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煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

肉の丸吞みにご用心

2023-07-11 17:38:41 | 健康・病気

20237月のメディカル・ミステリーです。

 

78日付 Washing Post 電子版

 

Medical Mysteries: A surgeon’s ominous pain and a question of grilled meat

メディカル・ミステリー:外科医の不気味な痛みとグリルした肉の問題

(Bianca Bagnarelli for The Washington Post)

 

By Sandra G. Boodman

 

 

 Thomas P. Trezona(トーマス・P・トレゾナ)さんは、放射線科医の隣に座り、きっと見つかるだろうと思っていた病変についてビクビクしながら自身のCTスキャンの画像を眺めていた。:それは彼の母親を死に至らしめたのと同じ病気である膵臓癌の所見のことである。彼の年齢、性別、そして家族歴を考慮すると、それがこの引退した腫瘍外科医の生活を2021年7月に奪った激しい腹痛、嘔気、急速な体重減少の最も考えられる原因だった。

 Trezona さんが大いに安堵したことにその検査では癌の所見は認められなかった。彼の内科医は、彼が食餌中の穀物に反応を起こしているのではないかと考えたが、一方でそのCT検査後に行われた血液検査ではまれな慢性の胃腸疾患が示唆された。

 Trezona さんを衰弱させる症状の原因は約2ヶ月後の手術の後に確定したが、考えられていたいずれの疾患でもなかったことが明らかになった。この外科医の長い医療従事歴で培われた自身の病気に対する粘り強い系統的アプローチに、彼を長年に渡って診てきた胃腸科医の支援が加わって、彼の増悪する憂慮すべき症状の、めずらしい、回避することのできる原因の発見につながった。

 現在72歳になる Trezona さんは回復しているが、その経験は彼に衝撃をもたらした。彼は、ありふれた状況に潜む見逃されがちな危険への人々の関心を呼び覚まし、彼らが似たような苦しい経験をせずにすむようにしたいと考えている。

 「私が医療界に対するきわめて特別なアクセス権と、殆どの人たちが持たない知識に恵まれていることは承知しています」オレゴン州の Eugene(ユージーン)に住む Trezona さんはそう話す。しかし患者の大半はこの病気ではるかに長い時間苦しんできたことでしょう」

 

Possible parasite 寄生虫の疑い

 

 Trezona さんの上腹部の漠然した痛みはグランドキャニオンでの2週間の筏下りの旅行から戻って2、3日後の7月13日に始まった。その 2、3日後には痛みが増悪し、腹部膨満感が出現、吐き気がして食べられなくなった。

 2020年に引退した Trezona さんは、その痛みが断続的に訪れ、午前中には比較的軽度だが、午後になるにつれ増強する傾向にあることに気づいた。彼は differential diagnosis(鑑別診断)をまとめることにした。これは同じ症状を示す考えられる疾患のリストであり、医師らに用いられる根幹的診断手順である。

 「これは外科医ならすることです」と彼は言う。「私たちは、ひどい腹痛の症状がある患者を診るよう ER に呼ばれる専門家です」Trezona さんはさらに、自身の症状を追跡するために毎日の症状日誌をつけることにした。

 寄生虫によって引き起こされた感染症にかかっているのではないかという彼の最初の疑いはただちに除外された。Trezona さんと彼の妻 Amy(アミ―)は旅行中浄水器を通した水を飲んでいたし、彼女は元気だった。そしてそのような感染症の特徴的症状である下痢が彼にはみられなかったからである。

 次の可能性ははるかにたちの悪いものだった。Trezona さんはそれまで、消化器の癌患者を多く治療してきており、彼の母親が74歳のときに膵臓癌の診断を受けて2、3ヶ月で死去したのを目の当たりにしていた。またそれまで健康だった71 歳の男性は持続的な腹痛と原因不明の体重減少が、違う病気であると判明するまで癌ということになっていたと Trezona さんは言う。そういうわけで彼はできるだけ早く CT 検査が必要と考えたが、8月2日まで彼の内科医の予約が取れなかった。

