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■第58回新道展 (2013年8月28日~9月8日、札幌)

2013年09月08日 01時01分01秒 | 展覧会の紹介-団体公募展
(文中敬称略)

 道展、全道展についで1955年に発足した新道展(新北海道美術協会主催)の展覧会。
(ここらへんの団体公募展の話がよくわからんという人はこちらの記事「「全道展」と「道展」ってどう違うの?」をどうぞ)

 筆者は、団体公募展じたいを見るのが久しぶりだったせいか、2階の下り用階段のところまできてはじめて、藤野千鶴子や鈴木秀明、今荘義男の絵を見ていないことに気がついた(会場の札幌市民ギャラリーは2階建てである)。

 1階に戻り、部屋ひとつをまるごと飛ばしていたことに気づいた。
 ことしは、正面の、最も大きな1室に、新進作家を比較的たくさん集めているので、筆者が見落としていた部屋に、脂の乗った会員たちの力作が集まっていた。先に挙げた名前でいうと、今荘の絵は手前にあったが、藤野や鈴木、それに、櫻井マチ子、工藤悦子なども並んでいて、この部屋を見ないで帰ってしまっては、新道展を見に来たことにならないだろうし、ここらへんをじっくり見ておけば入場料の元は取れる。
 とはいえ、この部屋に並ぶ作家のうち、10年前に比べて確実に進歩し変化しているのって、鈴木薫ぐらいだろうなあとも思う。もちろん、ベテランの諸氏が、そうそう劇的な変化を見せるはずもないし、それを望んでいるわけでもない。ただ、この、絵画のベテラン会員の安定ぶりと、なかなか新しい出品者層が育たず、多くは定着しないという構造が、しばらく変わっていないのも、いまという時代の反映なのかなと、ぼんやりと感じるのだった。

 なんでこんなことを感じたかというと、新道展の展示点数はことし299点(ほか遺作が2点)で、昨年の311点に次ぐ史上2位だったからだ。
 この倍ぐらいの点数を、2段がけで展示する道展や全道展に比べれば、2段がけもなく、まだ見やすいといえばいえるのだが、見終わった後に疲労を覚えたのも事実。そして、そのうちの半数ほどを占める入選作品の過半数が、穏当な風景画や静物画などの油彩であったことへの違和感が、心の底にたまっていた。
 急いで付け加えれば、風景画や静物画がダメだと言っているのでは、むろんない。それどころか、新道展の魅力のひとつは、香取正人、中矢勝善、中村哲泰、山口大、西澤宏生といったベテランの手堅くも独創的な風景画にあるといっていい。
 しかし、言うまでもなく新道展は、今回の図録で香取事務局長が書いていたような「アンデパンダン的」なものであって、既成の団体公募展の枠組みではすくいきれないような新しい傾向を歓迎していたはずなのだ。

 ひるがえって、新道展の会場を見てみると、インスタレーション部門を支えてきた林教司や堀部江一、阿地信美智らはすでに退会し、水彩部門の新傾向を牽引してきた古田瑩子もおらず(水彩では勘野悦子や大田真紀らががんばっているが、気がつけば水彩の会場は、写実的な絵が過半を占めるようになっている)、油彩などの絵画でも、モノクロのコラージュ的な絵画で見るものを驚かせた西尾栄司が早世し、松久充生は退会、また会員にはとどまっているようだが、今回は、おそるべき細密描写で現代を諷刺する高橋孝や、精神の深みを描く西田靖郎、さらに、すとうえみや甲斐野弘幸らの出品もない。

 もちろん、団体公募展なんてものは、年にひとりかふたりの新しい才能を発掘しさえすれば、存在価値があるという考え方も可能だ。
 そして、今年の協会賞(最高賞)を得た赤石操や、佳作賞の宇流奈未には、その新しさがあるだろう(どうでもいい話だが、赤石さんはどうして全道展じゃなかったのかな)。こういう作品にすかさず注目する新道展の審査側も、まだ捨てたもんじゃない。
 しかし、そういうわずかな例外はあるにせよ、パリの元祖アンデパンダンが、新しい傾向を認めない権威やお偉方に対して、どんな作風でもオッケーなんだぜと立ち上がったといういきさつを思えば、上の側が新しい作風を求めても、肝心の出品者側が保守的な絵画ばかりを出してくる新道展の現状は、まるっきり反対になっているといわざるを得まい。

 仲間内でやるグループ展に多少大きいものを出品しても、いまの札幌では、ほとんど話題にならず、メディアにも取り上げられないまま終わってしまう可能性は高い。
(それをおまえが人ごとのように言うなといわれれば、それまでですけど)
 だったら、若い人で「こんなの作っちゃったけど、多くの人に見てほしい!」って思ったら、むしろ新道展に出しちゃったほうがいいんじゃないかな。 


2013年8月28日(水)~9月8日(日)午前10時~午後5時30分(最終日~4時)、月曜休み
札幌市民ギャラリー(中央区南2東6)


 
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