語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【食】GM食品表示 ~厳格化(アジア)vs.表示妨害(米国)~

2015年09月25日 | 生活
 (1)遺伝子組み換え(GM)食品表示に動きが起きている。韓国、台湾、中国で。
 日本は、その動きから取り残されている。

 (2)2015年4月に食品表示法が施行された。同法を所管する消費者庁は、機能性表示食品問題への対応に追われている。GM食品の表示など、消費者からの要望の強い食品表示制度の改正がまったく前に進んでいない。
 板東久美子・消費者庁長官の見通しによれば、
 「(8月27日)現在、マンパワーが法律施行後の対応に裂かれており、懸案事項への対応ができない」
 それでも、
 「遺伝子組み換え食品表示問題は、インターネット表示、加工食品の原料原産地表示、食品添加物表示と並び、検討を行うことになっており、年内にも検討会を立ち上げる。
 ただし、
 「消費者団体にもいろいろな意見があり、業界団体の意見も聞いたりしながら、実現にどれほどの困難さがあるかを判断の材料にしたい」
 つまり、優先順位をつけて改正ができる範囲から進めたい、とのこと。
 これは、GM食品表示の厳格化は、業界団体が強く反対していて、なかなか実現しない、という実態を婉曲に述べたものだ。

 (3)(2)のような日本の動きに対して、韓国、台湾、中国ではGM食品の厳格化が進んでいて、ヨーロッパに近い厳密な表示制度に移行しつつある。
 その動きと比較してみると、日本の表示の遅れが一目瞭然だ。
 ①表示対象食品、②表示対象原材料・品目、③混入率をどこまで認めるか・・・・について、
 日本・・・・①食用油や醤油など大半の食品が表示の対象外、②上位3品目(重量比5%以上)に限定、③5%以上
 韓国・・・・①日本と同じ、②全成分表示、③1%以上
 台湾・・・・①食用油や醤油など蛋白質が含まれない食品も表示、②限定の扱いなし、③3%以上、さらに0.9%以上をめざす
 中国・・・・①全食品表示、②台湾と同じ、③1%以上
 EU・・・・①中国と同じ、②全成分表示、③0.9%以上

 (4)これと違った意味で注目されているのが米国だ。
 市民団体が地元政府に働きかけ、州独自のGM食品表示法を制定する動きが強まっている。バーモント州では、来年度からGM食品表示が行われることになった。
 しかし、それに対する業界の攻撃はすさまじく、州法を無効にする食品表示法案が提出されている。
 それは、米国食品医薬品局(FDA)が安全性を評価して必要としたもののみ表示を義務づける、というもの。具体的には、全米共通の「遺伝子組み換えでない表示(Non-GMO)」認証プログラムを作り、Non-GMO認証のハードルを高くする、というものだ。
 名目はGM食品表示の全米統一化だが、この法律が施行されると、各スウェーデンの表示法は無効になる。

 (5)米国の市民団体は、(4)の法案はGM食品表示をさせず、州政府の表示法を無効にすることを目的とした「GM食品表示妨害法」だ、と指摘している。
 この法案が持つ性格は、そこにとどまらない。企業の活動をやりやすくし、自治体の権利を弱め、国の力を強化する。そのため、米国内でこれまでGM作物・食品に関する規制の根拠となった法律や規則のすべてを無効にする可能性がある。その結果、GMOを野放しにしてしまう、と複数のメディアは伝えている。
 連邦議会下院は7月23日にこの法案を可決し(賛成275,反対150)、これから上院で審議される。

 (6)米国の動きは、直接日本にも影響しそうだ。
 TPPによって、この法案の中身が米国内で強制されるだけでなく、日本を含め参加国の表示制度そのものが攻撃されることになりかねない、と米国メディアは伝えている。
 アジアのような表示厳密化は、日本ではたして可能か。

□天笠啓介「アジアではGM食品表示の厳格化進む。米国はGM食品表示妨害法が審議中」(「週刊金曜日」2015年9月11日号)
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【旅】縮景園

2015年09月24日 | □旅
 場所 広島市中区上幟町2-11
 歴史 元和5(1619)年 浅野長晟(安芸一円・備後8郡42万6千石)広島入城
    元和6(1619)年 藩主長晟、家老の上田宗箇をして作庭に着手 
    昭和15(1940)年 広島県に寄贈、国の名勝に指定
    昭和20(1945)年 原子爆弾により亭館・樹木等すべて焼失
    昭和24(1949)年 園の復旧開始
    昭和51(1976)年 管理棟完成
 ●園内マップ
 
   跨虹橋
  

   夕照庵
  

   水心島
  

   鯉
  

  

  

  

  