 不安を募らせた彼は、友人で胃腸科医の Jonathan Gonenne(ジョナサン・ゴネン)氏にメールしたが彼は New England(ニューイングランド)へ休暇旅行中だった。

 翌日、彼らは電話で Trezona さんの症状について討議した。その胃腸科医は自分の診察室に電話し、CT 検査を依頼、8月上旬に予定が組まれた。

 Gonenne氏は不安を感じたことを覚えている。「彼は意味もなく症状を訴えたり誇張するような人間ではないからです」と彼は言う。

 検査の一週間前、Trezona さんはけいれんのような痛みに襲われたがそれがあまりに強かったためトイレの床の上で身悶えした。力が入らず、腹部が膨満し、吐き気を催したが吐くことはできず、妻に近くの緊急室に連れていってもらった。たぶん CT 検査をすぐに受けられるだろうと彼は思った。

 Trezona さんは看護師と physician assistant(準医師資格者)に診てもらい採血され血液検査が行われた。待合室で4時間以上経ったが Trezona さんは医師に診てもらうことはなく、彼の電話が鳴って結果が伝えられた。一つを除いてすべては正常だった。白血球の一つ、好酸球数が上昇していた。これは、アレルギー、寄生虫感染症、あるいは癌を示唆する可能性があった。

 医師の診断を受けるまでさらに 4、5時間も待つ必要はないとわかったため、Trezonaさんは自宅に戻ることにした。「『この先24時間のうちに死ぬことはないだろう』と思ったのです」と彼は言う。彼に熱はなく、痛みは弱まっており、全白血球数は正常だったことから、重大な感染症や腸管穿孔は除外された。

 翌週、彼はかかりつけの家庭医を受診、彼は好酸球数の増加を重視することなく、Trezona さんに穀物の入っていないグレイン・フリー・ダイエットについての情報を手渡した。

 Trezona さんによると、彼の症状が食物に関連しているという考えは生まれてこの方聞いた中で最もバカげた話だと考えたが、そのことは口に出しては言わなかったという。彼が Gonenne 氏と連絡を取ると、彼は腸管の収縮を和らげる鎮痙薬とオピオイド系(麻薬系)鎮痛薬の処方を求めた。しかしいずれもあまり効果はなかった。

 Trezona さんは、痛み、腹部膨満、および吐き気が強くなっていることを深刻に考えた;一ヶ月足らずで彼は15ポンド(6.8㎏)以上体重が減っていたからである。彼は自分の腹部を診察してみたが、疑わしいものは何も感じられなかった;6ヶ月前に行われた大腸内視鏡も正常だった。

 8月2日、Trezona さんは CT 検査を受け放射線科医と画像を検討した。「非常にうれしかった」と正常の結果だったことについて彼は話す。しかし彼は完全には安心できなかった。というのも、正常所見でありながら、その後の手術中に癌が発見された患者のことを考えたからである。

 可能性が高まっているように思われた別の原因に彼は注意を向けた:eosinophilic gastroenteritis(好酸球性胃腸炎)である。これはまれな慢性の消化管疾患で、胃腸管に好酸球が集積することで発症し、吸収不良、腹痛、あるいは腸管閉塞の原因となる。「間違いなくそれであってほしくないと思いました」と Trezona さんは思い起こす。

 Gonenne 氏は上部消化管の精査と生検標本の採取を目的に内視鏡検査を予定した。しかしその結果は新たな手詰まりとなった。検査と生検は正常で eosinophilic gastroenteritis は除外されたのである。「私は幾分安心しましたが何が起こっていくのだろうかという困惑する気持ちは残りました」と Gonenne 氏は思い起こす。

 Trezona さんも先が見えなく感じていた。彼の腹痛は悪化していて、体重も減り続けていたが、誰も原因を見つけることはできなかった。自分が“ちょっといかれている”と医師から思われるのではないかと不安にもなった。

