A Challenge To Fate

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【私のB級サイケ蒐集癖】第34夜:知られざるB級エレキ・インスト・バンドの謎と悲哀~ザ・ハイウェイズ/ザ・ゴールドフィンガーズ

2021年09月15日 02時42分50秒 | 素晴らしき変態音楽


1960年代前半、ビートルズやグループサウンズが流行る前の日本では空前のエレキブームがあった。ブームの代表的存在は1960年に登場したベンチャーズである。「ウォーク・ドント・ラン」「パイプパイン」「ダイヤモンド・ヘッド」などのヒット曲は、サーフィンブームとも連動していたので、後にサーフギターとも呼ばれた。62年に寺内タケシとブルージーンズがデビューした頃から、プロ、アマ問わず数多くの和製エレキ・インスト・バンドが登場し、テレビで「勝ち抜きエレキ合戦」というオーディション番組が人気になるほどのブームを巻き起こした。同時に「エレキは不良の音楽」という偏見が世間に広がり、それはビートルズの人気爆発と共にエレキブームがグループサウンズ・ブームに移行してからも根強く残っていた。実際に筆者がロックに興味を持ち始めた1974年(小学6年)に、親にエレキギターが欲しいとねだったが、「不良の楽器はダメだ」と言われてクラシックギターを与えられたほどである。

そもそも筆者がエレキギターを弾きたいと思ったきっかけはラジオで聴いたベンチャーズの「10番街の殺人」だった。当時ジョン・デンバーやビーチ・ボーイズといったアメリカンポップスを好んでいたが、ベンチャーズのストレートなビートと歪んだギターに全く異なる「ヤバさ」を感じたのである。当時住んでいた金沢には滅多に外国のミュージシャンが来ることはなく、唯一ベンチャーズが毎年金沢公演を行い、街中にポスターが貼られていたことも思い出す。当然ながら不良の音楽のコンサートに親が連れて行ってくれることはなかった。その後中学生になってキッスやエアロスミス、ジョニー・ウィンターなどのアメリカン・ハードロックを知り、さらに1977年(中3)に東京へ引っ越してからパンクロックに衝撃を受けることになった。その頃にはギターインストバンドは逆にダサく感じるようになっていた。その後ガレージパンクやサイケデリックロックにハマったことで、Davie Allan & The Arrowsをはじめとするファズ度高めのサーフギターバンドには興味を持ったが、本家のベンチャーズやそのフォロワーには惹かれることはなかった。

ザ・ベンチャーズ 10番街の殺人 1965年4人初の日本公演


ところがつい最近になってムード音楽やラウンジ系の安レコードを掘るようになってから、ベンチャーズを含むエレキギターインストのレコードを聴くことが増えて、今更ながらにその面白さに目覚めた次第である。特に興味深いのが、エレキブームに便乗してレコード会社がリリースした安易なエレキギター企画レコードの数々である。レコードジャケットにメンバー名はおろかバンドの紹介もない。ムード音楽の企画盤と同じように、スタジオミュージシャンの寄せ集めに架空のバンド名を付けたものもあるし、無名ながらも当時はバンドとして活動していたものもある。ジャンクレコードの山にはエレキギターインストの掘り出し物がたくさん埋まっているかもしれない、と思うと無性にハードオフに行きたくなってくる。


●ザ・ハイウェイズ/エレキギター フェスティバル(Big One BL-024 / )


一昔前のメイク濃いめ外人女性ジャケットにカタカナ大文字タイトル。内容はベンチャーズのレパートリー中心にアニマルズ「朝日のあたる家」もあり(しかしベンチャーズのカバーを参考にしたらしい)。帯付ミントで110円という値付けもどうかとは思うが、<安レコ買いは銭失わない>をモットーに生きる蒐集家として買わない手はない。針を下ろすと、録音自体は悪くないが、マスタリングする前のデモテープのような音作り。曲によってレベルやミックスがバラバラだったり、ドラムの音が妙に生音っぽかったり、フェードアウトが不自然だったり。製造元がELM CORPとなっていて、中野区の住所まで書いてあるので、てっきりアマチュアのベンチャーズ・コピー・バンドの自主制作盤だと思い込んで、ほほえましい気持ちで聴きとおした。しかしザ・ハイウェイズでググってみて、正真正銘60年代のオリジナル和製エレキ・インスト・バンドだと知った。