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【旅】歌川国芳展

2015年09月24日 | □旅
 会期 2015年9月11日(金)~10月18日(日) 
 場所 広島県立美術館

●「現代感覚 見れば好きになる」(本展監修者:中右瑛・国際浮世絵学会常任理事)
 国芳は、劇画の原点とも言える現代感覚の浮世絵師だ。ほかの絵師にはない奇想天外な発想で、ユーモアを交えて当時の幕政を批判し、豪傑や武者絵をドラマチックに描いた。
 大判三枚続きの大画面に、英雄の妖怪退治を表現した作品は物語性が伝わる。モチーフは画面いっぱい。力強く、スピード感もある。巨大な骸骨を描いた「相馬の古内裏」や「宮本武蔵と巨鯨」【注1】などは、まさに現代アート感覚の傑作。アニメーションの先駆けとも言え、今の若い人や外国人に受ける要因だろう。
 もう一つの魅力は、しゃれとユーモア。「寄せ絵」と呼ばれる人間の顔は、よく見ると裸の人間の集合体でできている【注2】。上下どちらから見ても顔になる「上下絵」や、猫で描いた文字などの「だまし絵」もとてもユニークだ。
 国芳は、時代や世相に敏感で、権力への反骨精神がある人だった。「天保の改革」で、役者や芸者の絵を描くことが禁止されると、ならばと、猫【注3】やキツネ、スズメ【注4】を擬人化して人間社会を諷刺する。そんな姿勢が庶民を引きつけた。
 無類の猫好きでたくさん飼っていたとされるだけあって猫の描写も秀逸。また、染物屋に生まれ、登場人物がまとう着物の色や柄も凝っている。美人画を描かせれば、おきゃんで鉄火肌の女性をモデルに、江戸の風情や庶民の息遣いを生き生きと伝える。
 私は国芳作品の何もかもが好きだが、特に気に入っているのは風景画。国芳は歌川豊国門下だった【注5】が、私淑していた葛飾北斎に倣い、和洋折衷を試みている。幾重にもなった雲やグラデーションで表現した空、月のかさといった自然描写がいい。
 浮世絵には変わり者が多いといわれるが、国芳も江戸っ子気質で一筋縄にはいかない男だったらしい。気取らず、破天荒。一方、権力への反抗心は旺盛だが、弱いものを愛する。人間的魅力があったようだ。
 多くの弟子を持ち、慕われた。そんな国芳の型破りな生き方が独創的な作品を生み、見るものに感動を与えるのだろう。本展では、妖怪退治の傑作だけでなく、多彩なジャンルの隠れた名作も楽しめる。見れば誰もが国芳を好きになるだろう。

 【注1】「宮本武蔵と巨鯨」
 【注2】「みかけハこハゐがとんだいゝ人だ」
 【注3】③「流行猫の曲手まり」部分
    
 【注4】⑨「里すゞめねぐらの仮宿」部分
   
 【注5】歌川広重と同い年。1797(寛政9)年、江戸生まれ。

□中右瑛・国際浮世絵学会常任理事(本展監修者)・談「現代感覚 見れば好きになる」(中国新聞、展示会用)
 *

    歌川国芳「宮本武蔵と巨鯨」
   

    歌川国芳「金魚づくし 酒のざしき」
   

    歌川国芳「流行猫の手まり」
   

    歌川国芳「坂田怪童丸」
   

    歌川国芳「朝比奈小人嶋遊」
   

    歌川国芳「みかけハこハゐがとんだいゝ人だ」
   

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【詩歌】フランソワ・ヴィヨン「昔日の美女たちのバラード」

2015年09月24日 | 詩歌
 おしえてよ 今どこに どんな所にいるんだい
 あのローマの美しい遊女フロラは
 アルキピアダは そして
 彼女の血を分けた従姉妹タイースは?
 川べや池のほとりで
 音をたてればこだま返すエコー
 あの人間には及びもつかぬ美の精霊は?
 いったいどこにあるんだ 去年の雪は?
 
 どこにいるのですか まこと賢婦人エロイーズ
 彼女のためピエール・エバイヤールが
 宮せられてサン・ドニの僧院入りした あの美女は?
 彼女への愛ゆえにあんな不幸に見舞われたのだ
 また 同様に どこにいるあの王妃
 総長ビュリダンを袋に詰めて
 セーヌ川へ投ぜよと命じた女王は?
 いったいどこにあるんだ 去年の雪は?
 
 その歌声はセイレーンさながら
 百合のごとく純白(ブランシュ)な孤閨のブランシュ太后は
 大足ベルト ビエトリス アリス
 メーヌの州を司ったるアランビュルジス
 そしてあの勇敢なロレーヌむすめ
 ルーアンで英軍に焼き殺されたジャンヌ
 どこにいるんだ、マリア様 みんなどこにいるんです?
 いったいどこにあるんだ 去年の雪は?
 
 公子よ かの美女たちがいまどこにいるか
 決してたずねてはなりませぬ
 ただもうこの同じルフランに立ちもどるばかりです―
 いったいどこにあるんだ 去年の雪は?