 Gonenne 氏は次に何をすべきかについての助言を求めて、自身が訓練を受けた Mayo Clinic(メイヨ・クリニック)に連絡を取った。その結果、小腸を精査する画像診断法である CT enterography(CTエンテログラフィー)を行うことを勧められた。

 Trezona さんは既にCT 検査を受けていたので、Gonenne 氏は MRI enterography(MRI エンテログラフィー)を行うことにした。この検査の方がより良い画像化が行える可能性があると彼は考えたからである。

 それこそが、発見に、そして誰もが疑っていなかった原因につながる決断となったのである。

 

A peculiar discovery 奇妙な発見

 

 8月下旬、彼の MRI 検査の一週間前、Trezona さんは突然、「ずっとずっと気分が良くなっていましたた。腹痛、腹部膨満、そして嘔気はぴたりと止まり、再び食べられるようになっていました」と彼は思い起こす。Trezona さんは MRI 検査をキャンセルしたいと考えたが Gonenne 氏は予約を実行するよう説得した。

 その検査の直後に Gonenne 氏は Trezona さんに電話をかけ、彼の腹痛を説明できるものは何も発見されなかったが、放射線科医が何か奇妙なものを発見していたと説明した:それは Trezona さんの左上腹部の正体不明の金属による“artifact(アーチファクト)=ノイズ”だった。彼は磁性金属製のクリップを使用する腹部手術を受けたことがあったのだろうか?

 受けたことはないと Trezona さんは答えたが、2020年に彼はワイヤーを使用する前立腺の治療を受けていた。おそらく一本のワイヤーが前立腺を抜けて腹部に迷入したとみられた。その可能性は突拍子もないように思われたがあり得ないことではなかった。

 Trezona さんは放射線科医に電話をかけて、CT と MRI を比較するために翌朝に来てもらうよう手筈を整えた。金属による異常所見はCT検査でも認められていたが、それと類似する動脈壁の生理的な石灰化と解釈されていたことを確認した。しかし前立腺の治療手技には非磁性体のステンレス鋼が用いられていることを Trezona さんが確認、前立腺原因説は即座に除外された。Trezona さんの腹部のワイヤーは磁性体だったのである。

 そうなると2つの未解決の疑問が残った:そのワイヤーはどこから来て、どうやってそこに達したのか?

 「それは移動しているのだろうか?」放射線科医は考え込み、limited scan(限局的な撮像)を行うことを提言した。Trezona さんは検査台に飛び乗った。その新たな検査で、そのワイヤーは数cm ほど移動していたことがわかった;また以前には認められていなかった Trezona さんの胆嚢内の小さな石灰化した胆石も確認された。

 「たちまち私たちはひどく面くらいました」と Trezona さんは思い起こす。彼には胆石症の既往はなかったからである。

 その翌日の夜、夕食後 2、3時間して Trezona さんは激しい腹痛、吐き気、連続的な嘔吐に襲われ、それが約2時間続いた。

 今回は Trezona さんは何が原因か正確にわかった。胆嚢が炎症を起こしていたのである。胆嚢の炎症である acute cholecystitis(急性胆嚢炎)はしばしば胆石によって引き起こされる。胆嚢を摘出する手術が通常行われる治療法である。

 「私は何百回もそれを気にかけてきました」と Trezona さんは言う。2ヶ月足らずで21ポンド(約9.5㎏)の急速な体重減少に加えて彼の年齢は彼を(胆石症の)最有力の候補にした。Trezona さんは再発を防止するために無脂肪食とし、外科医の受診予約をした。

 その時までには、Gonenne 氏は何が不可解な一連の症状を引き起こしていたかについて徐々に確信できるようになっていた。

 

An exact match 完全な一致

 

 数年前、Gonenne 氏は、知らないうちにバーベキューグリルの鉄格子をきれいにするために用いる金属ブラシのワイヤーの硬い毛を飲み込んで食道に微小な穿孔を起こした患者を治療したことがあった。そのワイヤーはぷっつりと切れて食べ物に刺さり見えない状態となっていたのである。

