ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

怒鳴ること

2010年05月07日 | 通信-社会・生活

 賑やかな祭りに出かけるよりも、一人で音楽を聴きながら酒を飲んでいる方が好き、つまり、賑やかなことよりも静けさを私は愛している。なので、カラオケスナックなどで歌をがなりたてる人がいると、「煩い!静かにしろ!」と怒鳴りたくなる。もっとも、煩いのが嫌いならカラオケスナックなどに行かなければ良いのだ。煩いと知っていながら行く方が悪い。よって、実際に怒鳴ることはないし、そんな場所へは滅多に行かない。
 子供の頃、私は家の中でしょっちゅう怒鳴っていた。母も怒鳴っていたし、父も怒鳴っていた。私がこの世で一番嫌いだと思っている勉強を、母と父が押し付けてくるので、お互いに怒鳴り合っていたのだ。大人になってからは、父母と怒鳴り合ったことは無い。そして、ここ20年ほどは、家の中で怒鳴ったことは無い。怒鳴る相手がいないのだ。

 怒鳴る相手はいないが、テレビのニュースを観て、腹の立つことはある。火曜日、総理の「県外移設断念」ニュースには腹を立てた。でも、そんな時も怒鳴りはしない。が、その同じ日、姉からの電話にはつい怒鳴ってしまった。大声では無く、低い声で。
 「葬式の時に邪魔だから介護ベッドを明日にでも返して。」
 「重いし、トラックを手配しなければならないし、力の強い助っ人が必要だし、明日なんて無理だぜ。傍に寄せておけばいいじゃないか。」
 「あんなのがあったら、来た客が不便じゃない、何とかしてよ。」
 「寄せておけば大丈夫だろ?とにかく、運ぶのはすぐには無理。」
 「何とかならないの!あんたが持ってきたんでしょ!」
といった押し問答が数回続いて、温厚な私もついに切れて、
 「できないと言ってるだろ!」と低い声で怒鳴ったのであった。

 それから2時間ほども経って、今度は従姉から電話があった。すごく腹が立って、気持ちが収まらないから電話したとのこと。姉から従姉に「邪魔になっているからベッドを引き取るように」との電話があったらしい。介護ベッドを家に入れたのは従姉の助言があったからだが、姉はそれを知って、従姉にそのような電話をしたのだろう。
 父の具合が悪くなってから従姉は父のために大いに動いた。最初に父を病院に連れて行ったのは彼女。その後も世話を見、おむつを取り換えたりもしてくれ、「妹の家に上等の介護ベッドがあるから、それを持ってきたら。」と助言した。介護ベッドは、少なくとも父が元気になるまでは必要だし、寝たきり状態になったらずっと必要になるものだ。
  私は同僚に頼んでトラックを出して貰い、彼と二人で介護ベッドを運んだ。介護ベッドは肉体的に衰えているオジサン二人には重かった。それでも、何とか運んだ。運んでくれたお礼に、同僚を飲みに誘ったが、「いや、今日はもう疲れた。」と彼は断った。
 酒の好きな同僚が、酒を断るほどの難儀をして運んだベッドだ、「邪魔だからすぐに元の家に帰して」と言われたら、私は腹が立つ。父のことを思って助言したことが、「余計な事をして」みたいに言われたら、従姉だって大いに腹が立つ。
 葬式に来る客は父のために線香を立てに来るのだ。父のための介護ベッドがあって、それが多少歩く邪魔になったとしても、誰も文句は言うまい。姉は、誰のための葬式かを勘違いしているに違いない。それよりも何よりも、父はまだ死んでいない。
          

 記:2010.5.7 島乃ガジ丸


男の矜持

2010年05月07日 | 通信-社会・生活

 もう二十年ほども前になるか、当時漢検を受けようと勉強していた模合(正当な理由のある飲み会)仲間のK子に、「これ何と読む?意味は?」と問題を出され、誰も答えられない中、日本文学科出身の私が得意そうな顔で、「襟を正すとかいった意味だろ、キンジだろ?」と答えた。見た覚えのある字ではあったが、確信は無い、知ったかぶりだ。
 「キョウジだよ、誇りって意味だよ。」
 「ホントかぁー、キンジじゃないのか?」
 「あっさ、あんたも往生際が悪いねぇ、キョウジなの!」
 知ったかぶり屋の私は、しばしば、そんな知ったかぶりをして恥をかいている。後日、辞書で調べると、矜持はキンジとも慣用読みするらしいが、正しくはキョウジで、襟を正すという意味では無く、K子の言う通り「誇り」という意味。知ったかぶりの私は、矜持の矜を、衿(えり)と勘違いして、そのような知ったかぶりをしたのであった。

 知ったかぶりをして恥をかいて、反省したことはそれまで何度もあるが、「あんたも往生際が悪いねぇ」とK子に言われて、男の生き方として「潔さ」を信条としていた私は、深く反省して、それ以来、「知らないことは知らないと言おう」と決めた。のだが、身に付いた性格はなかなか矯正できない。以降もしばしば恥をかいている。
 ガジ丸HPを始めて5年半になる。ガジ丸HPは沖縄の植物を紹介している。5年半もやって、500種以上の植物を紹介しているが、元々記憶力が弱いので、おそらくその半分も記憶していない。でも、表向きは「沖縄の植物のことなら任せておけ」といった態度を取っている。それで、たまに、知ったかぶりの恥をかくことになる。

 「石に齧りついてでも何かを成し遂げる」という根性が私には無い。どちらかというと私は、「諦めが早い」性格だ。欲しい物が得られなくても、「そんなに欲しい物では無かったんだ」と逃避して、諦める。なるべく無理をしない。
 「諦めが早い」と「頑張る」は遠く離れているが、「諦めが早い」と「潔い」は似ている。ということで、私は私の矜持として、「潔い」を目指している。間違いを認めるという潔さもその中に含まれる。私の矜持が確立するのはまだ先になりそうだが。

  父の体力は入院してからも衰弱を続け、5日目(23日)からは固形物を摂れなくなった。咀嚼するのが面倒になったみたいだ。お粥でさえ食べない。で、その日以来、病院の勧める栄養ドリンクを飲んでいる。栄養ドリンクは、これ1缶で1食分のタンパク質、炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラルなどの栄養が含まれているとのこと。
 父は、栄養ドリンクのお陰か、体は衰弱しているが、頭はしっかりしている。口の周りの筋肉も衰えているので、発音に少々の難があるが、普通の音量で発生し、昔の事を話してくれたり、葬式や財産のことなどをきちっと語ってくれる。
 24日には、従姉の夫を立会人に指定して、遺言を言い残した。「葬式は質素に、新聞に広告は出さないで、家族とごく近い親戚だけで行うようにしなさい。財産は家土地を含め姉弟三人で三等分しなさい。」などといったこと。自分が死んだ後ゴタゴタしないようにとの残された者への配慮だ。「立つ鳥跡を濁さず」が父の矜持のようである。
          

 記:2010.5.7 島乃ガジ丸