□フランソワ・ヴィヨン「昔日の美女たちのバラード」(天沢退二郎・訳)『ヴィヨン詩集成』、白水社、2000) 
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 *

 語れ いま何処(いづこ) いかなる国に在りや、
 羅馬の遊女 美しきフロラ、
 アルキピアダ、また タイス
 同じ血の通ひたるその従姉妹(うから)、
 
 河の面(おも) 池の辺(ほとり)に
 呼ばへば応(こた)ふる 木魂(こだま)エコオ、
 その美(は)しさ 人の世の常にはあらず。
 さはれさはれ 去年(こぞ)の雪 いまは何処(いづこ)。

 いま何処(いづこ)、才抜群(ざえばつくん)のエロイース、
 この人ゆゑに宮(きゅう)せられて エバイヤアルは
 聖(サン)ドニの僧房 深く籠(こも)りたり、
 かかる苦悩も 維(これ) 恋愛の因果也。
 
 同じく、いま何処に在りや、ビュリダンを
 嚢(ふくろ)に封じ セエヌ河に
 投ぜよと 命じたまひし 女王。
 さはれさはれ 去年(こぞ)の雪 いまは何処。

 人魚(シレエヌ)の声 玲瓏(れいろう)と歌ひたる
 百合のごと㍗眞白き太后(たいこう)ブランシュ、
 大いなる御足(みあし)のベルト姫、また ビエトリス、アリス、
 メエヌの州を領(りやう)じたるアランビュルジス、
 
 ルウアンに英吉利人(イギリスびと)が火焙(ひあぶり)の刑に処したる
 ロオレエヌの健(たけ)き乙女のジャンヌ。
 この君たちは いま何処(いづこ)、聖母マリアよ。
 さはれさはれ 去年(こぞ)の雪 いまは何処。

 わが君よ、この美しき姫たちの
 いまは何処(いづこ)に在(いま)すやと 言問(ことと)ふなかれ、
 曲なしや ただ徒(いたづ)らに畳句(ルフラン)を繰返すのみ、
 さはれさはれ 去年(こぞ)の雪 いまは何処。

□フランソワ・ヴィヨン(鈴木信太郎・訳)「疇昔の美姫の賦」(『ヴィヨン詩集』、岩波文庫、1965)
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【詩歌】吉岡実「僧侶」

2015年09月23日 | 詩歌
 1
 
 四人の僧侶
 庭園をそぞろ歩き
 ときに黒い布を巻きあげる
 棒の形
 憎しみもなしに
 若い女を叩く
 こうもりが叫ぶまで
 一人は食事をつくる
 一人は罪人を探しにゆく
 一人は自涜
 一人は女に殺される

 2

 四人の僧侶
 めいめいの務めにはげむ
 聖人形をおろし
 磔に牝牛を掲げ
 一人が一人の頭髪を剃り
 死んだ一人が祈祷し
 他の一人が棺をつくるとき
 深夜の人里から押しよせる分娩の洪水
 四人がいっせいに立ちあがる
 不具の四つのアンブレラ
 美しい壁と天井張り
 そこに穴があらわれ
 雨がふりだす

 3
 
 四人の僧侶
 夕べの食卓につく
 手のながい一人がフォークを配る
 いぼのある一人の手が酒を注ぐ
 他の二人は手を見せず
 今日の猫と
 未来の女にさわりながら
 同時に両方のボデーを具えた
 毛深い像を二人の手が造り上げる
 肉は骨を緊めるもの
 肉は血に晒されるもの
 二人は飽食のため肥り
 二人は創造のためやせほそり
 
 4
 
 四人の僧侶
 朝の苦行に出かける
 一人は森へ鳥の姿でかりうどを迎えにゆく
 一人は川へ魚の姿で女中の股をのぞきにゆく
 一人は街から馬の姿で殺戮の器具を積んでくる
 一人は死んでいるので鐘をうつ
 四人一緒にかつて哄笑しない

 5
 
 四人の僧侶
 畑で種子を播く
 中の一人が誤って
 子供の臀に蕪を供える
 驚愕した陶器の顔の母親の口が
 赭い泥の太陽を沈めた
 非常に高いブランコに乗り
 三人が合唱している
 死んだ一人は
 巣のからすの深い咽喉の中で声を出す

 6
 
 四人の僧侶
 井戸のまわりにかがむ
 洗濯物は山羊の陰嚢
 洗いきれぬ月経帯
 三人がかりでしぼりだす
 気球の大きさのシーツ
 死んだ一人がかついで干しにゆく
 雨のなかの塔の上に

 7
 
 四人の僧侶
 一人は寺院の由来と四人の来歴を書く
 一人は世界の花の女王達の生活を書く
 一人は猿と斧と戦車の歴史を書く
 一人は死んでいるので
 他の者にかくれて
 三人の記録をつぎつぎに焚く

 8
 
 四人の僧侶
 一人は枯木の地に千人のかくし児を産んだ
 一人は塩と月のない海に千人のかくし児を死なせた
 一人は蛇とぶどうの絡まる秤の上で
 死せる者千人の足生ける者千人の眼の衡量の等しいのに驚く
 一人は死んでいてなお病気
 石塀の向うで咳をする

