若い男が彼女に手渡したのは、ラブレターだ
った。彼女に冷やかしの言葉をかけようとし
たら、娘の表情はとても硬かった。
「ほなさん、私、結婚してるんです。あんな
もの、もらってもどうしようもないんです。」
彼女は、自分の体のどこかに、夫の持ち物だ
と書いてあるかのような言い方をした。
あんなもの、というのだから、手紙は一度では
なかったのだろう。最初の手紙を読み、それが
ラブレターだとわかり、そのうち相手の本気が
伝わるにつれ、娘は受け入れるべきものではな
いと判断したのだろう。
そういう娘の心をよそに、衆目の中、むげに断
ることができない状況下で手紙を渡そうという
若い男の行動は、いかにも分別がなかった。女
から観れば、愛するという相手を思いやるべき
行為が、この男の場合は自己愛で完結されてい
ると見えたことだろう。そして、若い男の行動
力が、幸せな結婚に水さすものと思えたのだっ
た。
あの時そういえば、娘は貰った手紙をそのまま
ギュっと握りつぶし、全身を固くしていた。
ラブレターをもらったのなら、もっとウキウキ
してよいはずが、怒りに震えていたのかもしれ
ないね。あのラブレターの行き着く先は、ゴミ
箱だったにきまっている。
そう思ったら、背中をぞくっとするものが走っ
た。過去に書いたオレの手紙も、そのままゴミ
箱へ直行していたんじゃないだろうか。過去の
遺物をずっと持っていられるのも困るが、青春の
過ちの結果の力作が、ゴミ箱へ直行していたん
じゃ、やり場のないものを感じるね。
でも、ほなさんのような風采のあがらぬ、男の
末席に位置する者から、ラブレターが届いたこ
と自体が許せないおんなどもは、手紙をことご
とく細かく裂き、火をつけ、その灰を太平洋に
バラまき、そこまで証拠がなくなることを見届
け、やっと安堵したことだろう。
女にとって、誰を好きだったか、誰に好かれた
かは、とても大切にしたい事なのでしょう。
男にはそういうこと、とてもわかりませんね。
読まれもしないラブレターが、この世にあると
は思いもしませんでした。
世の中の女性たちへ
「申し訳ありません、お手数かけて。」
った。彼女に冷やかしの言葉をかけようとし
たら、娘の表情はとても硬かった。
「ほなさん、私、結婚してるんです。あんな
もの、もらってもどうしようもないんです。」
彼女は、自分の体のどこかに、夫の持ち物だ
と書いてあるかのような言い方をした。
あんなもの、というのだから、手紙は一度では
なかったのだろう。最初の手紙を読み、それが
ラブレターだとわかり、そのうち相手の本気が
伝わるにつれ、娘は受け入れるべきものではな
いと判断したのだろう。
そういう娘の心をよそに、衆目の中、むげに断
ることができない状況下で手紙を渡そうという
若い男の行動は、いかにも分別がなかった。女
から観れば、愛するという相手を思いやるべき
行為が、この男の場合は自己愛で完結されてい
ると見えたことだろう。そして、若い男の行動
力が、幸せな結婚に水さすものと思えたのだっ
た。
あの時そういえば、娘は貰った手紙をそのまま
ギュっと握りつぶし、全身を固くしていた。
ラブレターをもらったのなら、もっとウキウキ
してよいはずが、怒りに震えていたのかもしれ
ないね。あのラブレターの行き着く先は、ゴミ
箱だったにきまっている。
そう思ったら、背中をぞくっとするものが走っ
た。過去に書いたオレの手紙も、そのままゴミ
箱へ直行していたんじゃないだろうか。過去の
遺物をずっと持っていられるのも困るが、青春の
過ちの結果の力作が、ゴミ箱へ直行していたん
じゃ、やり場のないものを感じるね。
でも、ほなさんのような風采のあがらぬ、男の
末席に位置する者から、ラブレターが届いたこ
と自体が許せないおんなどもは、手紙をことご
とく細かく裂き、火をつけ、その灰を太平洋に
バラまき、そこまで証拠がなくなることを見届
け、やっと安堵したことだろう。
女にとって、誰を好きだったか、誰に好かれた
かは、とても大切にしたい事なのでしょう。
男にはそういうこと、とてもわかりませんね。
読まれもしないラブレターが、この世にあると
は思いもしませんでした。
世の中の女性たちへ
「申し訳ありません、お手数かけて。」