 そのような損傷はまれではあるが過小に認識されていると考えられている。2012年 the Centers for Disease Control and Prevention(米国疾病対策予防センター)は、15ヶ月の期間にロード・アイランド州プロビデンスの一病院で治療された 6例を報告している。全例がグリルで焼いた肉の摂取と関連していた。2例は緊急の腹部手術が必要となっていた。

 2014年には剖検中に発見されたグリルブラシのワイヤーによって引き起こされた腹膜炎で死亡した男性例が報告されている。

 2016年の研究では、2002年から2014年までの間に1,700人の米国の小児、成人がそのような損傷で ER での治療を求めており、4人に1人が入院を要していたと推計されている。2年後、Consumer Reports(コンシューマー・レポーツ)はワイヤーブラシがもたらし得る危険性について通告;また Consumer Product Safety Commission(米国消費者製品安全委員会)はグリルの清掃にはナイロンブラシや丸めたアルミホイルの使用を推奨している。

 Gonenne 氏は、Trezona さんがステーキに刺さったワイヤーを知らないうちに飲み込み、それが食道を降りて行って、胃の中に入り、胃の厚い壁を貫通する前に痛みを伴う攣縮を起こしていたと考えた。結果として生じた急速な体重減少がおそらく胆石症につながったのであろう。

 「これがグリルの硬い毛であることが分かっても手術に踏み切りませんでした」と Gonenne 氏は言う。グリルの剛毛が危険をもたらす可能性があることについて聞いたことがなかったという Trezona さんは、自身のケースでそれが問題の原因であるかどうかを解明する覚悟を決めた。指一本を使って彼は容易にワイヤーをブラシから外すことができていたのである。

 9月13日、Trezona さんの胆石を摘出した外科医は 2cmの長さのワイヤーが埋入する腹部組織の小さな箇所の摘出に成功した。

 手術から2、3日後に、Trezona さんは、自身の胃から回収したワイヤーと比べるために、自分が外したワイヤーを病理検査室に持って行った。顕微鏡下に観察し、それは炭素パターンに至るまで完全に一致し、そのパターンは焼けたバーベキューソースであることが確認された。

 「それは実に驚くべきことでした」と Trezona さんは言う。彼は既に彼のグリルブラシを捨てている。

 完全に回復した Trezona さんは、彼の2ヶ月の過酷な経験によって彼の癌患者の記憶が呼び起こされたという。外科医としての彼の長い経験をもってしても診断されていない激しい痛みがどれほど患者を孤独に追い込み、恐怖と絶望感をもたらすかをかつては認識できていなかったが、今回のことでできるようになったのである。

 「『これで自分は死んでいくのだろうが、誰もその原因を解明できない』と考えたことを覚えています」と彼は言う。Gonenne 氏の確固たる支持と援助が計り知れないほど大切だったと彼は付け加える。

 Gonenne 氏にとって、Trezona さんのケースは、他の医師の結論をただ受け入れるのではなく、検査の画像と他の初期のデータを自身で再検討する重要性を強調するものとなった。

 「Tom はそれについては驚異的です。彼は非常に細部に気を配る人間です」と Gonenne 氏は付け加える。

 Gonenne 氏の考えでは、Trezona さんの決断が答えの探索を後押ししたとみている。「これは、腹痛や体重減少の精査の最前線のものではありません」とこの胃腸科医は話す。「私はアスピリンの使用や他の薬物について尋ねるかもしれませんが、『グリルで焼きましたか?』とは聞きません」

 しかし「これは私には忘れることのない症例になっています」と彼は付け加える。

 

 

 

バーベキューグリルなどを掃除するのに用いられる

バーベキュー用のワイヤーブラシの危険性は

以前より指摘されている↓。

ニュースサイト Gigazine

 

 

食べ物を置くような場所に

ワイヤーが抜ける可能性のある(鉄の?)ブラシを使用するのは

やはり避けるべきである。

バーベキューが盛んな米国やカナダでは多いのかもしれないが、

これから夏休みに向けてアウトドア活動が活発となる日本でも

注意が必要であろう。

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