私は三線(サンシン、沖縄の三味線)を持っている。数年前まではよく弾いて、琉球民謡、その他(スマップの夜空の向こうなど)を唄っていたが、今はたまーに(年に2、3回くらい)しか弾いていない。このガジ丸HPを始めてからは触っていない。
10年前だったか、5年前だったか、まあ、だいたいその辺のこと。宮崎の友人から「三線を買って、送ってくれ」との電話があった。琉球民謡を練習するらしい。三線は、叔父に頼んだ。叔父の友人に三線作り職人がいた。
宮崎の友人に三線を送った後、私も欲しくなって、叔父に頼んで手に入れた。友人に送ったものよりもちょっと値段の高い、ちょっとランクが上のもの。工工四(琉球民謡の楽譜)も買い、練習する。琉球民謡は好きな方なので、そのCDは何枚もあり、歌も多く知っている。我流ではあるが、1年後には数曲弾けるようになった。
友人に送った三線と私の三線、どこがどう違うのかは判らないが値段は違う。三線の良いものだと何十万円もするらしいが、友人のものは(オーダーものの中では)最も安いもの、私のものはそれより2ランクぐらい上のもの。どちらも恐らく材料は一緒、三線の太鼓部分に貼る皮はヘビの皮では無く、プラスチックでできた合成皮。棹は、ウレタン塗装で黒光りはしているがきっとユシギ(イスノキ)、あるいは他の木材が使われている。
何十万円もする三線の棹には、クロキ(リュウキュウコクタン)の芯の部分が使われている。クロキは、幹肌が黒いのでクロキ(沖縄口ではクルチ)と呼ばれているのだが、その芯の部分も黒い。幹肌よりずっと黒い、真っ黒と言ってもいいくらい黒い。そして、堅い。その堅さは鉄のようなので、捻ったり曲がったりすることが無い。それは安定した音を出すためには絶対条件である。クロキの芯は棹の材料として最適ということになる。
クロキの芯はどのクロキにもあるが、どのクロキも三線の棹に使えるほどに太い芯をもっているわけでは、もちろん無い。きっと百年、二百年といった年月を生きてきて、十分に幹の太ったクロキでなければならない。また、肥料をたっぷりもらい、すくすくと育ったクロキよりも、環境の悪い場所でじわりじわり育ったクロキの芯の方が、繊維が密で、堅く、色もより黒いらしい。そんなクロキはもう沖縄本島では手に入らない。八重山にはまだあるらしいということを聞いた。それももう15年ほども前の話。
石垣島や西表島の原野にはクロキ(ヤエヤマコクタン)が自生している。植生調査でそれらのクロキを調べたら、ある程度幹の太いクロキの全てが、その幹に鋸跡が残っていたらしい。クロキ泥棒の仕業であろうとのことだった。幹に鋸を入れ、使えるほどの芯があるかどうかを調べた跡、とのこと。もはや、こんなところまで来て泥棒しなければならないほどクロキの芯は希少となっている、というわけなのだ。
クロキの芯には輸入材もあり、三線の棹にはユシギ(イスノキ)も使われる。最近は圧縮材も使われているらしい。三線の正統、沖縄産クロキの芯を使った三線は遠いものになりつつある。「何十万円もする三線の棹にはクロキの芯が使われている」と前述したが、「何百万円もする三線の棹」と書き直さなければならないのかもしれない。
4、50年ほども前からクロキは庭木として人気があって、よく使われた。今でもクロキは多くの家の庭木として、あるいは公園樹、街路樹として使われている。だから、たぶん、今から百年後には沖縄産クロキの芯が多く取れることであろう。
リュウキュウコクタン(琉球黒檀):主木
カキノキ科の常緑高木 原産分布は沖縄、台湾、中国南部等 方言名:クルチ
自然にしていても形の良い木であるが、細かい枝がよく出るので、刈込んで段作りにできる。沖縄の庭における主木候補の筆頭と言っても良い。住宅地を歩くと、民家の庭でどーんと構えたクロキ(方言名クルチの標準語読み)を探すのは容易い。主木としてだけでは無く、生垣としても使える。陽光地を好み、成長は遅い。
庭木として価値のあるクロキは、値段も高い。値段は高いが実がよく付き、種がたくさん採れる。その種から実生苗もまたできやすい。育てるのは楽。ただ、太るのに時間がかかるので、その分、十分太って庭木の役に立つようになったものは値段が高くなる。大きなクロキの周りには、ナンクルミー(自然発生)したクロキの苗がいくつもできる。3~4年で高さは3mほど(ヒョロヒョロしているが)になる。採種期は8月から10月。
前述のようにサンシンの棹の材料としても最高級品。別名ヤエヤマコクタンという。
花
仕立物
記:2005.2.6 島乃ガジ丸 →沖縄の草木目次
参考文献
『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行