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追記あり■第63回新道展 その1(2018年8月29日~9月5日で打ち切り、札幌)

2018年09月13日 22時22分28秒 | 展覧会の紹介-団体公募展
 道展、全道展に次いで1955年に発足した団体公募展である「新道展」(新北海道美術協会主催)。
 ことしは9月6日未明の北海道胆振東部地震による道内全域の停電で、会場の札幌市民ギャラリーが同日から休館してしまい、新道展も会期を4日残して終了という、異例の事態になってしまった。

 筆者は9月5日に見に行き、同協会の後藤和司事務局長から撮影許可をもらっていた。
 地震のため見に行けなかった人たちのことも考え、記事を3本に分けて、ことしの新道展の会場風景をたっぷりと紹介したい。


 例年のことだが、見応えのある作品は最初の大きな部屋に集中している。
 冒頭画像の右端は、永桶麻理佳(札幌)「飛び込む人」。佳作賞。
 永桶さんは夫婦で現代アートのユニット「故郷 IIこきょうセカンド」を組み、その名義でも今回、別に佳作賞を得ている。
 ただ、画風というか芸風はぜんぜん異なり、麻理佳さん単独で絵画を発表した2016年の個展では、踊るダンサーを題材に、スナップ写真のように瞬間的な動きや運動をとらえる表現を追求していた。
 個人的には、ダンサーやバレリーナを描く人は多いが、現代のホワイトカラーを取り上げる人は意外と少ないから、こちらの方が良いと思う。靴が片方脱げた彼女はいったいどこへ落下していくのか。あるいは、何に挑もうとしているのだろうか。


 大規模な展覧会では、入り口のロビーにも作品を並べることが多い。
 絵画3点。

 左端は三浦恵美子(会員、胆振管内安平町)「ナナサンイチ」。
 題の意味は不詳だが、閉塞感や焦燥感のような感覚が画面から伝わる。

 中央は白鳥洋一(会員、札幌)「植物記「ふたつの眠り」」。
 大まかな筆さばきとどこかどぼけたような味わいは白鳥さんならでは。支持体の形が不定形なのもユニーク。
 激しく燃えるような画面よりも、こういうのほほんとした感じのほうが、生命の表現としてはふさわしいのかもしれない。

 右端は中川雅章(恵庭)「流動」。
 佳作賞と会友推挙。  


 最初の部屋の、左側の壁は、ベテラン3人が埋めている。

 左は、柴崎康男(会員、伊達)「船のある風景」。
 柴崎さんの絵は年を追うごとに抽象の度合いが強まっている。港にひしめく漁船の船体を描き出す筆遣いはますます速度が上がる一方だ。

 中央は柳川育子(会員、札幌)「時は流れて」。
 130×324センチの大作。
 上方を中心に浮かぶ円と、風になびく布のようなものが、画面いっぱいに展開されている。
 色数を絞ったことが作品のふところのようなものを深くしているようだ。

 右は和田仁智義(会員、札幌)「漂流する村」。
 題には「村」とあるが、手前は、石の家を載せた舟のようにも見える。
 奥の岩にはよじ登る人々の後ろ姿が描かれている。頂上ではためく旗を目指しているのだろうか。
 なにを暗示しているのかはかならずしもあきらかではないが、むしろそのことが、預言や黙示録を思わせる不安感を漂わせている。 


 右手前は山本家弘(会員、伊達)「白い町」。
 140×243センチとこれも大きい。
 新道展は、若い新人がむやみにでかい作品で殴り込みをかけるのではなく、ベテラン会員が大作を並べる傾向にあるのかもしれない。

 山本さんはあまり個展などを開かず、新道展以外で拝見する機会が少ないのだが、丁寧なマチエールや、一見平坦に見えながらも奥行き感をたっぷり確保した構図など、見ごたえある作品を毎年発表している。

 その左隣は、浜地彩(会員、札幌)「夢幻ユメマボロシ」。

 さらに、右から、中村哲泰(会員、恵庭)「とどまるところのない生命」と香取正人(会員、札幌)「踏切」が続く。
 ふたりとも、グループ環に属するベテランの風景画家。
 中村さんの描く植物には、作者の生命に対する思い入れが感じられる。

 香取さんは、リズミカルなストロークと、描き込んだ部分と抜けた部分を巧みに配した構図の妙が魅力。見ていて快い絵なのだ。
 この作品でも、空はクリーム色だし、浮かんだ雲も非現実的な色合いをしているが、それがまったく不自然に感じられない。

 そのとなりは、やはりベテラン風景画家の有村尚孝(会員、岩見沢)「夏・霞む恵庭岳」。
 有村さんはいつも緑の絵の具をたっぷり使っている。


 新道展は1990年代から、立体造形やインスタレーションを重視する姿勢を示しているが、実際には退会者が多く、今回は第1室に2点しか並んでいない(そういえば、新道展の新世代を代表するインスタレーション作家だった田中まゆみさんはどうしておられるだろう)。

