先週金曜日、会社が請け負っていた公共工事の検査があった。その工事の現場監督は若いM、彼にとってはまだ二度目でしかない現場監督という仕事、それに加え、仕事内容はこれまでに経験したことが無いもの。検査官の質問に答えられるかどうか、検査に合格するかどうか、不安でたまらなかったようだ。前日、
「お願いします。明日一緒に行ってください。最後のお願いです。」と何度も私に頭を下げた。泣きそうな顔をしているMを見て、可哀想だとは思ったが断る。
これまでに経験したことが無い仕事は、私を含め会社にとっても同じ。それでも、ベテランオジサンの私は、それがどれほど面倒であるかは想像できた。ゆえに、現場が始まる前から口が酸っぱくなるほど「利用できる人は誰でも利用して、早め早めに進めろ。」とMにアドバイスし、耳にタコができるほど「慣れた人を臨時にでも雇って、現場のMの補佐役にして、書類は早め早めに準備してください。」と社長に進言した。
やったことの無い仕事、知らないがゆえにMは多少甘くみていたのかもしれない。「社長はあてにしないで、二人でがんばりましょう。」などと私に言う。二人で頑張ったってどうにかなるものではないと私は思ったのだが、彼の言うとおり、社長はあてにならないのであった。耳にタコができたであろう私の進言は無視されていた。
初めの頃は「何とかなるさ」という気分が多少あったかもしれないMだが、「何とかしないと何とかならない」と分かり始めた二ヶ月前からは毎日胃の痛い思いをしていたようだ。彼にとっては全く、嵐のような二ヶ月だったに違いない。
そんな哀れな若者を私は突き放していた。残業を概ね断り、休日出勤も概ね断った。私には正当な言い分がある。「社長のせいで遅れているのを、何で俺が尻拭いをしなきゃあならないんだ!頼むなら社長に頼め」という言い分。さらに私は、書類のデータを家に持ち帰ってやっていた。給料に反映されない就業時間は少なくとも20時間を越えている。夜、パソコン画面を見ながら「今頃社長は寝てるんだろうな」と、一人腹を立てていた。そんな私が社長の尻拭いなんて、できるわきゃ無いのだよ、M君。
検査は金曜日の午前中にあった。午後、Mに電話した。
「どうだった?」と訊く。実は、ベテランオジサンの私は、書類に多少不備はあっても現場は上出来なので、あまり心配はしていなかった。で、その通り、
「無事終わりました。合格しました。」と、昨日まではか細い声しか出なかったMが、電話の向うでいくらか笑みを浮かべたような余裕のある声で答えた。
「おめでとう、お疲れさんでした。」と、ねぎらいの言葉をかける。
Mは仕事を成し遂げた。嵐を乗り越えた若者は間違いなく成長している。その苦労はきっと、何らかの形で報われることであろう。でも、実を言うと私は、「若い時の苦労は買ってでもしろ」という意見には賛成していない。実は私は、Mに不満を持っていた。「仕事を楽しめ、知らないことを知るようになることを楽しめ!」と言いたかった。そうすると、それは苦労ではなくなる。スキルアップのための努力となる。
記:2009.12.18 島乃ガジ丸