ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

瓦版054 ウミンチュの匂い

2008年03月28日 | ユクレー瓦版

 「春だねぇー。」(マナ)
 「おー、春だなぁー。」(ケダ)
 「気持ちいいねぇー。」(マナ)
 「うん、気持ちいいなぁー。」(私)
 「何だか幸せな気分になるよねぇー。」(マナ)
 「・・・・・・。」ケダマンと私は黙って、マナの顔を覗く。
 「・・・・・・。」マナは黙って、ニタニタしている。
 「お前が幸せ気分なのは春のせいじゃないだろうが、にやけやがってよ。」と、ケダマンが少し声を大きくしたが、マナはニタニタのままだ。ケダマンの話を全然聞いていないみたいだ。ケダマンの言う通り、マナが浮かれているのは春のせいでは無い。実は来週、ジラースーとマナのためのパーティーを開くことが決まっている。二人の間を、島の人々が認め、祝福するというパーティーだ。で、マナは幸せ気分にいる。

 その時、店のドアが開いて、ガジ丸が入ってきた。ユクレー屋にはほとんど夜にしかやってこないガジ丸が、まだ昼下がりといった時間帯にやってきた。
 「あれ、なんだい、今日はずいぶん早いね。」と私が最初に声をかける。
 「ガジ丸、お前まで浮かれ気分なのか?明るいうちから飲むってか?」
 「おう、飲んでもいいが、別に浮かれてはいないぞ。あー、そうか、お前までってことは、マナがそうなっているってことだな。はっ、はっ、はっ。」
 「そう、ご明察の通り。見ろよこの顔。」と三匹で一斉にマナを見る。その視線にはマナも気付いたようで、ゆっくりと目の焦点を我々に合わせた。

 「何よ、あんた達、何見てるのよ。」と言いながら、やっと正気に戻ったようで、
 「あっ、ガジ丸、いらっしゃい。」と、ガジ丸に気付いた。
 「さっきから来ているぜガジ丸は、まったく幸せボケしやがって。」(ケダ)
 「えっ、ホント?ごめんね、ビールにする?」
 「何だよー、俺達には昼間っからどーのこーのと言うくせによ。ガジ丸にはどーぞお飲みなさいってか。たいした贔屓だぜ。」(ケダ)
 「煩いねー、ガジ丸は皆のために働いているのよ。アンタみたいにブラブラしているわけじゃないのさ。労働に対する当然の褒美なのさ。」と言いながらも、マナは我々の分までビールを出してくれた。幸せな女は優しい。

 で、明るいうちから宴会となって、賑やかな時間を過ごす。昨日のこと明日のこと、幸せなこと、とても幸せなことなどのユンタク(おしゃべり)が一段落した後、
 「マナ、俺からのプレゼントだ。」とガジ丸は言って、ギターを手に取った。
 「えっ、なに?歌?作ったの?」
 「あー、お前がこのあいだ話していたのろけ話を唄にした。」
 「のろけ話って何だ?」(ケダ)
 「先週、港の近くでこいつとバッタリ会ったんだ。ジラースーの船にいて、その帰りだったみたいなんだ。で、少し話をしたんだが、ジラースーと一緒にいると楽しいとかなんとか抜かしてたんでな、それを唄にしてみた。」とガジ丸は答えて、そして、歌った。

 歌い終わってから、私が質問する。
 「何だか楽くなる唄だね、タイトルは何ていうの?」
  「歌い出しにある『ぽっかぽかだね』がそのままタイトルだ。」
 「ふんふん、ジラースーの匂いは日向の匂いがして暖かいってことだね。」と、私が納得顔していると、ケダマンが異議を唱える。
 「ジラースーはウミンチュだから潮の匂いがしたということにならないか?」
 「いや、これは、恋人がウミンチュ(漁師)という人だけのための歌じゃない。すごく頼りになる歳の離れた男に惚れた女の歌ということにしている。」
 「んじゃあ、加齢臭がしたということになるな。ヘッ、ヘッ、ヘッ。」(ケダ)
 「加齢臭なんかじゃないよ。ジラースーは・・・やっぱり日向だよ。」とマナが、ちょっとムッとした顔で言う。それをなだめるように、
 「マナ、今の唄、ブラスの伴奏にするとご機嫌なんだ。ブラスの伴奏で歌ったものをCDにしてきたから、これを聞いて、皆で練習しておいてくれ。これを来週のパーティーで合唱しようぜ。楽しいパーティーになると思うぜ。」
 「わー、ありがとう。そうするよ。」ということで、この後しばらく、唄の練習が続いた。その後、村人たちが何人かやってきて、一緒に歌った。賑やかな宴会となった。
 夜になって、ウミンチュの匂いもやってきて、宴会はさらに盛り上がった。ウミンチュの匂いは、初め嫌がっていたが、夜更けには合唱の仲間に加わった。
     

 記:ゑんちゅ小僧 2008.3.28 →音楽(ぽっかぽかだね)