 9
 
 四人の僧侶
 固い胸当のとりでを出る
 生涯収穫がないので
 世界より一段高い所で
 首をつり共に嗤う
 されば
 四人の骨は冬の木の太さのまま
 縄のきれる時代まで死んでいる

□吉岡実「僧侶」(『僧侶』、書肆ユリイカ、1958)
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【詩歌】谷川雁「ゲッセマネの夜」

2015年09月22日 | 詩歌
 膝まずいて彼は祈っていた
 荒々しく澄みきった水晶の間から
 ガリラヤの魚が一匹 しずかに泳ぎさった
 群衆と予言に狭められた谷間をながれ
 新約の盃は
 危機をたたえた淵に浮いていた
 そのうえをかすかな吐息が過ぎた
 世界の隅でさらと何かが崩れた
 繊い十字が飛んだ
 
 まだ低く訴えている
 彼の肉体は苦しい栄光に
 もうほとんど透きとおっていた
 午前三時迫りくる「あれ」のために
 世界は闇のなかで粧うた
 銀河は高貴な声のように遠く
 夜は若かった
 香油の時は一滴々々彼の額にそそいでいた
 血のうせた指を彼はそっと折ってみた
 星達は秘かな関係(かかわり)を断った
 霧のつめたさが拳につたわるだけであった
 
 泥土のような観念がめざめた
 このうえもなく暗い形象に
 ほんのすこし罅(ひび)が入った
 肉を破ろうとして新しい歯は
 さらに深く苦痛を埋めねばならなかった
 
 膝まずいて彼は祈っていた
 断崖のまえで人が自己を売渡す
 あの絶対の暗黒はいま
 彼の肉から脱けだし
 かなたにいる弟子達のうえにたなびいた
 彼等は犬のように眠っていた
 イエスの周りをはう
 茨のわかい棘だけが爪のように
 ほのあかい夜明けの光を刺した

□谷川雁「ゲッセマネの夜」(『谷川雁詩集』思潮社、1968)
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【詩歌】吉本隆明「ちいさな群への挨拶」

2015年09月21日 | 詩歌
 あたたかい風とあたたかい家とはたいせつだ
 冬の背中からぼくをこごえさせるから
 冬の真むかうへでてゆくために
 ぼくはちいさな微温をたちきる
 おわりのない鎖 そのなかのひとつひとつの貌をわすれる
 ぼくが街路へほうりだされたために
 地球の脳髄は弛緩してしまう
 ぼくの苦しみぬいたことを繁殖させないために
 冬は女たちを遠ざける
 ぼくは何処までゆこうとも
 第四級の風てん病院をでられない
 ちいさなやさしい群よ
 昨日までかなしかった
 昨日までうれしかったひとびとよ
 冬はふたつの極からぼくたちを緊めあげる
 そうしてまだ生れないぼくたちの子供をけっして生れないようにする
 こわれやすい神経をもったぼくの仲間よ
 フロストの皮膜のしたで睡れ
 そのあいだにぼくは立去ろう
 ぼくたちの味方は破れ
 戦火が乾いた風にのってやってきそうだから
 ちいさなやさしい群よ
 苛酷なゆめとやさしいゆめが断ちきれるとき
 ぼくは何をしたろう
 ぼくの脳髄はおもたく ぼくの肩は疲れているから
 記憶という記憶はうっちゃらなくてはいけない
 みんなのやさしさといっしょに

 ぼくはでてゆく
 冬の圧力の真むこうへ
 ひとりっきりで耐えられないから
 たくさんのひとと手をつなぐというのは嘘だから
 ひとりっきりで抗争できないから
 たくさんのひとと手をつなぐというのは卑怯だから
 ぼくはでてゆく
 すべての時刻がむこうがわに加担しても
 ぼくたちがしはらったものを
 ずっと以前のぶんまでとりかえすために
 すでにいらなくなったものにそれを思いしらせるために
 ちいさなやさしい群よ
 みんなは思い出のひとつひとつだ
 ぼくはでてゆく
 嫌悪のひとつひとつに出遇うために
 ぼくはでてゆく
 無数の敵のどまん中へ
 ぼくは疲れている
 がぼくの瞋りは無尽蔵だ

 ぼくの孤独はほとんど極限に耐えられる
 ぼくの肉体はほとんど苛酷に耐えられる
 ぼくがたおれたらひとつの直接性がたおれる
 もたれあうことをきらった反抗がたおれる
 ぼくがたおれたら同胞はぼくの屍体を
 湿った忍従の穴へ埋めるにきまっている
 ぼくがたおれたら収奪者は勢いをもりかえす

 だから ちいさなやさしい群よ
 みんなひとつひとつの貌よ
 さようなら

□吉本隆明「ちいさな群への挨拶」(『転位のための十篇』、私家版、1953/『吉本隆明詩集』、思潮社、1963)
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【詩歌】会田綱雄「伝説」

2015年09月20日 | 詩歌
 湖から
 蟹が這いあがってくると
 わたくしたちはそれを縄にくくりつけ
 山をこえて
 市場の
 石ころだらけの道に立つ
 蟹を食うひともあるのだ

