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しゃっくりの謎

2014-06-18 19:17:05 | 健康・病気

“しゃっくり(吃逆)”は
誰もが一度は経験する症状だろう。
止めようとしてもなかなか止まらないこともあれば
いつのまにか消えている、といったことも経験される。
そんな身近な現象である“しゃっくり”だが、
意外にも現代の医学をしても
その本質はよくわかっていないようである。

6月3日付 Washington Post 電子版

The hiccup remains a mystery, though there are many theories about its causes and cures
しゃっくりは謎のままである。その原因と治療については多くの説があるが…
By Meeri Kim,
 それはまばたきの間に起こる:呼吸筋が収縮し、声帯が強制的に閉まり、独特な音が発せられる。
 “Hic(ヒック)”

Hiccup

外肋膜筋と横隔膜が収縮し、強制的な吸気を生じる

 しゃっくり(吃逆)は誰もが時々経験する。猫も、ネズミも、人間の胎児もそうである。恐らく、あまりに食べるのが速すぎたり、ひどく興奮したり、炭酸を含むものを飲んだりしたときかもしれない。あるいは、手術のあと、麻酔から覚めるときかもしれない。しかし明らかな誘因がない場合もしばしばである。しゃっくりに何の目的があるのか医師は知らないし、その止め方もわかっていない。
 言い換えると、つつましいしゃっくりはその大部分が謎のままということである。そして、原因や治療について説が多く存在するのと同じくらい、家庭療法(民間療法)もたくさんある。
 「人々は実に面白い治療法を持っています:びっくりさせる、傷つける、くすぐる、90秒間飲み物を飲む、90秒間逆さ飲みすることなどです」そう言うのは内科医の Tyler Cymet(タイラー・サイメット)氏である。「しかしそれらは科学に基づいているものではありません」
 American Association of Colleges of Osteopathic Medicine(アメリカオステオパシー医学校協会)の医学教育部長である Cymet 氏はしゃっくりを有する54例の入院患者を対象とした5年間の研究を行った。1995年に研究を始めた彼は、息止めから強い薬物治療に至るまで、幅広い治療を試みたが、否定的な結果に終わった:これらの方法のいずれもが、しゃっくりの発作から患者を解放するのに有効でないことがわかったのである。
 「結論は何をやってもだめだということだと思います:それは勝手に始まり勝手に終わる、まあそんなところです」と彼は言う。
 しかし、それではそもそも私たちはなぜしゃっくりをするのだろうか?子宮内にいる間に羊水中で呼吸しないようにする胎児の消化器系反射であると提唱する研究者がいる。あるいは出生後の呼吸に備えて呼吸筋を鍛えるためのあらかじめの一つの手段ともいわれる。
 このほか、しゃっくりは、遠く両生類の先祖まで遡ると推測する説がある。息を吸ったあと突然に声門を閉じる原始的パターンは、特にオタマジャクシにおいて、呼吸するために肺ではなくエラを使うときに認められる。オタマジャクシの脳幹は、水が肺に入るのを防ぐために息を吸った直後に声門を閉じるよう蓋に指令を送る。これによって水はエラを通ることになる。しゃっくりの反射は、それがもはや何の役にも立たないにもかかわらず進化樹形図の上の方まで残ってしまったのかもしれない。
 しかし、意見の一致が得られていて、よく知られているのはしゃっくりのメカニズムについてである。医学で singultus(吃逆)について言及されるときには、横隔膜、および肋骨間の隙間に存在する肋間筋の突然の収縮とそれに続く、喉頭内にある左右の声帯間の隙間、すなわち声門の急速な閉塞、と定義されている。閉鎖した喉頭にぶつかる急速なけいれん様の吸息があの特徴的な音と身体的なひきつけを生じるのである。

The peanut butter fix ピーナツバターで対応

 しゃっくりが横隔神経や迷走神経をはじめとする神経回路に関わっている点についても多くの専門家で意見の一致するところである。迷走神経が脳幹から腹部まで伸びているのに対し、横隔神経は脳から横隔膜に信号を送る。
 ほとんどの人間にとってしゃっくりは一時的な厄介事に過ぎないが、非常に強い場合もある。The Washington Post のホームページ編集者の Coleen O’Lear(コリーン・オリーリ)氏にはほぼ毎日しゃっくりがみられる。それはただ時折に起こることもあるが、発作的に出現することもある。
 「それらが矢継ぎ早に起こるとき、非常に甲高い音となり滑稽に聞こえます」と O’Lear 氏は言う。「それは身体的にも不快なものです」
 この29才の女性はずっと以前からしゃっくりの発作を起こしている;医師によるとそれは彼女が赤ちゃんのときからある胃酸逆流性疾患と関係があるかもしれないという。彼女は耳にするあらゆる家庭療法を試してきた:スプーン数杯の砂糖、息止め、深呼吸、逆さ飲み、レモンをしゃぶる、などである。中には一時的に効くものもあるかもしれないが、ほとんどは全く効果がない。
 しかしある一つの方法は効果があった:それはクリーム状のピーナツバターをスプーン一杯分、非常にゆっくりと食べることである。O'Lear 氏は食道を被覆することと何らかの関係があると思っているが、Cymet 氏は精神的な鎮静作用が大きいと考えている。
 「ピーナツバターは一種の認知行動療法であり、ただ心配する代わりに、呼吸を整えることで行動について考えていることになるのです」と彼は言う。
 ニュース編集室の彼女の仕事仲間たちは彼女のしゃっくりに完全に慣れているが、O'Lear 氏本人はいまだにしゃっくりに苛立たしさを感じている。
 「それにどう対応すべきかはわかっていません」と彼女は言う。「ほとんどの時間、それは私を困らせるのです」
 2年前、精神分析医の Duane Hurst 氏の診察室を訪れたこの慢性吃逆患者は5年間続く毎日のしゃっくりの発作があまりにも嫌になったため、当初彼女は横隔神経を破壊して効果的に横隔膜を麻痺させるような侵襲的治療を希望した。アリゾナ州 Scottsdale にある Mayo Clinic の Hurst(ハースト)氏は、そのような治療はあまりに危険すぎると考え、heart rate variability biofeedback(心拍変動バイオフィードバック法)と呼ばれる手技を試みるよう提案した。

