ほなさんの汗かき日記

かくれ肥満の解消に50歳を超えてはじめた健康徒歩ゴルフ。登場する個人名、会社名、内容はフィクションである。

再録「汗かき日記」第三部(前)

2010年11月07日 | 日記
(「ほなさんの汗かき日記」のアメブロに載せた
 ものを再録)

    ほなさんの汗かき日記(第Ⅲ部)

 はじめてのゴルフ場デビューの日は、初夏の晴天というお
まけもあったが、ペットボトルの水やお茶、約2リットルは
呑んだに違いない。いきおいよく咽喉越しを通過した水は、
胃、十二指腸を流れおち、小腸まで到達する頃には、そのほ
とんどが吸収され、汗となって体外に出る作業を何度も繰り
返した。爽快な気分、このうえなしだ。

 普段はあまり動かないものだから、水分を少しでも取り過
ぎると腹にたまり、それがボテボテ、まったく気分が悪い。
飲んだ量をみなくても、腹をさすってやれば大方の検討がつ
くほどなのだ。それが、どうだろう、今日のお腹はどこまで
もぺちゃんこで、なおかつ爽快感まである。直径数センチの
小さな球を追いかけているうちに、暗黒の闇からひょっこり
抜け出た先には、輝く太陽と忘れていた世界があった。

 
        K師匠の受難

 われら初心者親子は、山岳コース特有のアップしダウンす
る繰り返しを、反復練習のごとく駆け上がり駆け下る、幾度
したか分らない。ホールからホールへはカートに乗らないと
迷子になるものだから乗るけれど、あとはずーーっと、ずー
っと徒歩のままだった。駆け上がりも駆け降りることも、本
当はあれほど必要なかったことなのだろう。でも残念ながら、
初心者の親子は、先達のK師匠の穏やかな目を剥かせ
「うっ!、、、、」
と唸らせる数々の迷シーンを作ってしまった。

 K師匠はルールも教えてあげるとスタート時に言った手前、
その律儀で温厚な人柄から、「ここはOB、ここはセーフ」と
判定してくれていた。それに甘えるがごとく、われら親子の
プレーは
「よくもまぁ、こんなところに。どうやったらできるの?」
と尻上がりの欽ちゃん言葉が出るほど、K師匠を悩ませたの
だ。

 コースと決められた場所以外に打ち出したボールを「OB」
といい、2打罰を付加して打ち直すというルールがある。そ
のためコースの端などに目印の白い杭が打ち込んであり、ボ
ールがその杭を越えるとOBとみなされる。だからOBとは、「
普通」に打ったら、ミスショットしてはいけない場所を指定
するもの。ところが、われら親子には、その普通ってものが
通用しない。
 とんでもないスゥイングで打ったボールは、はるか常識の
枠をこえて飛んで行った。OBという「ルールの想定外」の場
所に飛ぶものだから、アウトかセーフか問われれば、首をか
しげながら「セーフ」と言わざるをえないのだ。

 崖の下に落ちた息子のボールなど、誰がみてもOBに等しい
場所なのに、それがセーフになってしまう。こんなところに
打ち込む人などいないからだ。また悪いことに、どうみても
垂直に近い、70度はありそうな崖の真下から打ったボールが、
見事に一打でコースに戻ってしまったりするのだ。考えらな
い奇妙なスゥイングで、火事場のくそ力を出す初心者という
のは怖い。
 普通でないわれら親子のボールがコースアウトするたびに、
温厚で律儀なK師匠は、落下地点まで足を運んで判定してくれ
た。プレーヤーかつアンパイヤひとりで、野球をさばくよう
なものだから、広いコースを同じように動き回られねばなら
ない。しかも、前日まで風邪で熱を出して臥せっておられた
という。今日はかわいそうな受難の日になってしまった。