 縄につるされ
 毛の生えた十本の脚で
 空を掻きむしりながら
 蟹は銭になり
 わたくしたちはひとにぎりの米と塩を買い
 山をこえて
 湖のほとりにかえる

 ここは
 草も枯れ
 風はつめたく
 わたくしたちの小屋は灯をともさぬ

 くらやみのなかでわたくしたちは
 わたくしたちのちちははの思い出を
 くりかえし
 くりかえし
 わたくしたちのこどもにつたえる
 わたくしたちのちちははも
 わたくしたちのように
 この湖の蟹をとらえ
 あの山をこえ
 ひとにぎりの米と塩をもちかえり
 わたくしたちのために
 熱いお粥をたいてくれたのだった

 わたくしたちはやがてまた
 わたくしたちのちちははのように
 痩せほそったちいさなからだを
 かるく
 かるく
 湖にすてにゆくだろう
 そしてわたくしたちのぬけがらを
 蟹はあとかたもなく食いつくすだろう
 むかし
 わたくしたちのちちははのぬけがらを
 あとかたもなく食いつくしたように

 それはわたくしたちのねがいである
 こどもたちが寝いると
 わたくしたちは小屋をぬけだし
 湖に舟を浮かべる
 湖の上はうすらあかるく
 わたくしたちはふるえながら
 やさしく
 くるしく
 むつびあう

□会田綱雄「伝説」(『鹹湖』、1957:第1回高村光太郎賞)
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【詩歌】田村隆一「帰途」

2015年09月19日 | 詩歌
 言葉なんかおぼえるんじゃなかった
 言葉のない世界
 意味が意味にならない世界に生きてたら
 どんなによかったか

 あなたが美しい言葉に復讐されても
 そいつは ぼくとは無関係だ
 きみが静かな意味に血を流したところで
 そいつも無関係だ

 あなたのやさしい眼のなかにある涙
 きみの沈黙の舌からおちてくる痛苦
 ぼくたちの世界にもし言葉がなかったら
 ぼくはただそれを眺めて立ち去るだろう

 あなたの涙に 果実の核ほどの意味があるか
 きみの一滴の血に この世界の夕暮れの
 ふるえるような夕焼けのひびきがあるか

 言葉なんかおぼえるんじゃなかった
 日本語とほんのすこしの外国語をおぼえたおかげで
 ぼくはあなたの涙のなかに立ちどまる
 ぼくはきみの血のなかにたったひとりで掃ってくる

□田村隆一「帰途」(『言葉のない世界』、昭森社、1962:高村光太郎賞)
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【政治】安倍政権下で進む統制と監視

2015年09月19日 | 批評・思想
 (1)“1999年国会”では、憲法に反する一連の立法が可決され、この国の転機となった。
    <例>盗聴法と国旗国歌法の制定、住民基本台帳法の改正。
 今の“2015年国会”でも、憲法違反の悪法が可決されようとしている。
    <例>安保法制の推進、盗聴法と刑事訴訟法の改正、共通番号法の改正。
 安保法制が目指すのは、戦争ができる体制の構築である(集団的自衛権行使容認を含む)ことは明らかだ。これと並んで、あるいは関わって、安倍政権下で進められつつあるのが
    ・情報や言論の統制、
    ・市民監視強化
の大きな流れだ。

 (2)2013年、特定秘密保護法と共通番号法が相次いで成立。
   「お上」が情報を独占しつつ、国民が知るべき情報は秘匿、禁圧し(秘密保護法)、
   他方で踏み込んではならない個人情報を国家が過剰に管理する(共通番号法)・
これによって、情報の統制とコントロールの基盤的、制度的枠組みが構築された。

 (3)(2)を踏まえて、
  (a)表現規制の一層の強化
が進められる危険性がある。単純所持罪を導入する改正児童ポルノ法が2014年6月に成立し、青少年健全育成基本法の制定も目指されているからだ。
 また、民主党政権下で国会に上程された人権救済機関を新たに設置する人権委員会設置法案などの提案も今後検討される余地がある。今国会では、人種差別撤廃基本法案も民主党を中心に提出されている。
 これらは、表現やメディアに対する帰省の文脈で、批判的な吟味が必要だ。

  (b)市民への監視の強化
がもう一つの方向だ。盗聴法改正について、今国会では盗聴対象犯罪の拡大などが提案されているのだが、将来的には室内盗聴の合法化も検討課題に挙げられているし、自民党や政府の内部には電子メールの通信履歴の保存を法的に義務づける提案も議論されている。
 さらに、20年後の東京オリンピック開催に向けてテロ対策を理由に、すでに昨年の臨時国会ではテロ資金提供処罰法改正と、テロ資金凍結法が成立しているのに加えて、犯罪の実行行為がなくても共謀(合意)するだけで処罰ができる「共謀罪」の創設が目指されている。
 さらには、日本版CIA、NSAとも言うべき本格的な対外諜報、情報機関の創設さえ現実味を帯びつつある。