Flipping back and forth 行ったり来たり切り替わる

 私たちの神経系は2つの補完しあう系統を介して心拍数や血管収縮など無意識の身体的機能を制御している。一つの系では心拍数増加、瞳孔散大、発汗などの闘争・逃走本能に関係した反応を刺激し、もう一方の系は休息・回復モードを起動する。
 ストレス刺激に過敏で、この両者の間を容易に行ったり来たり切り替わる人がいる。おそらくこれは人間が肉食動物のターゲットとなっていた場合には有利な形質だったのだろうが、無用の不安につながる可能性がある今日の世界ではさほど有用ではない。かつてホラアナグマや剣歯虎から身を守った迅速な闘争・逃走反応は不適切な時機に作動してしまうことがある。たとえば上司との会談中だったり、高速道路に合流しようとしているときなどである。
 心拍の間隔を測定することで、医師はこの2つの系統間の相互作用、ならびに、それらが互いにどの程度まで戦っているかを追跡できる:一方は心拍数を上昇させ、もう一方はそれを低下させる。
 横隔神経を麻痺させてもらおうと考えていたこの女性に対し Hurst 氏は彼女の心拍数の変動性を検出するために心電図を用い、注意深く一定間隔の呼吸をするよう彼女に指導した。その考えは彼女の休息・回復モードを活性化し、神経系のバランスを取り戻し、ストレスを和らげるような呼吸数を彼女に見つけさせようとするものだった。
 「系統的手段で呼吸法を利用することができることを知っている人はあまり多くありません。私たち一人一人は呼吸の最適なポイントを持っているのです」と Hurst 氏は言う。
 決められたペースで呼吸を始めたところ、彼女は落ち着きを見せ始め、その後突然しゃっくりはみられなくなった。バイオフィードバックの訓練こそが彼女が必要とするものだったのである。
 「彼女のしゃっくりは文字通り彼女が椅子に座っていたときに止まりました。症状のない状態が2年間続いています」と Hurst 氏は言う。
 これは Hurst 氏にとって初めてのしゃっくりの症例だった。彼は通常、片頭痛、緊張型頭痛、線維筋痛症、不安症、あるいは過敏性腸症候群の治療に心拍変動バイオフィードバックを用いている。同じように Cymet 氏は、過去数年間に診てきた数百人の吃逆の患者に対して、呼吸訓練法、認知行動療法、さらにはヨガや Pilates と呼ばれるエクササイズを用いてきた。彼によると、全体として 20~25%の成功率であるという。
 しかし、しゃっくりが呼吸や食事を妨げるようなことがない限り大部分の人には心配の必要はないと彼は言う。
 「誰もがそれを経験しますが、なぜ起こるのかはわかっていません。進化の点から見てそれが適応的なものなのかそれとも非適応的なのかもわかっていません」と Cymet 氏は言う。「しゃっくりの理解についてはいまだ暗黒時代にいるのです」

しゃっくり(吃逆、きつぎゃく)とは、
横隔膜(または、他の呼吸補助筋)の強直性痙攣と同時に
声帯が閉じて空気の流入が阻止され
『ヒック』という独特の音が発生する現象がが
一定間隔で繰り返される症状である。
ちなみにしゃっくりは英語で hiccup(ヒカップ)というが
この特徴的な音である『ヒック』から派生したと思われる。
ミオクローヌス(myoclonus:筋肉の素早い不随意収縮)の一種と
考えられている。
求心性または遠心性の横隔神経の刺激、あるいは呼吸筋を支配する
延髄呼吸中枢の刺激によって起こると考えられている。
しゃっくりは明確な原因がない場合もあるが、
飲食物や会話などの刺激がきっかけになることがある。
そのほか胃食道逆流症や他の食道疾患が原因となったり、
腹膜炎や胸膜炎など炎症が横隔膜に及んだ場合や、
代謝疾患、腎臓病、さらには脳炎や脳腫瘍など脳の疾患で
引き起こされることもある。
また急に熱いものや冷たいものを食べた場合や、
刺激物を摂取したときにも起こることがある。
一般的に知られる対処法としては以下のものがある。
びっくりさせる、
思いっきり息を吸ったあとしばらく息を止める、
人差し指を耳に入れて30秒~1分程度待つ、
水を一気に飲みこむ、
誰かに驚かせてもらう、
耳を引っ張る、などなど…
しかしいずれも確実なものではない。
薬物治療では、
胃薬、筋弛緩薬・抗てんかん薬・抗精神病薬など
様々用いられるが、決定的な治療薬はない。
難治例に対しては
横隔神経のブロックや切断が行われることもあるが
両側の横隔神経切断術を行っても
全例に治癒が得られるわけではない。
たかがしゃっくりと考えがちだが、
一ヶ月以上続く難治性の場合には本人の苦痛は大きく、
体力を消耗して死に至ることもあるという。
今ほど医学が進歩しても、この単純に見える現象の本質は
いまだ理解されていないのが現実である。

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