ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

瓦版086 つがいの季節

2009年03月20日 | ユクレー瓦版

 週末、いつものように村を一回りして、人々と挨拶を交わして、いつものように野山を散歩して、春の日差しと春の風を満喫する。そして夕方、いつものユクレー屋。
 暖かくなるにつれて日も長くなっている。夕焼けまではまだ間があって、外は明るい。ヒンプンの門を入ると、寒がりのユイ姉が庭にいた。
 「やあ、ユイ姉。」と声をかける。
 「やあ、いらっしゃい。あったかいねー。」
 「そうだね。春本番だね。」
 「っていうか、今年はほとんど冬が無かったね。」
 「あー、そういえば、ずっと暖かいね。春本番は一ヶ月以上も前からだ。ところで、何してるの?これからどこかへ出かけるの?」
 「いいや、畑にちょっと、すぐ戻ってくるよ。中へ入ってて。」

 ということで、中へ入る。カウンターにはいつものようにケダマンが座っている。何かボーっとしている。いつもボーっとしているが、いつもよりボーっとしている。その原因なのか結果なのか判らないが、不思議なことに酒を飲んでいない。
 「やー、珍しいね、まだ飲んでないね、夕方だよもう。」
 「おー、だよな。飲んでもいい時間だ。・・・が、しばしお預け。」
 「お預けって、ユイ姉に『待て!』とでも言われたのか?」
 「そんな、犬じゃあるまいし、と言いたいところだが、その通りだ。」
 「何で、待たされてるんだ?」と言う私の問いには答えず、
 「聞いたか?ユイ姉が明日帰るんだと、オキナワに。」と訊く。
 「いや、ホント?まだ聞いてないけど。」
 「まあ、そりゃぁ聞いてないだろうな。さっき決めたばっかりだ。」
 「何だよそれ。」
 「いや、でな、今日が最後だから、ゑんちゅ小僧が来るのを待って、三人でお別れの乾杯をしようってなってな。で、待たされている。」
 「そうか、じゃあ、僕を待ってたんだ。それはお待たせでした。」

 ユイ姉が戻ってきた。手に何か野菜のようなものを持っている。
 「これから料理するの?」(私)
 「ううん、肴はもう準備してあるよ。これは後で、もう一品用。」と、手に持っていたものを台所に置いて、3つのジョッキにビールを注いで、
 「さて、先ずは乾杯。」とユイ姉が音頭をとり、一人と二匹で乾杯する。
 「明日帰ることにしたんだってね。」
 「うん、お世話になりましたの乾杯だね。」
 「こちらこそお世話になりました、だよ。でも、急だね。」(私)
 「ふと窓の外を見たらさ、木の枝にウグイスがいたのよ。それがホーホケキョって鳴いたのよ。あー、春なんだなぁって思ったら、家が恋しくなったのさ。」
 「春はつがいの季節だからね。家だけじゃなく、人恋しくもなるよね。」
 「うん、そうだね、この島もいいけど、街の喧騒とか人ごみとかが懐かしいね。あんたたちの相手もいいけど、友達や店のお客さんも懐かしいさあ。」

 「ウグイスみたいに、自分のパートナーも欲しくなったんじゃないの?」(私)
 「そうだねぇ、欲しくなったねぇ。」
 「おー、そうか、ついに、ユイ姉の老いらくの恋が始まるか。」(ケダ)
 「あんたねぇ、そんな歳じゃないよ私。」
 「最近流行の言葉があっただろ?アラサーとかアラフォーとか、オメエ、その上だぜ、何て言うんだ、アラフィーとでも言うのか?」(ケダ)
 「知らないよそんなの、ただ、50歳だってまだまだ十分女だよ。」
 「そうだね、これから恋して、結婚なんてことも全然不思議じゃないね。それにユイ姉は若く見えるしね、40手前って感じだよ。相手はいくらでもいると思うよ。」(私)
 「うん、そう。あんたは良いこと言う。さー、飲んで、食べて。」

 ユイ姉の今日の肴は野菜のコンソメスープ煮、畑から採ったばかりの旬の野菜たち。つがいの季節は野菜の季節でもある。タマネギ、セロリなど、どれも美味しい。
 「ユイ姉は料理も上手だしさ、奥さん稼業も楽にこなせると思うよ。」(私)
 「だよね、奥さん向きだとは私も思うんだけどね。さー、もっと飲んで、食べて。」とユイ姉は言って席を立ち、さっき採ってきた野菜を料理しだした。
     
     