  (c)メディアへの統制と支配
 安倍政権は、NHKトップの経営委員会と会長ポストをおさえるべく、人的、組織的な送り込みを図り、権力に迎合する世論作りを進めようとしているし、自民党の放送介入や、右派メディアとの連携による「朝日新聞」への一連のバッシングなどもこうしたメディア統制の文脈に位置づけられる。

 (4)さらには、2012年に公表された自民党の憲法改正案が、「公益及び公の秩序」を害する目的でも表現活動や結社を禁止する旨明記し、表現の自由を憲法改正により制限する方向が目指されている。
 こうした情報統制や市民監視に抗い、情報を取り戻す課題が、市民やメディアに求められている。

□田島泰彦(上智大学教授)「安倍政権下で進む統制と監視に抗い情報を取り戻せ!」(「週刊金曜日」2015年9月4日号)
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【詩歌】中村稔「鵜原抄」

2015年09月19日 | 詩歌
 1

 岩棚の上から絶壁がそば立ち
 絶壁と絶壁との間に入江はひろがる。
 海は藍よりもさらに青く、
 いくつかの男女の群れはあそぶ。

 ある者は遊泳し、ある者は
 岩棚に背をのべて陽を浴びる。
 時に叫喚がおこることはあっても
 ついに言葉となることはない。

 どうしてかれらを識別することができよう!
 ひとたびこの海を去って
 もの倦い日常の中にまぎれゆくとき・・・・。

 海は藍よりもさらに青く
 時は物言わぬ果実のように熟れている。
 --ああ誰もこんな恍惚たる時をもつ権利がある。

 2

 隧道をぬければ豁然と海はひらけ
 汀は弧をえがいて岩礁につづく。
 岩礁をこえ岬の台地に立ち
 ふたたび隠顕する入江を臨む。

 物言うな、
 かさねてきた徒労のかずをかぞえるな、
 肉眼が見わけうるよりもさらに
 事物をして分明に在らしめるため。

 海を入江にみちびく崖と崖の間に
 鳶は静止し、静止して飛翔し
 その影は群青の波に溺れる。

 知らない、
 同じ日、同じ時刻、同じ太陽が
 かの猥雑な都会の上の空をわたる、と。

 3

 ふりしきる星明りの下、
 沖に鳴る潮の音と
 松の梢に鳴る風の音とがまざりあう
 岬にきて、私たちふたり紅茶を喫す。

 川沿いにつづく家並の灯も
 岬の蔭の養魚場の灯も、もう消えた。
 私たちは人々と訣れてきて、
 人々は私たちをとうに忘れている。

 海に白くかがやく波がしら、
 きり立つ崖となっておちこむまで、
 海にはりだしている小さな岬。

 その岬にきて、私たちふたり紅茶を喫す、
 行きもやらず戻りもやらず、どよめきかわす
 潮の音と風の音とを聴きながら。

 4

 海と陸とのさかいを歩めば、
 海は海で暮れなずみ、陸は陸で暮れなずむ。
 海と陸とは岩礁の所属を争い、
 そのあたり、遅い午後の陽差しは残る。

 岩礁に湧きかえり、ふくれ、潰えさり、
 またくりかえし湧きあがる水泡。
 見かえれば暮れなずむ空の彼方に、
 ただよう都会、いりくんだ秩序の網目。

 わずかに決意をうながすものを感じ、
 歩をはやめ、又埒もないことと知り、
 岩礁のあたり
 朱に噴きこぼれる余光を見る。

 ああ、今日も水泡はひたすらに悔恨を噛む、
 溺れるのか、溺れるのか--と。

□中村稔「鵜原抄」(『鵜原抄』、思潮社、1966:高村光太郎賞)
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 【参考】
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【詩歌】中村稔「器物」
【詩歌】中村稔「塔」
【詩歌】中村稔「誕生」
【詩歌】中村稔「城」
【詩歌】中村稔「埴輪」
【メンタル・スケッチ】群衆
【メンタル・スケッチ】挽歌
【本】この1年に出会った本
【中村稔ノート】凧 ~戦禍の記憶~
【中村稔ノート】ある潟の日没 ~震災と戦災~
【読書余滴】追悼、森澄雄の生涯と仕事
書評:『本読みの達人が選んだ「この3冊」』
書評:『加藤周一自選集8 1987-1993』

【佐藤優】ロシア、日本との約束を反故 ~対日関係悪化~

2015年09月18日 | ●佐藤優
 (1)9月2日、北方領土交渉担当のイーゴリ・モルグロフ・ロシア外務省次官(日本側のカウンターパートは杉山晋輔・外務審議官)が、前代未聞の挑発的発言を行った。
 <ロシアのモルグロフ外務次官は2日、北方領土問題について「私たちは日本側といかなる交渉も行わない。この問題は70年前に解決された」と述べた。インタファクス通信が伝えた。ロシア外務省の強硬姿勢で、日本側がプーチン大統領の訪日を受け入れることは困難な情勢とみられる。
 モルグロフ氏は、日本政府がメドベージェフ首相の北方領土訪問を批判していることに対して、こうした見解を示した。
 モルグロフ氏は「南クリル(北方領土のロシア側呼称)は第2次大戦の結果、法的に我々の側に移った。ロシアの主権と管轄権がこれらの島にあることに疑いはない」と強調。両国の交渉が中断していることについても、ウクライナ危機を理由に対ロ制裁に加わった日本側に責任があるという考えを示した。>【注】

