ANGE MOYEN-AGE TOUR 2012/2013 東京公演
フレンチ・ロックの雄アンジュ奇蹟の初来日公演。
文学・美術・映画などフランス文化は日本で幅広い人気があるがロックに関しては意外に知られていない。一般的にブランスのポピュラー音楽といえばシャンソンとフレンチ・ポップス。ユーロ・プログレ文脈でもシンフォニック系のイタリア、実験色豊かなドイツに比べてフレンチ・ロックのイメージは希薄である。確かにゴングやマグマは世界的に評価される偉大な存在だが彼らがフレンチ・ロックの代表格かといえばそうとも言い切れない。フランスは日本同様自国語の歌の人気が圧倒的に高く言語の壁のせいで非フランス語圏には広がりにくい。またシャンソンに代表されるようにフランス語の極度に文学的・抒情的な響き故意味が判らないと理解し難いのも事実。インスト中心のジャズ・ロックやオリジナル言語で歌うマグマはまだしもフランス語のロックは国境を越えることは難しい。そんなフレンチ・ロックで国際的に最も高い認知度を誇るのがアンジュである。「ロック・テアトル」と称される演劇的要素の強いシンフォニックなサウンドは「フランスのジェネシス」などと紹介されるが英国ロックより格段にドラマチックなストーリー展開はシャンソンの国ならではの強烈な個性がある。特にリーダーのクリスチャン・デカンの激情ヴォーカルが描く壮大な世界こそアンジュの真髄である。残念なのはロック・テアトルの他のバンドが続かないことである。アトール、ピュルサー、モナ・リサ等一握りのバンドが紹介されたがあくまでコア・プログレに留まりアンジュの孤軍奮闘状態。層の厚いイタリアン・ロックに比べてフレンチ・ロックの印象が曖昧なのは確かである。
アンジュは度重なるメンバー・チェンジや解散/再結成を経て活動を継続し昨年新作「MOYEN-AGE(中世)」をリリースしレコ発ツアーの一環でデビューから43年経って初の日本公演が実現した。貫禄あるクリスチャン以外は息子を含むひと回り若いメンバー。芝居がかったオーヴァーアクションのパフォーマンスを繰り広げるクリスチャンの変態ぶりに目を奪われる。ライヴ前半は90年代以降のポップ・ナンバー中心で数多くのプログレ・バンドがポップに転向しチャートを賑わせた時代を思い出す。この流れは仕方ないなと油断していたら後半は全盛期を彷彿させるシンフォニック・ナンバーを連発、完成度と演奏力の高さに圧倒される。一見不似合いなドレッドヘアーの黒人ギタリストのプレイは凄まじい程のテクニックとエモーションに溢れているし息子トリスタン・デカンのヴォーカルは父親に負けず劣らずダイナミック。緩急に満ちた劇的なストーリーを描き出すリズム隊、効果的なビデオ映像と音響の素晴らしさ。超一流のライヴ空間に心が震えた100分間だった。
終演後ミート&グリート。狂気に満ちたパフォーマンスと打って変わって人懐っこい笑顔で観客一人一人に「メルシー」と感謝するクリスチャンは初めての日本でのライヴに大満足の様子。ギターのハッサン・アディに話を聞く。1995年にアンジュは一旦解散。翌年クリスチャンと息子トリスタンで新メンバーで再結成。それまでロック/ポップ/ブルース/ジャズなどのセッション・ギタリストとして活動していたハッサンにも誘いがあり参加。以来アンジュのメンバーとして17年活動し7枚以上のアルバムをリリース。アラン・ホールズワース、パット・メセニー、渡辺香津美が好きだと言う。ドラム以外すべての楽器と歌を自分で手がけたソロCDを購入。期待せずに聴いたら驚異的なギター・プレイ満載のハード・プログレの傑作で驚喜した。トリスタン・デカンも自らのプロジェクトで活動しているしアンジュ周辺の動きには要注目である。
★アンジュ東京最終公演は4月29日(月・祝)ヤマハ銀座スタジオにて。たいへん貴重な機会だから特にイタリアン・ロック・フェスやマサカー来日公演に行かれた方には是非ともご覧いただきたい。詳しくはコチラ。
[5/25追記]
ANGE
MOYEN-AGE TOUR 2012/2013 Live In Tokyo
@Yamaha Ginza Studio
SETLIST
27th April 2013
UN GOUT DE PAIN PERDU
CAMELOTE
LE CRI DU SAMOURAI
LA SUISSE
A COLIN-MAILLARD
VIRGULE
HARMONIE
LES COLLINES ROSES
DETECTIVE PRIVE
PSYCHOSOMAGIQUE GENIE
A L'OMBRE DES PICTOGRAMMES
GODEVIN LE VILAIN
AU-DELA DU DELIRE
QUASIMODO
ODE A EMILE
フランスの
ロックの神髄
聴かせます
今回の来日は個人プロモーターによる初の試みでチケット購入方法や運営方法が複雑で告知も行き届かず動員的には非常に厳しかった。ライヴが始まるまで本当に実現するのか不安があったのも確か。コンサートに対する革新的な考え方には賛同するしバンド側から主催者への信頼の厚さも実感した。今回を糧に今後も理想実現へと鋭意努力していただきたいものである。