語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】中村稔「城」

2015年09月14日 | 詩歌
 城壁と城壁との間の道を昇り又降り
 その一角から内部に逼いりこみ
 投げだされるように逼い出て一日を終える
 冬になれば路上には風の塊りがなだれ落ちる

 そのなかで人はよく微笑をたもち
 もはや温和にしか言葉を話さない
 偶々傍らの花瓶に花が挿してなかったとしても
 所詮言葉と言葉との間には無数の迷路がある

 城壁は泥土の上に連なって聳え
 眺瞰する陰湿な低地の隅々に
 迷路にみちびかれた夥しい人の住家がある

 夜 平原に灯が乱舞するころ
 人はおのがじし城壁をつむ 陰湿な低地の隅に
 すでに風の塊りを防ぐほどに城壁は強固であろうか?

□中村稔「城」(『鵜原抄』、思潮社、1966:高村光太郎賞)
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 【参考】
【詩歌】中村稔「埴輪」
【メンタル・スケッチ】群衆
【メンタル・スケッチ】挽歌
【本】この1年に出会った本
【中村稔ノート】凧 ~戦禍の記憶~
【中村稔ノート】ある潟の日没 ~震災と戦災~
【読書余滴】追悼、森澄雄の生涯と仕事
書評:『本読みの達人が選んだ「この3冊」』
書評:『加藤周一自選集8 1987-1993』


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