 (2)モルグロフ次官は、「根室半島と歯舞群島の間に国境線を画定する、すなわち北方四島がロシア領であることを日本が認めるならば平和条約を締結してもよい」という交渉スタンスを示している。
 モルグロフ発言は、過去の日露間の合意を完全に無視するものだ。
  (a)日ソ共同宣言(1956年10月)で、ソ連は平和条約締結後に歯舞群島と色丹島の日本への引き渡しを約束している。日ソ共同宣言は、両国議会が批准した法的拘束力を持つ国際約束だ。
  (b)東京宣言(1993年10月)で、日露両国は、択捉島、国後島、色丹島、歯舞群島の帰属の問題を解決して平和条約を締結することに合意している。
  (c)イルクーツク声明(2001年3月)で、プーチン大統領が、日ソ共同宣言と東京宣言を明示的に再確認している。
 (b)と(c)は、法的拘束力はないが、重要な政治的合意だ。今回のモルグロフ次官の発言は、ロシア外務省が、ロシア国家とプーチン大統領が過去に日本に対して行った約束を反故にする、と宣言した深刻な事態だ。

 (3)ロシア外務省の北方領土交渉に係る消極的姿勢を突破する力は、プーチン大統領にしかない。
 しかし、客観的に見た場合、プーチン大統領に期待はできない。
 9月2日、プーチン大統領は、中国を訪問する途上、東シベリア・ザバイカル地方のチタを訪れ、第二次大戦の犠牲者の記念碑に献花した。2010年、ロシア政府は9月2日を「第二次世界大戦終結の日」に定め、毎年、シベリアや極東の各地で記念式典を開いている。しかし、これまでプーチン大統領は、この記念行事に参加したことはなかった。
 今回、日本のシベリア出兵の舞台となったチタで、軍事パレードの観閲は行わなかったとはいえ、対日戦争記念行事に参加したこと自体が、プーチン大統領が対日関係改善の意欲をなくしつつあることを示すものだ。

 【注】記事「北方領土問題「解決済み」 ロシア外務次官」(朝日新聞デジタル 2015年9月3日)
 【注2】記事「プーチン大統領、シベリアでの対日戦勝式典で献花 愛国心の鼓舞狙う」(産経ニュース 2015年9月2日)
 【注3】「スターリンの「ソ連国民に対する呼びかけ」(放送)」(独立行政法人北方領土問題対策協会HP)

□佐藤優「日本との約束を反故にする「深刻な事態」 ~佐藤優の人間観察 第128回~」(「週刊現代」2015年9月26日・10月3日号)
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【詩歌】中村稔「仏頭」

2015年09月18日 | 詩歌
 その口許はわずかな笑みをうかべているので
 その鼻梁は秀でているので
 その首は石でできているので
 たしかに多湿地帯のものではない。

 その首は語りかける、
 万年雪をいただく連山や熱帯の沙羅の樹や
 沙漠をゆく隊商や奴隷市や
 海峡の都市の野外劇場の階段や・・・・

 私たちが猫背がちであり
 私たちの鼻梁が貧しく低く
 私たちの太陽の輝きがあまりに柔和で優しいとしても、

 その首に私たちは知る
 太陽の下の孤独を
 群衆の中の愛と死を。 

□中村稔「仏頭」(『鵜原抄』、思潮社、1966:高村光太郎賞:高村光太郎賞)
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 【参考】
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【政治】岸信介の悪さの研究

2015年09月17日 | 批評・思想
 (1)安倍晋三の祖父、岸信介は、戦犯容疑の逮捕状が出された時、杉敏介(旧制一高の恩師/郷土の先輩)から「惜命」と題した歌を贈られた。

 *二つなき命にかへて惜しけるは
    千歳に朽ちぬ名にてこそあれ

 郷土の偉人、吉田松陰の教えを知っている者なら命を惜しんで名を汚すな、つまり、自決せよ、という意味だ。
 それに対して岸は、こんな歌を返した。

 *名にかへてこのみいくさの正しさを
    来世までも語り残さむ

 「みいくさ」とは聖戦だ。聖戦は正しい、その正しさを来世までも語り残すために今死ぬわけにはいかない、と答えたのだ。
 そして、巣鴨プリズンに連行され、3年間、ここで幽囚の日々を送った。