 そういうK師匠の嘆きをしりめに、こちらは初めてなんだか
ら、こんなものだろうとしか思っていないのだからなお始末が
悪い。はじめてで知らないものほど強いものはないのだ。人生
経験の長いK師匠は、こういう者達を相手に、勝つことができ
ないことを知っていた。
 こうなったら腹を決めて、出がけに近所の野良猫が、車の側
でニャーと鳴いた、あの猫がこの災いを招いたことにしてしま
おう。いや、昨夜の夢見がよくなかったせいだ、と。
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再録「汗かき日記」第二部(後)

2010年11月07日 | 日記
(「ほなさんの汗かき日記」のアメブロに載せた
 ものを再録)

        謎のグリーン

 さらさらの砂を周りにしたがえたマイボールは、グリー
ンの隅で悠然としていた。バンカーから一発でのったのだ
から、初心者にしてみれば、「ハッ、ハッ、ハ」と思わず
高笑いのひとつもしてみたいところだ。しかしそういうお
下品な所作は、特にマナーを重んじるスポーツ「ゴルフ」
ではもっとも嫌われるだろうから、本来の自分の品性から
治さねばならないと思った。

 だいいち、朝迎えてくれた職員の人たちも、私と息子が
ゴルフデビューだと聞くと、にこやかな笑顔で「それは光
栄です、これからどしどしお越し下さい。」と言って喜ん
でくれたではないか。であるのに、たった1回の幸運なバン
カーショットに酔いしれて、グリーンの上で「実力」と書
かれた扇子を広げてふんぞり返って高笑いでもしようもの
なら、もう二度とNカントリーの土は踏めないだろう。ジ
ェントルマンのK師匠からは、これ幸いと、絶縁状を送り
つけられるに違いない。

 グリーンを外した息子が、ほうほうのていでグリーンに
乗せてきたと思ったら、なんと球がカップの20CMぐらい
近くまで転げて寄ってきた。私は自分のラッキーショット
を忘れて、まぐれとは恐ろしいものだと思った。カップか
らかなり遠い私は、芝目もわからずに打つ、ひたすら打つ。
方向も、距離も思い通りにいかない。ここのグリーンは高
麗だかベントだか知らないが、練習したTVゲーム「みん
ごる4」では、高低しかなかったのだ。
だが本物は違う。グリーンに流れがあり、高低差がそれに
拍車をかけていく。曲がったり、まっすぐいったり、私に
はトント判らない世界がある。

 K師匠のボールは、意思でもあるかのように転げていく。
止まりそうで止まらない、コロンとカップに転げ込んだ。
息子はカップから20CMを一打で入れ、緊張から得意満面
の笑顔に変わった。フワフワのグリーンと同じように、私
の意識ははっきりしなかった。このホールは何がなんだか
分らないうちに終わってしまった。K師匠が数えなくても
よいといわれたスコアも、10まで数えたが、あとを数える
ことはできなかった。
いつカップインしたのかさえ記憶になかった。ラッキーな
バンカーショットの祟りをうけたのだ。

 たった1球を追うことに、汗だくになり、喜び、嘆き、喝
采を送る。コンサートホールでのアンコールのさなかのよ
うに、一心不乱、無の境地になっている自分をみつけ、朝
のスタート時にみた爺さん達の背中と自分が重なって見え
た。ミスしてもしなくても、そのことに夢中にさせてくれ
る時間と空間に浸れるありがたさ、贅沢さに、心のすみず
みまでが潤いを取り戻していくようだ。

「ビバ ゴルフ、 ゴルファー万歳! アニハセヨ、ボン
ジョルノ、セニョール、セニョリータ、ノストラダムス、、
、、、。」
感極まって、まったく同じ意味、知っているだけで意味不
明の単語が口をついて出てくる。

 さて次はどんなコースに出会えるか、次こそはうまくい
くに違いない。楽しみはますます膨らんでいく。
グリーンの向こうから、「父さん、早く、出発するよ」
息子の弾む声がよんでいる。      (第二部 完)
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