ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

若水

2010年12月17日 | 沖縄04行事祭り・生活風習・言葉

 今日(2月9日)は旧正月なので昼間、テレビで東西民謡歌合戦(新正月と旧盆の日にもやる。別の民放でも民謡紅白歌合戦とか違う名で、その類の番組をいくつもやる)が放送された。勤務中だったので私はそれを観ることはできなかったが、その代わり沖縄の正月らしく、民謡のCDを聞きながら、泡盛を飲みながら、豚肉料理を食いながら、今これを書いている。この後、長い間触っていなかった三線(サンシン、沖縄の三味線のこと)を取り、久々に民謡でも歌おう。「僕んち」で知った「芋の時代」も練習しよう。

 新正月(太陽暦の正月)のことを沖縄ではヤマトゥソーガチ(大和正月)と言い、旧正月(太陰暦の正月)のことをウチナーソーガチ(沖縄正月)と言う。現在では糸満市などごく一部を除いては新正月に主な正月儀式を行う地域が多くなっているが、私が子供の頃は那覇でも旧正月の行事をやる家が多くあった。私の家もそうであった。
 親戚同士の正月の挨拶をし、お互いの仏前にお供え物(お歳暮にあたる)をした。子供たちは学校が冬休みである新暦の正月に親戚の家へ遊びに行き、そこでお年玉を貰い、旧正月に家にやってくる親戚の人達からもまたお年玉を貰っていた。大儲けではあったが、それらのお年玉の多くは貯金という名目で母親に取り上げられ、自分で使える分は僅かしか無かった。「母さん、あの、私のお年玉貯金はその後どうなったのでしょうね?」

 旧正月の朝、祖母が私に声をかける。
 「ガジー、水汲んできて、仏壇にうさげ(お供え)なさい。」
 元旦の朝には、その家の男の子が若水(新鮮な水、昔は泉とか井戸の水だが、その頃には水道水で良かった)を汲み、火の神(台所の神)や仏壇などへ捧げる。面倒臭がって私が渋っていると、祖母は唄を歌って私を諭し、急がせた。
 キュウショウガチ や 朝ウキトーティドゥ(朝起きて)
 ミジン(水を) ウサギヤビラ(供えましょう)
 この唄、うろ覚えだったので、民謡に詳しい同僚のOさんに訊いたが、そんな唄知らないと言う。もしかしたら、祖母の自作だったかもしれない。
 仏前、火の神には他に花米、木炭や昆布、お金などが供えられた。
 糸満市では、旧正月は公休日になる。学校も役所もお休み。古くから漁業の町として栄えたこの地域では、太陽暦よりも太陰暦の方が生活に密着している。それは時代がデジタルになろうが何だろうが、漁業に深く関わる潮の干満は、月の動きが大きく影響するからだ。太陰暦は月の動きに則った暦である。太陰暦に従って猟師は仕事を計画する。
 他の地域でも、神事だけは旧正月にも行う所が多いようだ。私の実家でも母親はずっと続けている。今日もクヮッチー(ご馳走)を作って、仏前、火の神に捧げたことだろう。親不孝者の私は、それを知りながら挨拶にも行きやしない。「お疲れさん」の電話さえもしない。親不孝、先祖不孝はきっと、ろくな死に方はしねぇだろうな。まったく。
     

 記:ガジ丸 2005.2.9 →沖縄の生活目次

 参考文献
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行