The Highways ザ・ハイウェイズ


メンバーはLead Guitar - 河野武尚、Rhythm Guitar - 中川恒男、Bass - 吉田マサシ、Drums - 能谷亘弘、Piano - 宮地一夫。1962年に結成され、ソノシートを中心にリリースしていたという情報もある。ヤフオクなどで調べてみると、ほぼ同じ内容でタイトルの異なるレコード『熱狂のエレキギター』『エレキギター名曲集』がリリースされている。おそらく60年代にソノシート用に低予算でレコーディングした曲をまとめて、何度か廉価盤でリリースしたのだろう。デモテープ同然の音作りの中にメンバーの気合が籠められている。そう考えると、レコードの解説が全てベンチャーズについての内容で、ザ・ハイウェイズのことが一切書かれていない事実にたとえようのない悲哀を感じて愛おしさがさらにこみあげてくる。


●ゴールデンフィンガーズ/キャラバン/炸裂するエレキ・ギター ビッグ・ヒット(Fontana BT-24 / 1972)


メジャーのフォノグラムからの1972年のリリース。いかにも廉価企画盤!というジャケットのインパクトが凄い。ヘッドを見ると10弦のようだが、糸巻は6個しかないし、ボディの形がどうにも不自然。昔の少女漫画にありがちな、エレキギターを見たことがなくて想像力で描いたようなロック漫画を思わせる。イラストを担当した清藤猛氏は、同じフォノグラムの映画音楽シリーズのジャケも手掛け、味がある俳優の似顔絵を描いているので、映画関係には詳しいに違いないが、いかんせんロックは全く知識ゼロだったようだ。そのため、当時大人気だったレッド・ツェッペリンのジミー・ペイジをモデルにしたのだろう。しかしながら、よりによってダブルネックSGを弾く写真を参考にしてしまったため、弦の数やボディの形が不自然になってしまった。さらに人物をジミー・ペイジに似ても似つかない、アメリカ映画のカントリーガール風にしてしまったため、衣装や構図がますます不格好になってしまった。見れば見るほどじわじわ来る迷ジャケットである。しかし音の方はザ・ハイウェイズとは正反対の日本人離れしたパワーとテクニックに驚くハイレベルなサウンド。1曲目の「キャラバン」からして、ジャズロック風のリズムセクションにファズギターのアドリブが暴れるサイケカバー。ブラスが入っている曲もあるが、あくまでメインはギター・コンボで貫きつつ、随所でハモンドオルガンがソウルフルな味つけをする。日本のニューロックの猛者によるスーパーグループ、例えばフードブレインにも匹敵するアルバム!と興奮しながらDiscogsをチェックしたところ、なんと60年代オランダのユトレヒト出身のビートバンドThe Jetsの変名だと判明した。

The Jest a.k.a. The Goldfingers ザ・ゴールドフィンガーズ


メンバーはNico Witkamp (Lead Guitar), Peter van Meel (Side Guitar),Karry Mulder (Bass Guitar), Eddy Geurtsen (Organ), Tonny Mulder (Drums)。オランダのフォンタナ・レコード所属だから日本では当時フォンタナを配給していた日本ビクターが権利を持っていた。1965年に007映画『ゴールドフィンガー』のヒットに便乗して「ゴールドフィンガーのテーマ」をシングル発売する際に、ビクターの重役の「ザ・ジェッツじゃわかりにくいから、いっそのことゴールドフィンガーズにしちゃえ」という鶴の一声でThe Goldfingersとして売り出されることになったのだと想像する。シングルがヒットしたかどうかは分からないが、今さら本名のThe Jetsに戻すわけにもいかず、日本では70年代までザ・ゴールドフィンガーズと呼ばれ続けたことをメンバーは知っていたのかどうか?調べた限りではThe Jetsは1968年頃に解散している(80年代後半に再結成)ようなので、今となっては確かめるすべはない。微妙過ぎるイラストの解説すらないジャケットに包まれた不遇のバンドの運命に、日本とオランダの間の距離に匹敵するほどの悲哀を感じざるを得ない。

The Jets Goldfinger


エレキギター
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カッコイイ

クロマニヨンズ『エレキギター』Live動画


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