ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

大人しい旅立ち

2019年08月16日 | ガジ丸のお話

 梅雨が明けた6月下旬のある日、私はいつものように朝6時頃に目が覚めた。カーテンの隙間から見える窓の外は明るい。「今日も晴れだな」と思い、ラジオを点ける、いつものようにニュースをやっている。しばらくベッドの上でグダグダして6時過ぎ、
 ベッドから起き上がって台所に向かう。台所のラジオは音を出していない。「ん?何でだ?」と不思議に思う。この時間だと、いつもならヤスがとっくに起きていて、ラジオを点けていて、食卓の前に腰掛けてお茶かなんか飲んでいるはずだ。「そうか」と気付く。そのヤスがいない。ヤスがいないからラジオも点いていないんだ。

 私はヤスの寝室に向かい、そのドアを開けながら「ヤスー」と声をかけた。ヤスはまだベッドの中だった。「ヤスが寝坊なんて珍しいな」と私は呟きながら肩を揺する。何の反応も無い。「ヤスー!」と私は大声を出す。隣のベッドで寝ている寝坊助のモリがゴソゴソ動いて、「何だよー、煩ぇなぁ」と言いながら体を起こした。
 「ヤスが返事しないんだ」
 「体を触ってみろ」
 「あっ、・・・冷たい」
 「アッコは泊りだったよな、呼んで来いよ」
 アッコとは友人の介護士、週に2日はここへ泊っていく、今回は2日休みの後、昨夜遅くやってきた。彼女のための部屋もある。私はその部屋のドアをノックし、
 「アッコ、非常事態みたいだ、起きて、来てくれ」と声を掛ける。
 「はーーーい」と少し眠そうな声でアッコは答えたが、さすがプロ、3分も経たない内に部屋から出て来て、ヤスとモリの寝室へやってきた。事態をすぐに察知して、脈をみたり、瞳孔をみたりして、そして、我々の方を向いて首を横に振った。
     

 「昨夜はどんな状態だったの?何か変わったところは無かった?」とアッコが訊く。
 「あー、そういえば、少し違っていたか」とモリと私は顔を見合わせ合唱した。
 昨夜、ヤスとモリと私の3人で久しぶりに酒を少し飲んだ。私は飲兵衛だが、モリはたしなむ程度、ヤスもたしなむ程度だったが年老いてからはほとんど飲まなかった。盆正月クリスマスに少々、3人の誰かの誕生日に舐める程度だ。それが昨日は珍しく飲んだ。飲んだといっても私の三分の一もいかない。ビール1缶と泡盛1杯だけ。
 たったそれだけでヤスは酔ったのか、すごく上機嫌だった。
 「いやー、楽しいな、愉快だな。これも友がいるお陰だ、ありがとう。」と言う。
 「ありがとうはお互い様だよ。」とモリ。「そうだよ」と私。そんなこんなの楽しい愉快な時間を過ごして、ヤスは上機嫌のまま床に就いた。
     

 「そうなんだ、ヤスさん、自分の死期を悟っていたのかも、別れの酒だったんだ。」
 「そうか、そういうことか。ニコニコ笑いながらあの世へ旅立ったんだな。」(モリ)
 「笑って眠るように静かに逝ったんだ。大人しい旅立ちだ。」(私)
 「俺たちもそういう風に逝きたいな。」(モリ)
 「そうなると思うよ。あなたたち、いつも幸せそうだもん。私も仲間に入ろうかな。」

    ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆ 

 6月末日、友人KとTを我が家に招いて昼間(午前11時半)からグダグダ飲み食いしながらのユンタク(おしゃべり)会を催した。
 「最近、引き籠りじゃないかと感じている。」とT、Tは私と同じ独り暮らし。最近忘れ物が増えて来て認知症になる可能性も高いなぁという話も出て、独居老人になると死んだかどうかも分からなくなるぞ、そろそろ危ないとサインを出すこともできないぞ、ならば、いつか3人で一緒に暮らすかとなった。2人とも高校からの付き合いの同級生。青春時代の想い出話はたくさんある。ルミ子の話で1日、カツ子の話で1日、エイ子の話で1日、運動会の話で1日、遠足の話で1日、などなど話題にことかくことはない。
 もし、それが現実の話となったら、オジーたちは身の回りのことができないかも、3人が爺さんになったら、介護ができる女性をバイトで雇った方がいいんじゃないかと私は思った。ということで、上記の話を思い付いた。話の通りになったら幸せかも。
     

 記:2018.8.11 島乃ガジ丸 →ガジ丸の生活目次