  「ユイ姉に足りないのは色気だな。彼女を可愛いと思う男はいるかもしらんが、彼女を見て、体を熱く燃え上がらすような男は、そうはいないと思うぜ。」と、ケダマンが私に言う。それが、ちょうどできた料理を持ってきたユイ姉にも聞こえた。
 「何言ってるのさ、体は燃えなくても心が繋がっていればいいのさ。それが真実の愛ってものさ。二人一緒にいることで日々の生活が楽しければいいのさ。」
 「まあな、枯れたオジサンオバサンには枯れた魅力があるしな。精力を要するアツアツの恋は無用かもな。」とケダマンは言って、出されたばかりの料理を口にし、
  「それに、美人は飽きるけど料理上手は飽きないって言うしな。美味い料理は肉体的欲望を凌駕するってことだな。うん、これも美味いよ、何だこれ?」
 「お褒め頂いてアリガト。それはシマニンニクだよ。あれ?これ精力つくね。」
 「おい、俺に精力付けさせたって、何もできねぇぞ。」
 「バカ言って、あんたには何も期待してないよ。」

 そんなこんなの話題があって、夜になってガジ丸一行もやってきて、さらに賑やかになって、ユイ姉が元の生活に戻って落ち着い頃、みんなで、オキナワのユイ姉の店を訪ねようということに話が決まって、ユイ姉との別れの夜は終わった。
     

 記:ゑんちゅ小僧 2009.3.20


線を楽しむ路

2009年03月20日 | 通信-その他・雑感

 先日、ブルートレイン引退のニュースがあった。速さで新幹線や飛行機に勝てず、利用者が少なくなったということでの引退らしい。ブルートレインの引退、鉄道の無い沖縄に生まれ住み、日常では鉄道をまったく利用しない私にはあまり関係の無いことだが、老兵は去り、英雄も去るみたいで、ちょっと淋しい気はする。
 鉄道の無い沖縄で生まれ育った私だが、実は、若い頃に二度ばかり、ブルートレインに乗ったことがある。30年ほども前の話である。当時、私は東京に住んでいて、従姉一家が九州(熊本、後に北九州)に住んでいて、東京からそこを訪ねる時に一度、そこから東京へ帰る時に一度、ブルートレインを利用している。
 当時の私が、ブルートレインという呼び名を知っていたかどうかはっきり覚えていないが、確か私は、それを寝台特急と認識しており、そう呼んでいたと思う。あるいは夜行列車、または夜汽車という呼び名も好きだった。夜汽車、良い字面で、良い響きである。ブルートレインなんていう名前よりもずっとカッコいいと私は思う。情緒がある。

 倭国へ旅する際、私は沖縄から倭国へ、倭国から沖縄へは飛行機を利用しているが、倭国へ着くと、そこでは鉄道、バス、徒歩で移動する。カッコイイことを言うようだが、私は場所では無く、時間を旅したいと思っている。点から点では無く、点と点を繋ぐ間も楽しみたいと思っている。見知らぬ景色を眺めながら、これから出会うかもしれない楽しいことをあれこれ妄想しながら過ごす時間は気分が良い。
  私は、旅先でレンタカーを借りるなんてことをしない。車を運転していると、脳の大部分が運転に集中するので他の事ができない。音楽を聞く位で、旅の時間を感じることが難しい。途中にある何かに気付くことができない。旅の線を楽しめない。
 私は日常生活でも車の運転が好きでは無い。なので、通勤以外ではなるべく徒歩、またはバスを利用している。私の姉などは近く(徒歩15分位)のスーパーへ行くのにも車を運転していく。「のんびり歩いてなんて、時間が勿体無い。」とのことだが、運転以外にやることのない時間が、私にすれば勿体無い。バスであれば、本が読めるし、文章を書くこともできる。徒歩であれば、途中にある何かに気付いて、写真を撮ることができるし、メモをとることができるし、腰を下ろして、妄想に更けることもできる。
          

  夜汽車に乗って、遠距離恋愛の彼女に会いに行く。彼女には別に好きな男ができたかもしれない、会ったら、どことなくぎくしゃくするかもしれない、などと妄想して何だか切なくなる。あるいは、ビールも日本酒も、私の好物の食材も買い揃えて、明日の料理の準備をしているかもしれないと妄想して、愛おしさに胸がキュンなる。
 席に着き、弁当を広げ、酒を飲み、ほろ酔い気分でそんな妄想に更ける。そういう楽しみが線の旅にはある。線路は、線を楽しむ路というわけだ。・・・夜汽車の旅がしたくなった。が、そうか、廃止となったか寝台列車、残念ですな。
          

 記:2009.3.20 島乃ガジ丸