価値論の上に立つイギリスの古典派経済学に対抗して、効用価値論の上に経済学の全体系を築くことや、理論復興の主張を高く掲げた。
*33) ウイリアム・S・ジェヴォンズ(1835-1882)メンガー、ワルラスらとともに、効用論を基礎に限界分析・極大原理を手法とする近代経済学の担い手の一人。はじめて統計的実証研究の上にたつ景気変動の研究を行い、物価指数論などに取り組んだ先駆者であり、天才であった。
*34)例えば、バターとマーガリンの2財のように所得が向上することでマーガリンの消費を減少させる(下級財)ような場合、無差別曲線の偏りに変化がある。
本稿は、多和田眞編著「経済学講義」(株)中央経済社(1991年)刊、TAC中小企業診断士講座「経済学・経済政策」テキストおよび伊東光晴、佐藤金三郎共著「経済学のすすめ」筑波書房1968年刊を参考にしています。