ユイ姉の要望で、でっかい実が生る栗の木を想像した。
「いいねぇそれ、1個でお腹一杯になりそうだね。」
「この島にもこういう木があると楽しいんだがな。」
「栗の木ってさ、オキナワにも無いからね。私、栗拾いなんてやったことないよ。あのトゲトゲ、落ちてきて頭に当たったら痛いだろうね。」
「そりゃあ痛いだろうな、想像したでっかい栗の実だとすげぇ痛いぞ。あっ、そうだ、でっかい栗の実のトゲと言えば・・・。」
ということで、ケダマン見聞録『大きな栗の木の外で』の始まり。
ある星に、地球の栗と同じようにトゲトゲの実の生る木があった。地球の栗の実と違うのは、それはとても大きく、トゲも非常に固かった。
その栗の実は、1個で十分な食料となる代わりに、収穫するためには危険を冒さなければならない。命をかけて食い物を得るんだ。男の仕事だな。それは危険な仕事なんだが、栗の木はあちこちに生えているから女子供だって安心はできない。ぼんやりしていると命を落とす。特に遊び盛りの子供からは目が離せない。実が生って、熟して、落下する頃になると人々は栗の木に近寄らなかった。「大雨洪水警報、暴風警報」なんてのが地球にはあるが、その星では「栗の実落下警報」なんてのが季節になると発令された。
不良少年達には恐い遊びがあった。「大きな栗の木の下でゲーム」という名前で、実が熟した頃の栗の木の下にどれだけ長い時間立っていられるかという遊びだ。また、落ちてくる実をかわしながら栗の木の下を走り抜ける「大きな栗の木の下をゲーム」という遊びもあった。どちらも運試しとか根性試しみたいなもんだな。いや、命がかかっているからチキンレースであり、ロシアンルーレットみたいなもんだな。
そういった遊びで死傷する少年達の他、うっかり目を離した小さな子供、実を収穫するために近寄った者たちが死傷する事故があったが、それはまれであった。ハブに噛まれる確率程度だった。実が熟した頃の栗の木の下は危ないと分かっているからだ。
ところが、ある日、その「まれ」なことが連続して起きた。栗の木の近くで人が死んでいた。栗の木の実が頭に突き刺さり即死であった。栗の実が落ちる時期ではあったが、栗の木の実が落ちる場所からは少し離れている。実が斜めに落ちた可能性もあったが、事故では無く事件であると、警察の捜査で判明した。そして、同じようなことが7回連続して起きた。この事件は「大きな栗の木の外連続殺人事件」とセンセーショナルに報じられ、大きな話題となった。7人目の犠牲者が出た後すぐに、犯人が捕まった。
犯人は科学者であった。彼は悪魔の実験をしたのであった。栗の木に意思を持たせ、その枝を振り、人にめがけて実を投げつけさせたのだ。意思を持った栗の木は伐採処分となり、科学者は死刑となった。科学者は死ぬ前に語った。「私はもうすぐ命を失うが、我が人生に悔いは無い。私の実験は大成功であった。」と。
以上でケダマン見聞録その26、『大きな栗の木の外で』はおしまい。場面はユクレー屋に戻る。
「狂気の科学者っているんだね。恐ろしいね。」とユイ姉。
「おー、全く狂気の沙汰なんだがな、お前、その恐ろしさを十分認識して無ぇぜ。」
「ん?どういうことよ。」
「植物が意思を持って人間に襲い掛かるっていう恐ろしさだよ。例えば、ここの庭のブーゲンビリアが襲い掛かってくるんだ。鋭いトゲのたっぷり付いた枝をしならせて、鞭打ってくるんだ。これはよ、たぶん、死ぬほど痛いぞ。」
「それは恐いね。痛そうだね。でもさ、もしも意思を持ったブーゲンビリアがいたとしてもさ、人間を敵にはしないと思うよ。切り倒されるのは嫌だからね。」
なるほど、確かにそうだ。ユイ姉なら、人間を攻撃するブーゲンビリアなどさっさと切り倒してしまうに違いない。女は、っていうか、オバサンは、強い。
語り:ケダマン 2009.2.27