 (2)岸は、東条英機と最後にぶつかったことが幸いして、戦犯容疑を免れた。巣鴨プリズンを出されるや、ある新聞記者に問われて言った。
 「私は、巣鴨生活で過去は一切精算したつもりだ。したがって自分としては(日本の再建を唱える)その資格はあると思う。他から東条内閣の同僚だとか軍の手先だとかいわれるかも知れない。それはある程度事実なんだから止むを得ないが、現在の自分の気持としては元商工大臣とか翼政総務だとか、そんな過去の経歴にこだわる気持は毛頭ない」
 つまり、岸はまったく反省していないのだ。
 負けて失敗した、とは思っていても、あの戦争を起こすべきではなかった、などとはちっとも考えていない。
 それは、関東軍と提携して統制経済の実験場とした満州国を
   「まるで白紙に描くようにして造ったわたしの作品」
と言い切ったことからも明らかだ。
 大日本帝国のカイライである満州国を5人の実力者「二キ三スケ」が操った。
   東条英機(とうじょう ひでキ)
   星野直樹(ほしの なおキ)
   松岡洋右(まつおか ようスケ)
   鮎川義介(あゆかわ よしスケ)
   岸信介(きし しんスケ)
 これに、満州の夜を支配した、とされる甘粕正彦を加えてもいい。

 (3)日米開戦まもない1941年12月20日付け「朝日新聞」に、岸は商工大臣としての談話を寄せた。
 「かく観(み)来れば大東亜地域において自給し得ざるものは僅々数種に過ぎないのであって、これ等とてもわが科学、技術の力により代用資源を合成創造することが出来、資源の不足は十分補填し得ると思ふ。かくてわが国は東亜共栄圏の基礎の上に世界無比の完全なる国防国家を建設することが出来るのであって、東亜経済の前途誠に洋々たるものがあると云はねばならぬ」
 これは、東条の発言として読んでも何ら違和感が生じない。
 岸は、「足らぬ足らぬは工夫が足らぬ」といった極端な精神主義で国民を戦争に引きずり込んだ。

 (4)戦後、岸は日米安全保障条約を強化しようとした。
 それは中国敵視政策につながる、として竹内好・都立大学教授(当時)は反対して辞職した。竹内は、講演会などで、こう訴えた。
 「いままでわれわれはあまりにもお人好しでした。何回も彼を許した。戦犯であることを許し、ベトナム賠償のときに許し、許すごとに彼はわれわれの許したことを栄養に吸い取って、ファシストとして成長してきた」
 『戦後史の正体』の孫崎享は、岸を評価する。孫崎は、「お人好し」の典型だ。
 同じ自民党でも、鳩山一郎は「総理大臣が金儲けしちゃいかん」と言った。
 河野一郎は、「岸を総理にしたのは日本のためによくなかった」と吐き棄てた。

□佐高信「岸信介の悪さの研究 ~新・政経外科 第45回~」(「週刊金曜日」2015年9月4日号)
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【詩歌】中村稔「器物」

2015年09月17日 | 詩歌
 1 李朝

 遠ざかる日々、見え隠れする物の来歴。
 路傍の、人蔘の花。
 微笑みかけることもなく佇ちつくす
 貧しい少女の羞じらい。

 冬の未明。空の一点に朱をにじませ、
 ついに終日、都会の煙霧の奥ふかく
 遁走し去る太陽を知る。

 昨日を手許にとどめることができないように、
 それを愛撫するよしもない。
 それは語りかけることはしないから、
 眼をみひらいて見遣っているよりほかはない。

 茫々ととどめやらぬ時に似た肌に
 一点の朱をにじませ
 羞じらいながら佇ちつくす物のかたち。

 2 志野

 私たちが捕捉しようとした
 沫雪の中の炎
 水にまぎれゆく風のざわめき。

 それは設計する精神ではない。
 だが、しかし
 私たちの魂は充分に強靱で、
 真昼のように目覚めていた!

 それは息づきそして汗ばむ
 掌に似た肌をもつ。
 それはこまやかに季節の影をおとし
 大気の底に位置を定める。

 私たちの秩序のように陰湿な
 それと私たちとの関係。__だか
 陰湿だからとて又何としよう?

 3 信楽

 もう与えられたかたちに倣わない
 もう与えられた色にまなばない
 松の梢を吹く風のかたちと
 風の色とが自から器をなした!

 それはある秩序の終りのとき
 港町の雑沓の中にも
 荒れた山野にも 日常ふだんに
 死が身辺にあったときから

 蒼茫たる歳月をながらえてきた!
 少女の肌のように無垢のまま
 松の梢を吹く風のように爽かに

 それは昨日と今日との間の暗がりに
 漂よいながら
 仄かな明るみをたたえて位置を占める。

 4 高麗

 薄明の海をながれる藍よりも
 さらに淡い器物の青に
 ひたすらに一日の憂悶を鎖す。

 わが祖父たちの奪ったもの、
 わが兄弟たちの掠めたもの、
 ついに奪いえず、掠めえなかったもの。

 自らを恃んで傲らぬもの、
 謙抑にして自らを卑しめぬもの、
 故宮の城壁を劃る空よりも
 さらにはるかなるもの。

 その淡い器物の青に
 夏を鎖し冬を鎖し時を鎖し
 ひたすらに憂悶を鎖し、かえって
 憂悶のふつふつと湧きくるを知る。

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