 河口真哉(札幌)「Weight and lightness」。
 立方体の大きいのと小さいのが4個ずつ。
 竜安寺の石庭ではないけれど、或る特定の視点からはすべての立方体を見ることができない。

 シンプルだが、力強い。
 個人的には、先の新さっぽろギャラリーでの個展などよりも、よっぽど雄弁でおもしろいと思う。

 インスタレーションはもう1点。田村純也(会員、苫小牧)「域」。

 なお、画像の左側に見えている虫の絵は奈良孝秋(会員、千歳)「命をつなぐ」。
 背景で、補色となるオレンジと緑を対比させている。


 ふすま絵のようにも見える左は後藤哲(会員、函館)「気」。
 黒い筆跡が、前衛書道の墨痕のように鮮烈だ。

 右は今荘義男(会員、岩見沢)「古里」。
 1960年に会員になった、新道展では最古参の今荘さん。
 深みのある焦げ茶色が、三連画のような構図とあいまって、宗教的ともいえる精神的な世界を広げている。



 左は鈴木秀明(会員、函館)の200号変形「或る光景」。
 右は高梨美幸(会員、札幌)「そうして、夜明けは遠い国からやってくる」(162×260)。

 彫像が崩れる瞬間を描き、「世界の終末」を想起させるバロック的世界を展開する鈴木さんの作品がすごいのは毎年のことなので、ここでは高梨さんの絵について述べる。
 この絵は、写実性と装飾性を両立させ、寓意もこめた力作であり、おそらくスポーツ選手でいうところの「キャリア・ハイ」であろうと思う。
 女性や、角のある動物は写実的に描写されているが、背後の木々や手前のササは単純化されて画面に奥行き感を与えている。
 そして、ちりばめられた花模様が効果をあげている。
 北国の動物を写実的に描いた絵はよくあるが、それにとどまらない深みを、絵に与えているのだ。

 画面の上方には風のように絵の具がひかれ、下方の色合いは水の波紋のよう。
 左奥の木立から動物がひょっこり顔をのぞかせているのもおもしろい。
 ともあれ、いつまで見ていても飽きない一枚だった。
 

 左は今年の協会賞(最高賞)に輝いた林正重(岩見沢)「息遣い」。
 炭鉱遺産のスケール感を表現するのに縦構図を採用したことが、この絵を成功に導いたのだと思う。
 朽ちそうな建物がモティーフになっているわりにはトーンは明るく、奥にわずかに見えている若葉の緑とあいまって、未来への希望のようなものも感じさせる佳作。

(追記。その後、林さんにお目にかかり、この炭鉱施設が留萌管内羽幌町でスケッチしたものということをうかがった。天井から、地上の貨車めがけて石炭を落として入れる施設である。いずれにしても、一般の作品の中では傑出しており、協会賞は順当だと思う)


 なお右は居島恵美子(会員、苫小牧)「うたかた」。
 これまで何度も書いているが、1990年代までの居島さんは、ピアノを弾く女性を、ピンク系の背景とともに、二科っぽい構図でまとめた絵が多かった。
 その路線が悪いとはいわないが、小さくまとまることを拒否して、抽象の大海にこぎ出したことを、ほんとうに偉いと思うのだ。
 今年の作品は、浮遊感の表現が巧みだと思う。緊張感と、心和む緩やかさの双方が感じられる絵だ。


2018年8月29日(水)~9月5日(水)=当初予定は9日(日)まで
札幌市民ギャラリー(中央区南2東6)


□新道展 shindoten.jp/

過去記事へのリンク
第58回新道展 (2013)

第54回新道展続き
第53回 ■続き

07年
06年
50周年記念展 ■50周年記念展・つづき(05年)
03年
02年
01年


永桶麻理佳と故郷II展 (2016)


平成28年度 道銀芸術文化助成事業 三浦恵美子油彩展 ~人物の変容展~ (2016)


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第15回二科北海道支部展(絵画) =2015
第10回 二科(絵画)北海道支部展 (2010)
第9回二科北海道支部展(絵画) (2009)
第8回二科北海道支部展 (絵画)(2008)※画像なし
亀井由利個展■柴崎康男個展 (2007)
※以下、画像なし
第7回二科北海道支部展(絵画)
第6回二科北海道支部展(絵画)  (2006)
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柴崎康男・亀井由利 二人展 (2004)
第2回北海道二科(絵画)支部展 (2002)※16日の項


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和田仁智義(にちぎ)展 (2014)
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バックボックス展 (2018年4月)
バックボックス展 (2017)=河口真哉さん


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第45回美術文化北海道支部展 (2017)
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第35回美術文化北海道支部展 (2007年)
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